俺は困惑していた。
だって、そんなことを言われるとは思ってもいなかったから。
「言ったでしょ? なにを選んでも、私はあなたの味方よ、ハクちゃん。あなたの秘密もぜんぶ、私が墓場まで持っていくわ!」
これが親友枠というものなのだろう。
選択肢が出ないことを考えると、俺が何を選ぶかは決まっているようだ。諦めたように小さく笑みを浮かべ、俺は首を振った。
「もう少し、考えてみます。自分の気持ちもよくわからないし、あんな風に言ってくれた
「うん、わかった。じゃあその間、私も自分のやれることをするわ。ハクちゃんが無理をしないように、私が傍で見守ってあげる。だから、これからもよろしくね!」
はい、と俺は小さく頷いた。なんだか、本当のお姉さんみたいだ。って言っても、俺はひとりっ子だからそういうのよくわからないんだけど。実際は姉と弟ってどういう感じなんだろう?
そういえば、
「もう遅いから、私も寝るね。じゃあ、おやすみなさい」
やっと手を放してくれた
ひとりになった時。思い出したかのように、寝台の下に隠していた綺麗な模様の箱を取り出し、再び寝台に座って膝の上に置いた。この箱は元々この部屋にあった備品で、硯や筆が入っていた。深さのある箱だったのでこれは使えると思い、硯と筆は違う場所へ移して、代わりに自分が持っていた物を隠したのだった。
それは、初日に目を覚ました後のこと。皇子を助けた時に袖に仕込んでいた暗器のことを思い出し、
(よくこんな数の暗器を隠してたよね····
まるで漫画の忍者みたい····いや、暗殺者だった。にしても、自分自身もその重さに気付かないくらいだったから、あり得なくもないか。
暗器はひとつひとつは軽量な物で、しかしそれが集まれば、それなりの重さになった。現に、箱はずしりと重さを感じる。俺はその中に埋もれている、綺麗な銀色の装飾が入った白い鞘に収められた一本の小刀を手に取り、ゼロに確認する。
その小刀の刃はどうやら模造のようで、しかしただの模造品にしては素人目ながら高価そう。なぜならその白い鞘に巻き付くように、細やかな銀の龍の装飾が描かれていたからだ。
(これ、他の暗器と違うよね? この子の大切な物なのかな? あと、この青い袋に入ってた紐飾りも、特別な感じがする)
その青い袋は巾着のような形で、手の平から少しはみ出るくらいの大きさの袋だった。布の手触りからしてなんだか高そうな気はしていたが、暗殺者が持つにはやはり違和感がある。しかも中には綺麗な石を削って作られた、おそらく玉佩っていう身分を証明する紐飾りが入っていた。
薄緑色の濁った石。いや、石なのかな? 翡翠? そのつやつやな石にはごつごつとした突起があり、小刀と同じく龍を
『キーアイテム、銀龍の守り刀と青龍の
ゼロは淡々とそれらについて語ってくれたが、このふたつが実際にどんなモノかは説明してくれなかった。いずれ物語が進めばわかるのかもしれない。けれども、自分自身が知らないって、それはそれでおかしいよね?
『詳細はこの画面から確認できますが、実際のヒロイン自身も記憶が曖昧な為、その出どころはわかっておりません。詳細を解放するには、記憶を取り戻す必要があるでしょう』
(でも自分のものなら、これがこの子の身分を証明してくれるんじゃ····でも
『捨てるという選択肢もありますが、間違いなくBADエンドになります。キーアイテムを捨てれば、重要なメインイベントも起きませんから。もしかしてあなたはBADエンドがお好みですか?』
(違うけど、でも
そもそも推しキャラはあくまで推しキャラで、その推しと結ばれるなんて考えてもみなかった。いや、結ばれるとは限らない! BADエンドがおそらく悲惨なのは本編をクリアしてよく理解しているけど、ハッピーエンドはかなり甘々なのも事実。
そうなると、俺が目指すべきは
『
(そっか、じゃあすごく仲の良い親友ってことだね。それなら、いいかも)
『····お喜びのところ、非常に残念なお知らせがあります』
え? と俺は首を傾げる。すごく嫌な予感しかしかしない。浮かんだばかりの笑顔が曇るのを感じ、ゼロが次に言わんとしていることに耳を塞ぎたい気持ちだった。
『先程、
本来の目的? って、なんだろう。
俺は皇子である
『はい。この改変されたメインイベントは、本来のタイミングより早く暗殺者であることが周りにバレてしまい、結果、その罪を問われる可能性が非常に高いでしょう』
ええっと、つまり?
『最悪の場合。序盤でのヒロイン
そんなに