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第29話

「わあー! 動物さんがたくさんですー!」


「勇者! 見たことない動物がたくさんいるよ!」


 岩瀬さんが最初に選んだ観光スポットは上野動物園だった。

 そういえば動物園という存在をマリーたちに言ってなかったか。マリーとアキュラスはまるで子供の様に目の前の動物に釘付けだった。


「あまり遠くに行くんじゃないぞー」


「ふふっ、二人とも喜んでくれたみたいで良かったよ」


 岩瀬さんはマリーとアキュラスの様子を見てとても嬉しそうだった。


「あれ? そういえばセリーヌは?」


「お腹が空いたってどこかに買い出しに行っちゃった。すぐに戻ってくると思うよ?」


「あいつ、どれだけ食うつもりだよ……」


 ついさっき山盛りのパフェを食ったばかりだろうが……。

 俺が酒で体を悪くするなら、セリーヌは糖尿病で倒れそうだと思った。


「勇者! すごい首の長い動物がいる!」


「ん? ああ、あれはキリンって言うんだ。そういえばああいう動物は異世界にいなかったもんな」


 異世界出身の三人にとって、初めて見る動物ばかりか。小さい頃に動物園に連れて行ってもらった俺もこういう感じだったのかもな。


「私たちもマリーちゃん達についてまわろうか」


「そうですね」


 そうして、俺たちは園内をゆっくり見てまわることにした。途中でホットドッグなどを買い込んできたセリーヌとも合流し、一時間ほど園内を散策したところで一旦休憩を挟むことにした。


 屋内型のフードコートのようなところで席を確保し、飲み物を飲みながら休んでいるとアキュラスが見慣れないポーチを身に着けていることに気が付いた。


「ん? アキュラス、そのポーチどうしたんだ?」


「あ、これ? セリーヌがさっき買ってきてくれたんだ! いいでしょ!」


 そういってアキュラスはパンダの形をしたポーチを見せびらかしてきた。


「アキュラス、買ってきたのはセリーヌかもしれないがそれは俺の金で買ってるんだからな?」


「え? そうなの? あたしが買ってあげたんだから、って言ってたよ?」


 アキュラスの言葉を聞いた俺は向かいに座っていたセリーヌに視線を送る。

 セリーヌは気まずそうに頭を掻いていた。


「いや、せっかくならお土産みたいなものを買っておいた方がいいかなって」


「お前、そもそもそれなりに戦えるんだからいい加減自分で稼げばいいんじゃないか?」


「嫌よ。毎日マリーと喫茶店巡りしないといけないし、討伐隊に入ったら忙しいんでしょ? あんたが私たちを養いなさいよ」


 セリーヌは開き直ったようにそう言った。

 こいつら、普段なにしてんのかと思ったら喫茶店巡りかよ。金持ちのマダムみたいな趣味しやがって。


 俺が討伐隊に入らず真面目に就職していたとしたら給料日の一週間後には食うものに困ることだったろう。


「じゃあ梶谷君は一家の大黒柱だ?」


「成り行きですけどね……。それに変なのが一人増えたし」


 俺はそう言って隣に座っていたアキュラスの頭をポン、と叩いた。

 岩瀬さんはその様子を見て苦笑いを浮かべていた。


「私も梶谷君に養ってもらおうかなー?」


「キャパオーバーなんで勘弁してください……。それに岩瀬さんがいなくなったら第一支部的には大損害ですよ?」


「分かってるよー。冗談冗談」


 そうしてしばらく飲み物を飲みながら休んでいると、外がやけに騒がしいことに気が付いた。


「ん? なんか騒いでない?」


「なんだろう? ちょっと見に行ってみる?」


 俺たちは席を立ち、ゴミなどを片付けていると園内放送が流れ始めた。



『園内の皆様! すぐに外に向かって逃げてください! ダンジョンスポーンが発生しました!』



 女性職員と思われる、かなり緊迫した放送を聞いた俺たちは、一瞬顔を見合わせるとその場から駆け出した。






◇◇◇





「おいおい……やべえじゃん。セリーヌ、両手剣出して」


「了解」


 園内にはゴブリン系のモンスターが歩き回っていた。

 俺はセリーヌから両手剣を受け取り、近くにいたゴブリンをすぐに殲滅した。


「家族連れも多いはずだし急がないと! マリーちゃんとセリーヌちゃん! 一緒に来て!」


 岩瀬さんはそう言って二人を連れ出しモンスターの討伐に向かっていった。


「アキュラス、まずは人命救助が最優先だ。急ぐぞ」


「はーい……なんか久しぶりの戦闘だなー」


 そうして俺たちは岩瀬さんたちが向かった方角の反対側に向かうことにした。

 移動している最中、モンスターを討伐しながら進んでいると俺は妙な違和感を覚えた。


「なんか、モンスター少なすぎない?」


 以前ショッピングモールで起こったダンジョンスポーンから比べると、園内を歩き回っているモンスターは少なすぎた。岩瀬さんたちが向かった方にはもっとモンスターが多いのかもしれないが、それを加味しても十分の一程度の規模だった。


 小規模なダンジョンスポーンなのか?


 俺が疑問に思っていると、遠くの方でがモンスターと戦闘している女の子が見えた。杖のようなものを持って魔法の詠唱を始めている。


 ん? 討伐隊? あ、いわゆる冒険者ってやつか?


「ファイアーボール!」


「グギャアア!?」


 普通のゴブリンは魔法耐性が貧弱だ。ファイアーボールをまともに食らったゴブリンは体を炎に包まれ、その場に倒れ込んだ。


「ふう、なんとか倒せた……」


 女の子はゴブリンを倒せて安堵している様子だった。

 しかし、その後ろからゴブリンソルジャーが近づいている。女の子は気が付いていないようだった。


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