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第27話

 攻略が始まって一週間が過ぎた。

 その間、何のトラブルも無く生態調査やマッピングなども滞りなく進んでいた。


 生態調査の結果、阿賀野ダンジョンに比べてレベルが高いモンスターが発生するが、ダンジョンフラッドが発生するほどの個体数も確認できないとのことだった。


「これ、新しいダンジョンも一般に開放するんですかね?」


「どうだろうね。でも一般人だけでこのダンジョンに入るってのは少し怖いけど。ダンジョンって何が起きるか分からないし」


 朝食を食べながら、俺は岩瀬さんとそんな話をしていた。


「そういえば詳しく聞かなかったんですけど、一般人がダンジョンに入るのに何か資格とかって必要なんですか?」


「うん。基礎講習を受けるとダンジョンに出入りできる許可証がもらえるみたい。非公式ではあるけど、冒険者カード、なんて呼ばれてるみたい」


「冒険者って……なんかゲームみたいですね」


 異世界帰りの俺からすればそっちの方がしっくり来るんだけどな。


「東京本部にはそういう一般人を護衛する依頼が多いみたいだよ。慣れたら討伐隊員無しで攻略を進めるのが主流なんだって」


「まあ初めは怖いですよね。まあ、阿賀野ダンジョンくらいのレベルなら護衛なんていなくても良さそうですけどね」


 そうしてしばらく朝食を食べていると、この任務の指揮を執っていた白川さんがパンパン、と手拍子を打って注目を集めた。


「朝食を食べているところ申し訳ないんだが、本部から任務を終了するようにと連絡が入った。ダンジョンフラッドの兆候もないし、とりあえずは様子を見るとのことだ」


 急ではあるが、今日安全地帯に設置した野営設備を片付けて東京本部に帰ることになった。

 ようやく地上に戻れることに俺は安堵した。

 異世界にいた頃からダンジョンに長く潜ることは好きじゃなかった。ダンジョンってなんかジメジメしてるし過ごしやすいとは言えないんだよな。


「今回は何もトラブルが起きなくて良かったね」


「毎回トラブルが起こってたらやってられないですよ」


 その後、大急ぎで撤収作業を行うことになった。

 帰り道も、俺と岩瀬さんは後方で世間話をしながら地上に向かうのだった。




◇◇◇




 そうして今回の緊急任務は終了し、俺は栃木に帰れることになった。

 俺は東京を満喫しているであろう三人に連絡することにした。


「もしもし、俺だけど」


『あら、もう帰ってきたの?』


 まるで俺のことを忘れていたかのようにセリーヌはそう言い放った。


「悪いな早い帰りで。一応もう栃木に帰れることになったから合流するぞ」


『分かったわよ……そういえば、あやかも一緒なんでしょ? どうせなら東京で観光でもしない?』


「あー、俺は別に良いけど。聞いてみるわ」


 俺は通話をそのままにして、バスで隣の席に座っていた岩瀬さんに予定を聞いた。


「セリーヌたちが一緒に東京観光しようって言ってるんですけど、大丈夫ですか?」


「ほんと? 行く行く!」


 岩瀬さんは嬉しそうにそう言った。

 セリーヌたちに東京本部近くで時間を潰すように伝えて俺は電話を切った。


「あいつら、一週間も東京にいたのにまだ観光してないところがあるのか……?」


「ほら、でもショッピングとかはまだ分からないって言ってたし、観光スポットにも言ってないんじゃないかな?」


 俺の独り言を聞いていた岩瀬さんはセリーヌたちをフォローするようにそう言った。


 セリーヌたちと観光をすると決まってから、岩瀬さんはやけに上機嫌だった。

 なんであなたたちそんなに仲が良いの?


 そんな疑問を浮かべながらも岩瀬さんに聞くことも出来ず、俺たちを乗せたバスは一時間ほど走り本部へと到着した。


「あ……そういえば私たちの荷物はどうしようか」


「大丈夫ですよ。うちには便利な運送業者がいますから」


 俺がそう言うと、岩瀬さんは納得という表情を浮かべた。

 東京本部に到着後は現地解散とのことだったので、俺たちは借りていた部屋から荷物を運び入口に向かった。


「あやかー!」


 入口にはすでにセリーヌ、マリー、アキュラスの三人が俺たちを待っていた。

 その時、俺は大事なことに気が付いた。


 アキュラスのこと、どうやって説明しよう……。


 北村支部長からは危うく変な趣味認定を受けそうだったし……その誤解も完全に解けたかは不明だ。


 親戚の子供、なんて言っても信じてもらえないだろう。アキュラスはマリーやセリーヌと同じく外国人風の顔立ちをしている。


「マリーちゃん、セリーヌちゃん久しぶりだね! あれ? そっちの子は?」


「そいつはアキュラス。まあマリーたちのような留学生って感じだ」


「留学生? こんな小さな子が?」


 岩瀬さんはすぐに痛いところを突いてきた。そりゃ留学なんて大体大学生がするものだもんな。


「とりあえず近くに喫茶店があったからそこで休みましょう? あやかも疲れてるだろうし」


「それじゃ飲み物でも飲みながら観光の計画でも立てようか」


「そ、そうだな! いやあ、俺も喉がカラカラに乾いちゃってるんだよなあ。ハハハハ……」


 俺は話を逸らすように喫茶店までの道を先頭で歩くことにした。

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