(
『転生者には
ある方? ってどの方かな?
私は首を傾げながら頬に人差し指を当てて、とりあえず考えるポーズをしてみる。
大事なことは教えてくれないのだとわかっていたので、特に期待もしていない。それよりも、ずっと思っていたことがある。
(ねえ、あなたのこと、私はなんて呼んだらいいかしら?)
私のナビゲーターであるナビゲーター01は、成人男性の声を模した穏やかな口調の機械音声だった。ナビゲーター01は長すぎる。短いあだ名が必要だと前々から思っていたのだ。
『お好きに呼んでくださってかまいません。こちらに選択肢は存在しませんので』
(そうなの? んー。じゃあ、イーさんにするわ)
『··········お好きにどうぞ』
なんか嫌そう? まあいいわ。01=一=
お好きに、といいつつもイーさんはちょっと不服そうだった(笑)
私の絵師としての名前はキラで、本名は
妹は
『では、私はあなたのことをなんとお呼びすればよいですか?』
イーさんからまさかそんなことを訊かれるとは思っていなかったので、私はちょっとだけ動揺する。あんまり昔から驚いたりしないのんびりした性格なのだけど、この質問はちょっとびっくりしたわ。ナビゲーターってたぶんAIよね? AIは学習することで成長するっていうイメージだけど。
(じゃあ、カナンって呼んで? 友達って下の名前で呼ぶものでしょ?)
『友達、ではありません。私はあなたのナビゲーターです』
英語の教科書に載ってそうな翻訳文に、私はくすくすと思わず笑ってしまった。おっといけない、思い出し笑いをしていると思われちゃう。ハクちゃんが急に笑い出した私にびっくりしてるし。
「あ····
いた、というか、ずっと覗き見していたのだけど、それは内緒にしておこう。
「うん、
あの時、
(ねえ、私たちの他に転生者がいるってことはない? 例えば、目の前の
『それは否定します。現在確認されているナビゲーターは私と02のみです。先程の恋愛イベントにおける改変は、
そうなの? それってやっぱりおかしいわよね?
「ねえ、ハクちゃん。ハクちゃんの好きなひとって誰のこと?」
「え、えっと······それは、」
なんだかとても重要なことのような気がする。それが
「好きなひとがいるっていえば、諦めてくれるかなって····そう思っただけです」
「それは嘘。さっきのはそんな雰囲気じゃなかったもん」
「····やっぱり覗いてたんですね?」
ああ、まずい! ハクちゃんがものすごく疑いの眼差しで見上げてくる。寝台の上に座ったまま、上目遣いで頬を膨らませて見上げてくるハクちゃん。
か、かわいい!
めちゃくちゃかわいい!
月明かりに照らされて部屋が青白く光ってるみたい。ハクちゃんの髪、すごく綺麗だなぁ····。
(って、そんな場合じゃなかった!)
あの時の
大幅な改変にならなければ、そういうのは問題ないってこと?
うーん。線引きが難しい。
「ごめんね。ハクちゃんが
「お、おそわっ····そんなこと、起きませんからっ」
真っ赤な顔で否定するが、結構いい雰囲気だった気がするのよね。最初はどうあれ、
自分でデザインした中でもかなりお気に入りのキャラクターなのよね。実物もめちゃくちゃ可愛かったし。でもそっか····君は違うのかぁ。
(ふたりがそれぞれ転生して、もう一度やり直すっていうテンプレもありだと思うんだけど····
だから、あんな台詞を言ったのかな?
でも、一度は考えちゃうわよね。
希望、持っちゃうわよね。
「でも
ハクちゃんの横に座り、私はそっと彼の手を取った。
これは、頭領の
でもさっきは、二度と逢えないって言っていたような····? うーん。
どっちにしても、
「いいわ。離れたいなら、私が手伝ってあげる。適当に理由を付けて、王宮から外に出るの。
「え····そんな、駄目ですよ。
「どうして?
儀式が中断されていることもそうだが、この儀式はもう行われないはず。改変されたせいで、もしかしたらそこにも変化があるかもしれないけど。その前に
「····どうしたらいいのか、本当にわからなくて。このままここにいたら、きっと、良くないことが起こる。そんな気がします」
うん、実はその通りなのよ、ハクちゃん。
ここから先は、他の皇子やら頭領やらが好感度次第でヒロインを狙ってくる。登場するキャラが増えれば増えるほど好感度がバラけちゃうから、ハッピーエンドが遠ざかってしまうのよね。それに、
「でも····俺が何も言わずにここから消えたら、」
「うん、」
「
「せっかく見つけた大切なひとを、また失っちゃうわね。あの話が本当なら、だけど」
「でも俺は、あのひととは会ったばかりだし、そんな重たい存在じゃないと思います」
(確かに、出会って数日であの展開は重たいわよね····気持ちはわかるわ。でもこれはあくまでもBLゲーム! 攻めが受けに弱みをみせるという、私的には激萌え展開なのよ!)
ハクちゃんは迷ってる。
「言ったでしょ? なにを選んでも、私はあなたの味方よ、ハクちゃん。あなたの秘密もぜんぶ、私が墓場まで持っていくわ!」
だから、お姉さんに任せなさい!
私はハクちゃんの冷たい手を強く握り締め、その答えを待つのだった。