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第45話

「ファイアーアロー!」


『ブモオオオオオ!?』


 美湖ちゃんが放った火魔法は、リトルボアというイノシシ型のモンスターの体を直撃しする。リトルボアの身体は一瞬にして燃え上がり、断末魔の叫びをあげて倒れた。


「やったー! 梶谷さん! また一撃で倒せました! 前より戦いやすくなってます!」


 美湖ちゃんはモンスターを倒すたびにかなり喜んでいた。どうやら訓練の成果が出ているようだ。

 他の新入隊員よりも遅く合流したのにみるみる成長していく姿を見てセリーヌも少し驚いていたな。


『また一撃ですよ……』


『火魔法っていうより火炎魔法くらいの火力が出ていると思うけど……詠唱はファイアーアローなのに』


『この顔であんな火力の魔法ぶっ放すのおもろいwwwwww』


 配信を見ていた視聴者もドン引きである。

 どうやら以前の美湖ちゃんは苦戦しつつとなんとか倒す、というような実力で見ている方もドキドキしていたらしいが、今はそんな姿は想像もできない。

 初見で見る人は一線級の冒険者だと勘違いするのではないだろうか。


「これなら十五階層以降もなんとかなりそうですよね?」


「まあ、実力試しに行ってみるのもありだと思うぞ」


 過信は禁物だが、自信を持つことは美湖ちゃんの成長にもつながるだろう。


 最悪何かあれば俺が対処できるだろう。まあ、配信中だからできるだけ美湖ちゃんに対処してほしいところではあるけど。


「じゃあサクサク進みましょー!」 


『なんかいつもより楽しそうだ』


『そりゃこんだけ簡単にモンスターを倒せるもん楽しく無いわけない』


『こんなスピードで進む配信なかなか無いよな?』


『この討伐隊の人の出番は無さそうだな』


 テンションの高い美湖ちゃんの様子にコメント欄も好意的な意見が目立つ。

 最初に俺のことをとやかく言っていた視聴者もいなくなったのかもしれない。


 そうして、その後三時間ほどで十四階層まで到達することができた。十四階層は広大な安全地帯となっており、ちょっとした町のようになっていた。


「ダンジョンの中に町がありますよ!」


「へえ……すごいな」


「もう、なんでそんなにテンションが低いんですか? もうちょっと楽しそうにしてくださいよ」


「いや、一応配信中なんだからな? 俺のことじゃなくて視聴者を気にしないといけないんじゃないか?」


『討伐隊員ど正論wwwwww』


『美湖ちゃんが楽しそうならなんでもいいや笑』


『この隊員さん彼女に買い物付き合わされてる彼氏みたいだな』


「あ、そうでした。てへっ」


 てへっ、じゃねえよ。


「じゃあ少し十四階層を散策しましょうか。視聴者のみんなは見てみたいところある?」


『十四階層って何があるんだ?』


『なんでもあるんじゃない?』


『武器屋、武器屋』


『お店見てみたい』


「お店とか武器屋を見てみたいって視聴者が多いぞ?」


 というか、ダンジョン内に武器屋もあるのか。万が一刃こぼれや破損があった時に助かるな。


「じゃあ今日は武器屋さんを覗いてみようかな? 私に合う杖があれば嬉しいんだけど」


 そう言って美湖ちゃんは武器屋がある方へ歩き出した。十四階層には三つほど武器屋が出店しているらしい。


 俺たちはまず価格帯がお手頃なアライズという店舗に向かうことにした。


『美湖ちゃんの杖ってどこ製?』


『どうみても初心者用だけど』


「美湖ちゃん、視聴者が使ってる杖の詳細を知りたがってるよ」


「この杖ですか? これは近所の武器屋さんで値引きされてたものです。冒険者になりたての頃は使えるお金が限られてて……」


「それ、買い換えた方が良いんじゃないか?」


 要するに処分セール品みたいなやつだろう? 絶対ロクなもんじゃないって。


『セール品であの魔法ぶっ放してたのか……』


『魔法効率悪くね?』


 コメント欄にもセール品の杖を使っていたと知り心配するようなコメントが送られていた。


「でも今日はあまりお金を持ってきていないから、買うとしたら地上のお店になるかなー。今日は下見ってことで」


 そんなことを話していると、いつの間にかアライズの前に到着していた。あまり品揃えが良く無さそうな、小さな店舗だった。


「……一応見てみるか?」


「ま、まあ杖が無いとも限りませんし……」


 そうして俺たちは店内に入ることにした。余計なトラブルを避けるため、撮影ドローンは店外で待機させていたが、三分も経たない内に俺たちは店から出てくることになった。


『あれ、もう出てきた』


「えー、残念なことに杖はありませんでした……。近接戦闘用の武器を主に扱っているみたい」


『杖って基本的にダメになることは無いんだっけ?』


『魔力効率を上げる触媒、みたいなことを聞いたことがある』


『あるとしたら中村屋か?』


 俺はあまり魔法に詳しくないからよく分からないが、確かにセリーヌから杖が壊れたってことを聞いたのは数える程度しかない。

 壊れた原因はセリーヌの魔法に耐えられなかったかららしい。

 通常ならダンジョン内で買い替えが必要になることは稀なのかもしれない。


「コメント欄で中村屋ならあるかもしれないってコメントがあるけどどうする?」


「中村屋は高級なお店なので遠慮しておきます。梶谷さんが買ってくれるならぜひ連れていってください」


「お兄さんに頼みなさい」


 高級なものを買わされると知ってのこのこついて行くわけないだろうが。

 でも今の美湖ちゃんなら近いうちに稼げるようになりそうだけどな。


「じゃあ今日は十五階層の様子を見てから帰りますか」


『お、ついに十五階層か』


『マジで気をつけてほしい』


 十五階層に向かうと聞き、一応俺も気を引き締めることにした。何があるか分からないし油断しないことにしよう。


 そうして俺たちは十五階層に続く階段を降りていく。今までテンションが高かった美湖ちゃんも先ほどとは別人のように気を張っているのが伝わってくる。


「……着きましたね」


 十五階層は今までの洞窟型のダンジョンとは違い、広大なフィールド型のダンジョンが広がっていた。どういう仕組みかは分からないが、こういうフィールド型ダンジョンには空もある。


「一応忠告しておくけど、今までは前と後ろだけを気にしておけば良かったかもしれないが、フィールド型ダンジョンはどこから奇襲を受けるか分からない。いつも以上に気を引き締めていこう」


「……はい、分かりました。今日は十分くらい滞在して帰ろうと思います」


 そう言うと美湖ちゃんは慎重にダンジョンを歩き始めた。

 俺の忠告通り、常に周りに意識を向けて歩いている。チームを組む時、探知系のスキルを持っている人がいると余計に気を張らなくて済むから便利なんだけどな。

 俺は気配察知ってスキルを持っているが、美湖ちゃんの成長のためにも黙って見守ることにした。

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