(は? なんで? この十分くらいの間になにがあったんだ?)
頼んでもいないのにナビが開いた画面には、
ちなみについさっき確認した時は、俺の好感度が20で、
(いや、ちょっと待て。あの
よく観察してみると、
「ハク、体調が悪いなら、無理に参加する必要はないんだよ」
「······あ、えっと、ちょっと寝不足なだけで。でも
やっぱり。本調子じゃないことに
そしてちょっと頬が赤いのは、なんでだろう。
「
「····本来の目的って、なんですか?」
「君には関係のないことだから、気にしないで。君は彼女になにか訊かれた時だけ、答えてくれればいいから。知らないことや言いたくないことは、わからないと誤魔化してくれてかまわない」
俺は気を遣ってそう言ったつもりだったのだが、
「····すみません、私みたいな得体の知れない赤の他人が、知っていいお話じゃないですよね。そもそも自分が誰か、どんな身分の人間かもわかっていないのに····立場を忘れるところでした」
『あ~あ。駄目ですよ、
ピコン、という音と共に、
(なんで気を遣ったのに好感度が下がるんだよ····意味がわからない。言い方が悪いって、なに? どこが悪かったんだ?)
『デフォルトの
ナビの言うことは確かにその通りだった。俺だって、お前には関係ないことだ、なんて信頼しているひとや友達に言われたら、落ち込むかも。良かれと思って言ったはずの言葉が、
「あー······っと、違う。それは違う。すまない。私の言い方が悪かった」
俺は立ち上がり
(なんで俺の時はそんな不安そうな顔をするんだろう····もしかして
視線が全然合わない。
「ハク、お願いだから、俺を見て?」
「····あ、え? は、はい····すみません、」
少し強い口調になり、俺はまた彼を怯えさせてしまう。しかも余裕がなかったせいで一人称が『私』ではなく、『俺』になっていた。ナビはそれに対してはなにも言わず、俺もそのまま続ける。握りしめた手にも無意識に力が入っていた。
「俺は、俺以外の誰かが君に触れるのは嫌だ。微笑むのも嫌だ」
やばい。止まらない。
「なによりも君が大事なんだって、伝わらない?」
誰か、止めてくれ。
「俺のことだけ、見て?」
気付けば、その華奢な身体を力いっぱい抱きしめていた。囁くように、訴えるように、命じるように紡がれた言葉に、
もちろんそれに気付いたけど、俺は無視した。その先で心配そうに見守りながら立っている
睨んでいる? それとも、子供みたいに泣きそうな顔になっている?
誰にも譲ることなどできない、想い。たとえこの腕の中の存在が、自分が本当に求めているひとじゃなくても。
これは俺のものだ、と我が儘でも言うみたいに。
「······あなたが、それを本当に望むなら、」
震える唇から零れたその言葉は、まるで冷たい涙のようで。
俺はその時になってやっと、自分を止めることが叶った。間違ったことをしたと、自分でもわかっているのに。
これはぜんぶ、俺自身の本心なのだと思い知る。あの時、俺の中に生まれた黒い感情の正体。
「君を守るためなんだ。それだけは、お願いだから理解して欲しい」
今、俺は、どんな顔をしている?
たとえゲーム中のただのキャラだとしても、疑似恋愛の相手だとしても、やってはいけないことを俺はしてしまったのかもしれない。こんな風に立場を利用して強制させるなんて、最低だ。
本当に伝えたいひとは、ここにはいない。
けれども、気付いてしまった。
『やっと気付いたんですか? それでいいんです。あなたにはちゃんと
ナビが機械音らしい淡々とした少年の声でそう言った。どういう意味なのか、今の俺にはそれを訊ねる気力さえなかった。
『この物語は、ふたりのための物語。あとは、ヒロイン次第です』
こんな最悪の空気のまま、メインイベントが動き出す。俺は
そんな
ゲーム内でも三人が幼馴染なのは、現実と微妙にリンクさせているから。
この先がどんな展開になろうと、俺の目的は変わらない。メインイベントは確実にクリアする。でなければ、このゲームは終わりだ。ヒロインを殺させるわけにはいかない。
なにがなんでも俺が守る。
それがたとえ、彼の望まない結末になろうとも。
◆ 第二章 了 ◆