喫茶店に入った俺たちは個室へと案内された。
個室がある喫茶店というのは初めて入ったが、まあ周りを気にせずに話せるのは嬉しいことだ。
「タイチ、どうするです? 岩瀬さんにほんとの事言わないですか?」
店員に飲み物を頼み終わったタイミングで、マリーが小声で俺にそう尋ねてきた。
「いや、そもそも本当の事を言って信じるかどうか……」
「でもこの前の東山さんは信じてくれたです」
「あれは目の前でアースドラゴンを倒してしまったからな。説得力が違うと思うぞ?」
今回、新ダンジョンの任務で俺はかなり大人しくしていたつもりだ。多分、召集された隊員の中でも討伐数はワースト1に近いだろう。
「あ、そうだ。二人の荷物を預かるわよ? このあとその大荷物を持って歩くわけにはいかないでしょ?」
「ありがとうー。ほんと、セリーヌちゃんの魔法ってずるいよねー。他にも色々使えるの?」
「そうね……できないことを挙げた方が少ないかしら?」
「梶谷君も大概だけど、セリーヌちゃんとマリーちゃんも人間やめてるよ……」
岩瀬さんはセリーヌの言葉を聞いて苦笑いを浮かべながらそう言った。
まあ、俺たちの常識はこの世界に通用しないというのは身に染みて分かったところだ。
「じゃあアキュラス君も実はかなりの強者だったりして……」
「「「…………」」」
さすがに俺たち三人はその言葉に顔を見合わせてしまった。アキュラスは一足先に運ばれてきたオレンジジュースを美味しそうに飲んでいる。
まあ、そういう話の流れになるよな。
俺がどう説明しようか迷っていると、セリーヌは大きくため息をついた。
「はあ……もういいでしょ? 話しちゃっても」
「ですです。どうせ後からバレるんですから」
マリーとセリーヌは俺に詰め寄ってそう言った。
いや、近いから。岩瀬さんめっちゃ不思議そうな顔してるから。
「ええ? うーん……まあ口外しないと約束してくれるなら……。岩瀬さん、今から言うことは誰にも言わないって誓えますか?」
「え? どうしたの急に改まって……大丈夫だよ。これでも口は堅いから」
「酒に誓って?」
「誓う……って、そこは神に誓ってじゃない?」
俺は決心して、異世界から帰った勇者であることを話した。マリーやセリーヌ、アキュラスのことを聞いた岩瀬さんは、あまりにもスケールが大きすぎる話を聞いて、鳩が豆鉄砲を食らったように固まってしまった。
しばらく固まっていた岩瀬さんだったが、アイスコーヒーを一気に飲み干すとふう、と一息ついてようやく話し始めた。
「あー、ようやく梶谷君の強さに納得が言ったよ。異世界帰りの勇者とかどこかのおとぎ話みたい……」
「このことを知ってるのは第一支部の東山さんだけなんです。アースドラゴンの討伐後に流れで話したんですよ」
「え? 東はもう知ってるの? 私より先に? 私、これでも梶谷君の教育係なんだけど?」
岩瀬さんはぷくっと頬を膨らませて腕を組んだ。
「いや、仕方ないじゃないですか。そもそも岩瀬さん、忙しすぎて俺と会うことも少なかったし……」
「それはそうだけど……なんか悔しいもん。マリーちゃんとセリーヌちゃんも言ってくれたら良かったのに」
「タイチに止められてたですから。私もセリーヌも言いたくて仕方なかったですよ?」
「そうよ。はあ……なんか胸のもやもやがすっきりした気がする」
マリーとセリーヌも実は言いたくて仕方がなかったらしい。
二人ともすっきりした表情で目の前のパフェを頬張り始めた。
「まあ、俺たち……というか俺はあまり依頼も受けずゆったり過ごしたいんですよね」
「それはもう難しいと思うよ? もう本部に目を付けられたも同然だからね」
今日でまた栃木第一支部に所属が戻ることになるが、東京本部からの依頼も増えていくだろうというのが岩瀬さんの見解だった。
東山さんも以前東京本部に一時的に所属して、現在は日本中の依頼を受けているそうだ。一年の半分以上は栃木第一支部に顔を出せないほど忙しいらしい。
「じゃあ俺もそうなるってことですか……?」
「どうだろう? 東は仕事人間っていうか……情熱的な性格だからね。ほっといたら年中休みなしで依頼をうけるような人だし」
一応所属している支部の依頼が優先とのことだったので、頻繁に東京に来ることは無さそうだ。
「ほら、仕事の話はもういいでしょう? せっかくだしあやかのおすすめ観光コースで東京を案内してよ」
「ごめんごめん。よし、じゃあ張り切って観光しようか」
仕事の話はそこで終わり、岩瀬さんは自分のスマートフォンを取り出して観光スポットの検索を始めた。