ブロック肉にしっかり火が通っていることを確認さると、皿に盛り付ける。ハルはシュウの手元にツッコミを入れる。
「いや、味付け無し?白米も無し?」
「別に要らないかなって。」
「昨日、なんか赤いソース掛けてたじゃん。」
「あー、あれ?なんか肉を焼いてたらああなった。」
ハルは頭の中で疑問が止まらなかったが、聞いても埒が明かないことは明白だった。諦めて寝てしまおうと、自室へ歩き出す。
「ハルはお腹空かないの?」
背後からのシュウの声にドキリとする。『病気』を治すために食事を摂るべきだろうが、空腹感も食欲も一切無かった。
「いや……なんか、お腹空かなくってさ……」
振り向いて苦笑いを浮かべる。ハルが風邪を引いたとき「食って、寝ろ」と、シュウに無理矢理お粥を流し込まれた記憶が甦る。今回は謎の肉の煮込みだ。今回はどうやって食べさせにくるかと、ハルは身構えた。
「そっか……やっぱり、そうか。」
シュウは無表情のまま呟くだけだった。
「『やっぱり』って、シュウはオレの『病気』について知ってるの?」
シュウはテーブルに置いた肉の煮込みをナイフで切りながら答える。好意が伝わってないと口論したにも関わらず態度を変えないあたり、もう直すことの出来ない性格なのだと改めて確認する。
「さあ?」
ナイフをグッと押し付けて、ゆっくりとナイフを引くものの、肉が硬いのかナイフの動きに合わせて塊ごと移動するだけだった。
「え、なんか医者から聞いた事とか無いの?」
「無い。」
ナイフで切ることを諦めてそのままかじりついていた。硬い肉を食い千切ろうとする姿は、野生に還ったようで、恥ずかしさと興奮を誘う。少しドキドキしながらも、虚空を見つめて食べるシュウから目が離せない。
「ああ、もう!下手くそ!」
口の端から肉汁らしき水分が伝い落ちる。その姿はまるで透明な血を飲んだ吸血鬼のようで、少しだけ官能的だった。口の端をティッシュで拭う。されるがままのシュウの姿に可愛らしさを覚えて、ハルは小さく笑う。こうやって、触れさせてくれていたのも、シュウにとっては恋人の特権だったということだろう。
結局、ハルはシュウの隣で、シュウの食事が終わるまで見届けた。
「それってさ、何の肉?」
「さあ?」
「分からないのに食べてるの?危なくない?」
シュウはじっとハルを見つめる。
「いや、内臓とかじゃないから、焼けば食える。」
「それ、大丈夫……?」
シュウはスッと立ち上がり、空いた皿を運ぶ。得体の知れないものを食べる感覚がハルには理解できなかった。
「そういや、外って暑いの?冷房『強』で入ってたし……」
シュウは洗い物の手を止めて、ハルを見る。
「いや、涼しい。」
「え、じゃあ、冷房要らなくない?」
「要る。あった方がいい。」
「うーん、そっか……」
空っぽのはずの胃に何かが残っている感覚を拭えないまま、洗い物を再開したシュウの邪魔をしないようにハルは自室に戻った。