俺は育成の前に新入隊員の名簿を確認することにした。
泉 雪菜
身長 154センチ
体重 48キロ
スキル 回復魔法 魔力自動回復
志望 後衛 回復魔法による前衛の補助
岡 茜
身長 160センチ
体重 52キロ
スキル 敏捷 縮地
志望 前衛 薙刀経験あり
熊谷 遥
身長 142センチ
体重 47キロ
スキル 聖騎士
志望 おまかせします
高野 純
身長 168センチ
体重 58キロ
スキル 火魔法
志望 後衛 魔法使い
富岡 まい
身長 162センチ
体重 54キロ
スキル 剣聖
志望 前衛
樋口 早紀
身長 145センチ
体重 44キロ
スキル 精霊魔法
志望 後衛 魔法使い
松山 奈々
身長 145センチ
体重 46キロ
スキル 回復魔法
志望 回復専門
宮田 翔太
身長 165センチ
体重 59キロ
スキル 剣術 火魔法 風魔法
志望 魔法剣士
村上 武志
身長 187センチ
体重 78キロ
スキル 剛腕
志望 突撃!
矢野 真吾
身長 178センチ
体重 70キロ
スキル 光魔法 闇魔法
志望 どこでも
男性四人、女性六人の計十名。
スキルの数は少ないが、訓練を続けていけば一つや二つは新しく発現するだろう。
前衛を希望しているのは岡、富岡の二名……村上や聖騎士持ちの熊谷も含めたら四名か。
というか、村上の志望の突撃って何だよ。
「村上?」
「はい!」
名前を呼ぶと人一倍元気が良さそうな大男が返事をした。討伐隊の制服の上からでもわかるほどに筋肉が付いているのが分かる。
「君の志望に突撃、と記載されているんだがこれは何かの間違いか?」
「いえ! 間違い無いです! 前線に飛び込んでモンスターを殲滅したいと考えています!」
「……じゃあ前衛志望だな」
ザ・脳筋という第一印象を持ってしまった。
ただ、元々恵まれた体格に剛腕というスキルを持っているのはかなり前衛向きだと言える。
剛腕はパッシブスキルの内の一つで、魔力などの消費が無い。その上で攻撃力が数倍に跳ね上がるというスキルで、異世界ではトップクラスの冒険者が持っていることの多いスキルだった。
「岡、熊谷、富岡、村上の四人は俺に付いてきてくれ。他の六人はマリーとセリーヌから教えてもらう」
そうして俺は四人を連れて、訓練場に併設されている武器庫に向かうことにした。
「とりあえず前衛は武器を選ばないといけない。自分の命を預けることになるものだから、この先じっくり時間をかけて選んだほうが良い」
「あの……梶谷教官、とお呼びすればよろしいでしょうか」
俺が武器の説明に入ろうとすると、富岡まいがそう尋ねてきた。
「別に好きに呼んでくれて良いぞ?」
「では梶谷教官、とお呼びします。そもそも自分に合った武器というのがまだ分からないのですが……」
「自分が使いやすいと思った武器で良いぞ? 富岡は……剣聖のスキル持ちだったな。それなら片手剣、両手剣、大剣のどれかが良いとは思うな」
「分かりました……力に自信がないので片手剣にしてみます」
そうして富岡は片手剣を手に取った。
岡は槍、村上は大剣を手に取り、訓練場に向かっていったが、熊谷はまだ悩んでいるようで一人武器庫内に残っていた。
「梶谷教官、聖騎士というのはどのようなスキルなのですか?」
「簡単に言えばタンク役かな……あ、タンクって分かる?」
俺の問いに熊谷首を横に振った。
「RPGゲームとかやったことない?」
「ゲーム自体やったことがないですね……」
「あー、なんて言えばいいかな。敵の攻撃を自分に集中させて、他の仲間が攻撃をする隙を作るって感じかな」
「え……私ばかり攻撃されちゃうんですか……?」
説明を聞いた熊谷は不安そうな表情を浮かべた。
自分のスキルとかって説明されるものじゃないのかな……?
「入隊の時にスキル判定受けなかった?」
「もちろん受けました。ただ、日本で初めて確認されたスキルということで担当された職員の方も詳しくは知らないと」
「え? 聖騎士が?」
向こうの世界だと騎士団の幹部クラスにはそれなりにいたと思ったが……こっちの世界だとまだスキルの数が少ないのか?
「まあそれなら仕方ないな。大丈夫だ。聖騎士のスキルはその分自分を守ることに長けているし、もちろん危険な立ち回りだが慣れたらほとんどの攻撃を受け止めることができるようになる」
そうして俺は大型の盾と槍を取り出した。
「基本的にはこういう大きい盾を使って敵の攻撃を受け止めて、隙があれば縦の横から長い槍で攻撃にも転じられる」
「な、なるほど……。あれ? 思ったよりも軽いですね」
「ダンジョン産の素材で作られている盾だからな。とりあえずこれでやってみて、問題があれば違う方法を考えよう」
こうして、前衛を担当する隊員の武器選択が終わり、ようやく育成が始められる段階になった。
「まずは自分が使う武器に慣れてもらう。今日は素振りがメインになるな」
「「「分かりました」」」
「じゃあアキュラスは熊谷、富岡、村上のそばで教えてやってくれ。岡は武道経験があったよな?」
「はい。実家が薙刀道場を営んでいます」
「よし。岡は別メニューだ」
そうして俺は他の三人とは離れた場所で岡を指導することにした。
「あの、なぜ私は別メニューなのでしょうか?」
「基礎は出来ているはずだからな。ただ、武道経験者は必ず直さないといけない部分があるんだよ」
「直さないといけない部分、ですか……?」
岡は思い当たる節も無いのか、首を傾げてしまった。
「じゃあ聞くけど、道場でモンスターと戦う前提の戦い方を習ったか?」
「……あ」
「ゴブリンのような人型モンスターならともかく、四足歩行のモンスターは低い位置から攻撃を仕掛けてくる場合も多い。長年やってきた癖ってのはなかなか抜けないからな。また一から覚えるつもりでやっていくぞ」