目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第6話 肉

 想いが通じた感動的な空気を壊すように、ハルは冷蔵庫を指差して、シュウに説教をする。


「あとさ、肉ばっかり食ってると健康に悪いぞ!野菜も食え!」


「別に長生きする必要は無い。この肉を食べきるまで生きていたら、それでいい。」


シュウはハルの頬に手を添えて、じっと見つめる。食い入るように見つめるシュウの目にハルは絆されそうになる。しかし、心を鬼にしてシュウの手を強く握り口調を強める。


「なんでそんな短期目標なんだよ?オレとしては、やっと、シュウの本心を知れてこれからって時なんだから、健康体でいてよ。」


ハルが優しく微笑むと、シュウの目から突然、ポロポロと涙が零れる。初めて見たシュウの涙にハルは激しく困惑する。


「え?あ?ちょっと……どうしたの?」


「いや。これからって時なんだなって……」

シュウは涙でいっぱいになった目でハルにそっと笑いかける。その笑顔がつらそうで、ハルはシュウを思わず抱き締める。


「もっと、はっきりと……ハルに『好き』って言っても良かったんだ……」


「何言ってんだよ?さっき、ハッキリと確認しただろ?今から取り返していけば良いだろ?」


「そうだね。」


シュウは涙を拭って、ハルを抱き返す。


「ずっと『病気』が治らずに、家にいてくれたら良いのに……そしたら、何の心配も要らないのに……」


「そしたら、オレ、外に出れないじゃん。どこにも遊びに出られないのは、嫌じゃない?」


「出ないでよ。ずっとここにいて……外の世界なんて要らない……ハルにも、僕にも必要ない。」


シュウはハルの骨を折らんとばかりに強くハルを抱き締める。不思議と痛みは感じないものの、あまりの執着に恐怖を覚える。


「いや、重いわ。」

「重かったか。」


シュウはハルから身体を離して、ハルの肩をガシッと掴む。


「これからは、僕の目の届くところにいてね?」


シュウの指先がゆっくりとハルの肩に食い込んでいく。何を映しているか分からないシュウの瞳に、ハルは言いたかった言葉を飲み込んだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?