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第47話

「みんな一ヶ月お疲れ様でした」


「他の隊員が集めたのも合わせると五十個近い魔石が手に入った。逆に言うとこれが見つけられなかったらダンジョンスポーンが頻発していたことになる。本当に助かったよ、ありがとう」


 結局俺たち栃木第一支部のメンバーは一ヶ月もの間東京に滞在していた。

 その間、隊員たちも東京にあるダンジョンで実践形式の訓練を行うこともできたし一石二鳥だった。


「支部長にも助かったと報告しておく。栃木に帰ってゆっくり体を休めてくれ」


「「「はい!」」」


 岩瀬さんや東山さんから感謝されて隊員たちは嬉しそうだった。急遽決まった東京遠征は良い形で終わることができた。


 今日と明日は休息日となっているので、隊員たちは東京を観光して帰るとのことだった。


 隊員たちが先に東京本部を後にして、俺もそれに続くように荷物をまとめてエントランスに向かったところで岩瀬さんと東山さんに呼び止められた。


「ちょっと呼ばれたから三人は先に駅に向かってくれ」


「わかったです。遅れると置いていくですよ?」


「そんな時間はかからないと思うから大丈夫だ」


 俺はマリー、セリーヌ、アキュラスを見送って岩瀬さんと東山さんの元へ向かった。


「すみません、お待たせしました」


「悪いな帰り際に呼びつけてしまって……。尋ねたいことがあったんだ。時間もないだろうから率直に聞くが……あの新入隊員たちにどんな訓練を科したらあんな風になったんだ?」


「あんな風にって……毎日基礎練習をさせて、基礎が身に付いたらあとは俺やアキュラスと模擬戦をさせましたよ? 特に変なことはさせてませんけど……」


 なにか訓練方法に不味いことがあったのかと不安になったが、東山さんによるとダンジョン攻略に向かった隊員たちに念の為同行する機会があったらしい。


 その時の戦い方が新入隊員とは思えないほど洗練されていたとのことだった。


「新入隊員たちだけじゃなく、途中から訓練に参加させた美湖までメキメキ頭角を表していたからな。なにか危ない薬でも飲ませたんじゃないかと思って」


「そんなことしませんよ!」


「じゃあ梶谷君たちの指導が良かったんだねー。私も負けないように頑張らなくちゃ」


 岩瀬さんも新入隊員たちに刺激されたようで今まで以上に依頼をこなしていくそうだ。


「二人もあまり無理はしないでください。命が掛かっていることは討伐隊員や冒険者に関わらずみんな同じなんですから」


「分かってるよ。そのうち俺も時間があれば梶谷君に稽古をつけてもらおうかな」


「ええ、是非。お待ちしてます」


 俺がその場を立ち去ろうとした時、岩瀬さんが俺の腕を掴んできた。


「ん? 岩瀬さん、どうかしました?」


「あ、ええと……次東京に来る機会はあるの?」


「どうですかね……。しばらくは隊員の育成に付きっきりなのであまり来る機会はないと思います」


「そ、そうなんだ……」


 岩瀬さんは残念そうな表情を浮かべた。

 あ、そういえばセリーヌたちと遊びに行く機会もなかったのかもしれないな。隊員の育成に夢中になりすぎてすっかり忘れていた。


「心配しないでください。セリーヌたちにはまた東京に遊びに来るように伝えておきますから。それじゃ新幹線の時間が近いので失礼します」


 マリーには時間はかからないと言ったが、走り続けないと真面目に乗り遅れてしまいそうだ。


 俺は人目を気にせず、全力で駅に向かって走り出した。





◇◇◇





〈東山迅視点〉



「行ってしまったな……」


 相変わらず忙しないやつだ。


「はあ、また何も言えなかった……」


「お前、結局梶谷君とは進展がないのか?」


 俺の同期、岩瀬あやかは梶谷君に好意を寄せているらしい。最初は先輩風を吹かせていたらしいが、着飾らない自由奔放な性格に魅力を感じてしまったと言っていた。


「無いよ。今は隊員の育成で忙しいみたいだし、その前はお酒作りで日本各地を飛び回っていたし……」


「夜はバーの営業で忙しそうだもんな」


 北村支部長の話だと酒浸りの無気力な人間と聞いていたが、梶谷君と接していると自分の好きなことには情熱的な一面を見せていた。


「まだ出会って間もないけど色恋沙汰も無いもんな」


「そうだね。セリーヌちゃんやマリーちゃんとは恋人ってよりも大事な仲間って思いが強そうだし……はあ」


 そう言って岩瀬は深いため息をついてしまった。


「俺もため息をつきたいよ。なんだあの化け物集団。まだ荒削りなところはあるが、入隊して数ヶ月の隊員のレベルじゃ無かったぞ?」


「私、実力はこの目でみていないんだよね。あ、でも美湖ちゃんの配信は見たよ? 途中参加の美湖ちゃんであれだけ急に成長できるなんて思わないよね」


「たまに実家に帰ったら美湖は梶谷君の話ばかり聞き出そうとするし……お前、いっそのこと梶谷君と結婚してくれよ。美湖が梶谷君と結婚するなんて言い出したら嫌なんだけど」


「なんで恋愛をすっ飛ばして結婚なの? 東、馬鹿なの?」


 だって世界一可愛い俺の妹が明らかに梶谷君をロックオンしてるんだぞ? どこの馬の骨か分からんやつに取られるよりかは数億倍マシだけども。


「梶谷君、戦闘力に振りすぎて鈍感ってスキルでも発現してるんじゃないのか?」


「それは……否定できないところが梶谷君らしいね」


 俺と岩瀬はダンジョンスポーン未遂事件の資料を作るため、本部内にある自分のデスクへ向かった。

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