翌日、俺たちは始発の新幹線に乗って東京に向かった。
いきなり東京本部に行くことになったと知り、隊員たちはかなり驚いていた。朝が早いからか、皆眠そうな顔をしている。
「ふあぁ……もう、なんで朝早くから東京なのよ」
新幹線の車内でセリーヌは大きくあくびをして不服そうにそう言った。
「詳しいことは本部に行ってみないと分からん。多分燕ダンジョンに新入隊員を連れてったのが問題なんだろうけどな」
「あのくらいのダンジョンでごちゃごちゃ言われたくないわよね。隊員を強くするのに手段を選んでいるから他の隊員も弱いままなのよ」
「絶対に本部に行ってからそんなこと口にするなよ?」
そんなことを本部の人間に言えば百パーセント空気が凍りつく。歯に衣着せぬ言い方はセリーヌの良いところでもあり悪いところでもある。
どちらかと言えば悪い方に転がる方が多いんだけど。
◇◇◇
東京本部に着いた俺は受付の職員に声を掛けた。
「栃木第一支部から来た梶谷ですが……」
「はい。話は伺っております。ただいまご案内しますね」
そうして俺たちは一階にある会議室に案内された。
中に入ると、そこには見知った顔の人物が二人いた。
「あれ? 東山さんに岩瀬さん?」
「あ、梶谷君久しぶり!」
俺の顔を見るや否や岩瀬さんは元気に手を振った。朝から元気だなこの人。
「おはようございます。でもなんで岩瀬さんと東山さんが?」
「そうだよお兄ちゃん。いるならいるって連絡してくれても良いじゃない」
今回同行していた美湖ちゃんも実の兄がいることに驚きを隠せずにいた。
「実は俺たち、東京本部に所属することになったんだ」
「そうだったんですか?」
言われてみれば最近寮で岩瀬さんを見かけないと思っていたのだ。なるほど、活動拠点が変わったせいか。
「もう、少しは人に関心を持ってよ」
岩瀬さんは少し拗ねたようにそう言った。
いや、別に忘れていたわけじゃないよ? ほら、俺も忙しかったし。
「本部でも梶谷君たちの話が話題になってね。新入隊員を三級ダンジョンに連れ込むヤバい奴がいるって」
「話を聞いてみたら梶谷君のことなんだもん。びっくりしたよ」
「二人ともそんなに俺を極悪人扱いしないで下さいよ」
しかし本部でも話題になってしまうということは、やはり隊員の育成方法が他に比べて強引なのかもしれない。辞める気は無いけど。
「まあ美湖も世話になってるみたいだから、いっそのこと東京に連れてこようと思ったんだ。実力は問題ないみたいだし」
「じゃあ俺たちを呼びつけたのは……」
「ああ、俺たちだ。北村支部長には本部の職員から連絡しておいたから俺たちが関与しているとは思っていないだろうけどな」
東山さんは悪そうな笑みを浮かべてそう言った。この人、実はイタズラとか好きなんじゃないだろうか。
「改めて自己紹介をしよう。東京本部二級隊員、東山迅だ。こっちが同じく東京本部二級隊員の岩瀬あやかだ」
「よろしくねー」
「早速だが君たちを招集した用件を説明するか……。とりあえず皆その辺の椅子に座ってくれ」
東山さんに促され、俺たちは近くにあったパイプ椅子に腰を掛けた。その間、東山さんは会議室内の照明を落とし、プロジェクターで資料を映し出した。
「結論から言おう。ここ最近、テロまがいの事件が多発している」
「テロ……?」
「でもそんなことニュースにもなっていないよね?」
東山さんの衝撃発言に隊員たちはざわめいた。俺もテロまがいの事件が起きていることなんて聞いていなかったから少し驚いていた。
しかし、心当たりが無いわけじゃない。
「もしかして、以前のダンジョンスポーンの件ですか?」
「ああ、梶谷君の言う通りだ。もう主犯も割れている。最近勢力を伸ばしている宗教団体、メイヴェラ教のメンバーが意図的にダンジョンスポーンを発生させていることが最近の調査で判明した。メイヴェラ教から犯行声明は出ているわけでは無いので目的は未だに不明だ」
「メイヴェラ教って?」
「ほら、たまに駅前とかでモンスターを開放させようとする演説をしている怪しい人たちがいたでしょう?」
隊員の中にはメイヴェラ教を知らない人もいるようだった。隊員たちのやり取りを見る限り、勢力を伸ばしているとは言え世間からの認知度はまだ低いのだろう。
「意図的なダンジョンスポーンを防ぐため、原因となる高濃度の魔石を発見する魔道具を本部で作成したんだ。まだ試作品の段階で、だいたい一キロメートル以内に入らないと探知できないし、魔石がある方向を示すだけの簡易的な魔道具なんだ」
「随分アバウトですね……。じゃあ俺たちが集められたのは……」
「人手不足の解消、ってところかな」
岩瀬さんは苦笑いを浮かべてそう言った。まあ、新入隊員に任せる仕事としては十分か。
「そういうことで、今日からチームを組んで活動してもらう。人数は任せるがメイヴェラ教のメンバーと鉢合わせになった場合戦闘になる可能性もゼロではない。回復要員などは必ず戦闘に向いたスキル持ちと組んでくれ」
「「了解」」
すぐに隊員たちはワイワイ騒ぎながらチーム分けを始めた。
俺はその様子をぼーっと眺めながらパイプ椅子を前後に揺らして待っていた。
「おい、何を他人事みたいに待ってるんだ? 梶谷君も現場に出るんだよ」
「え? 俺もですか?」
てっきり俺は引率要員かと思っていたので、しばらくの間東京でどうやって時間を潰そうかと悩んでいたところだったが、まさか俺も魔石探しに駆り出されるとは思ってもいなかった。
「梶谷君は美湖と組んでくれ。一番安全だからな」
「え? 美湖ちゃんとですか?」
「なんだ? 俺の妹じゃ不満か?」
「いえいえ滅相もございませぬ」
そんな怖い顔をしないでください。この人、こう見えてかなり美湖ちゃんを溺愛しているみたいだな。
「でも安全面を考えるなら他にもメンバーを加えた方が良いんじゃないですか?」
「私は梶谷さんと二人で良いですよ? 梶谷さん、めっちゃ強いじゃないですか」
「美湖も良いって言うしよろしく頼む。あ、くれぐれも美湖に手を出したり……」
「しませんって! 人のことなんだと思ってるんですか!」
こうして、半ば強制的に美湖ちゃんと魔石探しの任務を受けることになってしまった。