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第42話

「うおおおおおおおお!!!」


 ダンジョン内に、村上の雄叫びが鳴り響く。ブラックウルフの群れに向かっていき、休むことなく攻撃を続ける。

 当然、二十体を超えるモンスターを相手に一人で戦えるわけもない。

 すぐに村上の周りをブラックウルフが囲もうとする。


「熊谷、スキル」


「はい! 『挑発』!『不落の要塞』!」


 敵のヘイトを集めるスキル、挑発を発動し、ブラックウルフのヘイトは聖騎士持ちの熊谷へと集まる。


「ひいいぃぃ……」


「そんなに怯えるな。不落の要塞は相手の攻撃を九割軽減できるスキルだ。攻撃をもし受けたとしても子犬に遊ばれてる程度にしか感じないはずだ」


「そうは言ってもやっぱり怖いですよ……き、来たあ……!!」


 怯える熊谷の元に、ブラックウルフは走り出していた。

 挑発によって熊谷だけにヘイトが集まることにより、他の隊員の攻撃が簡単に通るようになる。


「ファイアーアロー!」


「ホーリースピア!」


熊谷の後ろに控えていた高野純の火魔法、矢野慎吾の光魔法により、ブラックウルフは次々と討伐されていく。


「じゃあ富岡、とどめ」


「はい、『剣技・乱舞』!」


 剣聖スキルからのみ派生する剣技シリーズ。剣技・乱舞によってブラックウルフの残党は一匹足りとも残さずに討伐された。


「よし、終わったな。結構良かったんじゃないか? 高野も矢野も魔法を使うタイミングはばっちりだ」


「「ありがとうございます!」」


 高野と矢野は俺の言葉を聞き、嬉しそうにハイタッチした。

 意外とセリーヌの育成の成果が出ているようで、下層に到達したのにも関わらず疲れた様子も見せていない。


 俺たちは現在、栃木県内にあるダンジョン、燕ダンジョンにやって来ていた。すでに燕ダンジョンの下層を攻略しており、隊員たちのチーム編成を変えつつ戦闘経験を積ませていた。


 正直、すでに三級隊員くらいの実力に育成できたのではないかと思う。

 以前、玉ヶ門ダンジョンでブラックウルフが出現した時には他の隊員も苦戦していた。しかし、俺やセリーヌたちが育成した隊員たちは良い連携で安定的に討伐できている。


 みるみる成長しているが、逆に他の隊員が育っていないのはなぜなのかと疑問が生じてしまう。五級から四級に昇級するのも一年近く掛かるなんて話を聞いたことがあったが、俺たちが育成すれば二カ月も経たないうちにここまで育つのだ。


 意外と討伐隊ギルドも伸びしろが多いのかもしれないな。


「そろそろ安全地帯まで戻るぞー。今日はこのまま地上に戻って寮に帰るからな」


「「はい!」」





◇◇◇





「あれ? 支部長じゃないです?」


 隊員たちを連れて寮に着いた時、横を歩いていたマリーが寮のエントランスで腕を組んで壁にもたれかかっている支部長を見つけた。


「珍しいな……。俺たちに用があるのかね?」


 聞いた方が早いと思った俺は、一足先に支部長の元へと向かった。


「お疲れ様です。なにかあったんですか?」


「ああ梶谷君、お疲れ。ちょっと君に確認したいことがあってな」


「確認したいこと?」


「話は長くなる。君のバーカウンターを貸してもらおうか」


「え? でも店の支度が……」


「そんなもの他の人に頼むんだな。ほら、行った行った」


 俺を急かすように支部長は背中をぐいぐいと押してくる。促されるようにバーカウンターに向かった俺はひとまずカウンター内の椅子に座り込んだ。


「一応ダンジョンから帰ってきたばかりなんですよ? 少し休ませてくれても良いじゃないですか」


「話したいことは山ほどあるんだよ……。まず、梶谷君は新入隊員を連れてどこのダンジョンに行ってきたんだ?」


「え? 燕ダンジョンですけど……」


 俺が隊員の育成に選んだ燕ダンジョンの名前を出すと、支部長は手で顔を覆ってしまった。


「はあ、やはり本部からの報告は間違いなかったか……」


「なんで新入隊員の育成に本部から報告が入るんですか?」


「あのな……どこに新入隊員の育成に三級ダンジョンを使う奴がいるんだ? しかもダンジョンの受付も適当に済ませただろう?」


「あいつらならそれなりに戦えると思ったんですよ」


 まあ燕ダンジョンの受付は書類を提出してから逃げるように中に入ったのは否定しない。後ろから制止するような声が聞こえた気もしたが、俺は無視したのだ。


「なんのためのクラス分けだと思ってるんだ? 五級隊員が三級ダンジョンに入ってしまったと俺に報告が入ったんだぞ? それで詳しく話を聞いてみたらチームリーダーとして君の名前が記載されていると言われてな……」


「じゃあ本部にもその報告が行ってしまったってことですか?」


「そういうことだ。ただ、全員ピンピンして帰ってきたところを見る限り君の眼は間違っていなかったということなんだろうがな……。急で悪いが明日の朝東京本部に向かってもらう」


「え? 明日ですか?」


 聞き間違いと思い、俺は支部長に聞き返してしまった。何? 本部でお説教でもされるのか?


「もちろん君だけじゃなく、今回燕ダンジョンに向かった新入隊員もだ。新人育成に携わった人物も全員ということだからマリーさんセリーヌさんもってことになる」


 ということはアキュラスも連れていかないといけないのか。あいつ、最近メイド服ばかり着てるから外に出ると目立つんだよな。


「なんか大事ですね」


「……ここまできて他人事なのは肝が据わっているのか馬鹿なのか分からんぞ?」


 支部長は呆れるようにため息をついてそう言った。

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