「たしかにちょっと変ね……」
発見した黒い魔石を調べていたセリーヌは怪訝そうな表情をしていた。
「俺にはさっぱり分からないんだよな……」
「あんたは剣を振る脳筋担当なんだから仕方ないわよ」
「え?」
今とんでもない悪口を言われた気がするんだけど気のせいじゃないよね? ただ魔法があまり得意じゃないってだけなんだけど?
「ていうか、どこが変なんだ? アキュラスは細工がされてるって言ってたけど」
「中の魔力を外に放出するような細工がしてあるのよ。これだけの大きさの魔石なら使い道もたくさんあるのに、ね。中身はもうすっからかん。普通の人ならもったいなくてそんなこと少しも考えないわよ」
「うーん……でもダンジョンスポーンの原因はこれぐらいとしか思えないんだよな……」
結局、動物園の中に魔石以外の異変は見当たらなかったようだ。念のため、しばらくの間東京本部から討伐隊員が派遣されることになったが、動物園にあるわけがない空の魔石が原因としか考えられなかった。
「アキュラス、お前こういう現象って詳しくないの?」
「いやあ、ボクって結構自由奔放に暮らしてたからねえ。あ、でも一つだけこれに近い魔道具を見たことがあるよ?」
「魔道具?」
「知り合いに魔道具作りに熱心な奴がいてさ。そいつが作った魔道具の中に、意図的にモンスターを発生させる魔道具があったと思ったなー。なんか、魔石の魔力からモンスターを作れるって言ってた気がする」
「いや、百パーセントそれじゃん」
めちゃめちゃ重要なことじゃねえかよ。もっと早く言え。
「じゃあ、意図的にダンジョンスポーンを発生させる魔道具がこの世界にも存在するってことじゃない」
「まあ、アキュラスの話が本当ならそういうことになっちまうな」
さすがに俺たちで判断できる事象じゃないと思ったので、とりあえず岩瀬さんに報告することにした。
結構近くの
「……ということだったんですよ」
俺の報告を受けた岩瀬さんはかなり焦った様子だった。ダンジョンスポーンが意図的に起こされた可能性があると聞けば誰もが驚くだろう。
「それが本当ならかなりの大事件だよ……! 本部の人に報告してくる」
そうして岩瀬さんは動物園に派遣された東京本部の討伐隊員の元へ走っていった。
しばらく待っていると、報告を受けた岩瀬さんが戻ってくる。
「お待たせー。本部の方でも魔石を解析したいみたいだから、あとで本部の隊員に渡しておいて欲しいんだって」
「分かりました。あとは本部の人たちに任せますか?」
「そうだね。はあ、なんかせっかくの休みなのに疲れちゃったな……」
「まさかこんなことになるなんて思わなかったですからね。とりあえず、夕飯を何にするか考えますか」
いつの間にか日も暮れ始め、空は橙色に染まっていた。
俺と岩瀬さんは大きなため息をつき、他のみんなと合流することにした。
◇◇◇
「今日はみんなお疲れさまでしたー。乾杯!」
「「「乾杯ー!」」」
夕食は全席個室の居酒屋になった。
色々考えなければならないことはあるが、ひとまずは酒を飲まなきゃやってられない、と俺がみんなを説得したのだ。
訪れた居酒屋は個人経営らしく、店内は和風の内装で落ち着いた雰囲気だった。ネットで調べた限りだと結構お高めのところらしい。まあ、今日は頑張ったから奮発しても良いだろう。
「すみません、私もお邪魔することになっちゃって……」
冒険者の美湖ちゃんは少し申し訳なさそうにしていた。
東山さんの妹さんだし、まさかあんなことがあったあとに一人で帰すのは悪いと思ったのだ。
酒は大人数で飲むほどうまいのだ。
「良いんだよ。そういえば美湖ちゃんって今何歳なの?」
「先月二十歳になりました。もうお酒も飲めますよ?」
「え? 嘘? 高校生くらいかと思ってた」
正直、美湖ちゃんはかなり幼く見える。今日初めて見たときは完全に未成年だと思ったくらいだ。この見た目でお酒を飲んでいたら間違いなく未成年飲酒を疑われるだろう。
「良く言われるんですよね……ひどい時には中学生と間違われたりしますし……」
「まあ、若く見られるのは悪い事じゃないだろう? そういえば今日撮影した動画ってもうアップロードしたのか?」
美湖ちゃんが若干いじけるような素振りを見せていたので、俺は話を変えるために美湖ちゃんの配信関係について尋ねることにした。
「さっきMeTUBEに動画を上げましたよ。皆さんモザイクとかもいらないって言うんでほとんど編集はしていないですけど……」
「タイチ、その動画ってみんなが見れるですか?」
「MeTUBEは世界中の人が見れるサイトだからな。今見てみるか?」
美湖ちゃんは上野動物園、ダンジョンスポーンで調べると出てくるはずと言ったので、俺はその通りに検索する。
すると検索欄のトップに美湖ちゃんの動画と思われるものが表示された。チャンネル名はみこみこチャンネルというらしい。
「おー、もう百万再生もされてるのか。美湖ちゃんのチャンネルって人気なんだな」
「え? 百万……? そんなはずは……」
俺が再生数に言及すると、美湖ちゃんは疑うように自分のスマートフォンを取り出した。
「嘘……ほんとに……? 今まで一万再生がやっとだったのに」
「じゃあ一躍時の人だね! あ、でもあまり拡散されると東にバレちゃうか」
岩瀬さんは嬉しそうに美湖ちゃんを褒めていた。
東山さんもきちんと説明すれば許してくれそうだけどなあ。
「すごい、通知が止まらない……」
「じゃあ、改めて乾杯するか! 祝、みこみこチャンネル百万再生に乾杯!」
そうして、二時間ほど楽しい夕食の時間は続いていった。