寝る準備を整えたであろうシュウが部屋に戻ってくる。ベッドの端に座ると、ハルに手を差し出す。
「ハル、手、繋いでて。」
ハルは横になったまま、差し出された手を握る。恋人らしいといえばそうだが、シュウが寝ようとしないのが気がかりだった。
「シュウはベッドに入らないの?……ほら、昨日は一緒に寝たじゃん。」
発言した後にハルは酷く赤面する。事実ではあるものの、誤解を生む発言だったと反省し、シュウの顔をそっと伺う。
「ん?ああ。横になったら寝るから、座ってた方がいい。」
シュウは相変わらずの無表情のままで、少し安心した。
「いや、寝ろよ。シュウまで体調崩したらどうするんだよ?」
「……ハルがいなくなる方が、僕の体調が悪くなる。これからは、どこにも逃がさないって決めたのに。」
ハルを取って食らうかのようなシュウの瞳に、ハルは背筋が凍る。
「そんな……こんな体でどこにも行かないよ……」
「いや、消えるかも知れない。見てなきゃ。」
シュウの狂気を宿した瞳から逃れるように、ハルはシュウに背を向けて目を瞑る。好きな人と手を繋ぐ緊張感などかわいらしいものでは無く、火薬庫の中でライターを見せられたような緊張感に、ハルは体を震わせていた。
眠ったか眠っていないか分からないハルの瞼に、朝日が差し込む。手は繋がれたままだが、シュウからは寝息が聞こえる。
(ちゃんと寝てくれてたみたいで良かった……)
ハルがひと安心したのも束の間。シュウが起きたのか、ハルの手が強く引っ張られる。
「寝てた……!ハル!良かった……ちゃんといた。」
シュウはハルの顔を確認すると、ニッコリと笑う。嬉しいはずのその笑顔に、ハルは体を強張らせる。
(『寝てた』?やっぱり一晩中起きて、監視するつもりだったのか?)
シュウは手を離すと、フラフラとした足取りで部屋を出た。ベッドからゆっくり起き上がり、少し伸びていると、シュウが戻ってきた。
「はやっ!」
「早く戻ってきたら、マズかったの?」
「そういう意味じゃ……ないんだけどなぁ……」
シュウはチラッとハルを見てから、ハルに背を向けて服を脱ぎ始める。ハルは気恥ずかしくて思わず、顔を背ける。
「あ、着替えか。オレ、出た方が良か……」
ハルが言い終わるよりも前に、シュウはすぐさま振り向く。そのまま、ワイシャツのボタンも留めずに、ハルを強く抱き締める。
「出て行かないで。ずっと家にいて。」
「いや、部屋の話ね。着替えを見せられるの気まずいんだけど。」
「僕は気にしてないからいいよ。」
「いや、シュウはそうでしょうけど……」
「じゃあ、出て行くなんて言わないで。不安になる。」
「うん、言わない。分かったから、早く服着て。」
ハルがシュウの身体を押し退けると、シュウは着替えを再開した。早く着替えて仕事に行ってくれと、ハルは心の底から願ってしまった。