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第30話

 俺は女の子に近づくゴブリンソルジャーに一気に詰め寄り、認識される前にその首を刎ね飛ばした。


 女の子はそこでようやくゴブリンソルジャーが近づいていたことに気が付いたらしい。


「え? あ、嘘?」


「油断するのが早すぎる。そんなんじゃすぐ死ぬぞ?」


「す、すみません助かりました……。あの、もしかして討伐隊の方ですか?」


「ああ、そうだ。たまたま園内に居合わせたんだ。……もしかして冒険者ってやつか?」


「はい……戦闘経験があったのでなんとかなると思ったんですけど……。甘い考えでした」


 女の子は落ち込むように項垂れてしまった。もしかしたらダンジョンに入って間もない初心者なのかもな。


「とりあえず俺に付いてきてくれるか? こっちのモンスターは粗方倒したし、俺の連れと合流したい」


「分かりました。あの、ご迷惑でなければお願いがありまして……」


 そう言うと女の子は小型のカメラを取り出した。


「私、配信者をやっているんです。園内の様子を撮影しても良いですか?」


「ちゃんとついてこれるのなら構わないぞ。あ、でも他に一般の人がいるかもしれないから生配信は避けた方が良いんじゃないか?」


「そうですね。ではよろしくお願いします。私、東山美湖です」


「梶谷だ。とりあえず先を急ごう」


 美湖、と名乗った女の子はそうしてすぐにカメラを構えた。

 そういえば冒険者の中にダンジョンの様子を配信している人がいるって岩瀬さんが言っていたな……。なんか、撮られてるって思うとやりにくいかも。


 俺はカメラを意識しないように、岩瀬さんたちの元へ急ぐことにした。




◇◇◇




 しばらく走り続けると、遠くで岩瀬さんたちが救助活動を行っているのが見えた。

 どうやらモンスターの討伐はすでに終わっていたようだ。


「こっちは大丈夫でしたか?」


「あ、梶谷君。それが変なんだよ……。ダンジョンスポーンのはずなのに発生源の渦がどこにも見当たらなくて……。そっちに無かった?」


「いや、俺は見てないですけど……美湖ちゃんは?」


「いえ、私も見ていません」


 俺たちがそう言うと、岩瀬さんはますます不思議そうな顔をしてしまった。


「じゃあどこからモンスターが……? まあ原因究明はあとだね。ところで梶谷君? その女の子はどちら様?」


「あ、ごめんなさい。私、冒険者として活動している東山美湖って言います。梶谷さんには危ないところを助けていただいたんです」


「普段配信者として活動しているらしいですよ? あ、生配信じゃないんで不都合があればアップロードもやめてもらいますけど……」


「え? ううん、私は大丈夫だよ。今討伐隊にも要請を掛けてるから、ケガ人の搬送とかは任せちゃおうか。幸い軽症者だけで済んで良かったよ」


 間もなくして、園内に討伐隊から派遣された救助隊がやってきた。ケガ人はマリーの回復魔法によって完治はしているが、一応メンタル面のケアも必要だろうということで病院に搬送されるそうだ。


「私たちは園内の調査に入ろうか。ダンジョンスポーンの原因がわからないままって訳にもいかないからね」


「分かりました。手分けしてみんなで異常がないか調べます」


 そうして俺たちは園内の調査を始めた。

 美湖ちゃんは撮影を続けたいとのことだったので俺に付いてくるとのことだった。


「そういえば梶谷さんは討伐隊のどちらの所属なんですか?」


「俺? 栃木第一支部だよ。東京には本部に用事があって来てたんだ」


「え!? 栃木第一支部なんですか! 私の兄も栃木第一支部所属なんですよ?」


 俺が栃木第一支部所属だと知ると、美湖ちゃんはかなり驚いた表情を浮かべていた。

 てか、東山さんって妹さんいたの? 全然顔似てないんだけど。

 東山さんも美湖ちゃんもかなり整った顔立ちをしているが、東山さんは彫りの深い顔なのだ。美湖ちゃんはまだ幼さの残るお人形のような可愛らしい顔立ちだ。


「え? 東山さんの妹さんなの? あれ? それなら美湖ちゃんはなんで東京に?」


「あ、もともと地元は東京なんですよ。兄は討伐隊に入隊した時に栃木第一支部に配属されたんです」


「へえ、そうなんだ。妹がいるなんて一言も言ってなかったけどなー」


 まして冒険者兼配信者、なんて結構話題に挙げやすいと思うんだが。


「実は兄には内緒で冒険者になったんですよ。兄、あれでも結構私のことになると心配性なので、冒険者になりたいなんて相談したら猛反対されるに決まってますから」


 美湖ちゃんはそう言うと苦笑いを浮かべていた。

 東山さんは結構妹思いなんだな。


 そんなことを話していると、近くにいたアキュラスが何かを見つけたようで俺の方に向けて手を振っていった。


「どうした?」


「見てこれ。かなりでかい魔石。大型モンスターのものだと思うんだけど、なぜか仲の魔力がすっからかんでさ」


 アキュラスが発見したのは三十センチはあろうかという黒ずんだ魔石だった。

 属性によって色は違うが本来であればもっと鮮やかに輝くものが多い。


「……てか、このサイズの魔石のモンスターって相当倒すのに苦労するだろ?」


 これ、サイクロプスとかアースドラゴンレベルのサイズだぞ? なんでそんな魔石が動物園に?


「なんか細工されてるっぽいんだよね。勇者、魔法とか詳しくない?」


「俺はほとんど分からん。ちょっとセリーヌに調べてもらうか」


 俺たちは見つけた魔石を持ってセリーヌの元に向かうことにした。

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