幽霊は念や欲が固まるとあまりよくないらしく子供がいる場所にはたまりやすいらしい。
大体は危害を加えるというよりは悪戯をしているようだが、見えない人間からすれば恐怖でしかない。
テーブルに布巾をかけながら
『まあ、波長が合っちゃうと見えることもある。
念入りにテーブルを拭くとシンクで布巾を洗って干した。
『あんまり追ってやるなよ?欲が反応したら酷いことにもなるしな。』
『うん…。』
雨芽はそう答えたけれど従う気にはなれなかった。
『んじゃ、雨芽ちゃんを送っていくよ。親御さん、心配してるでしょ?説明も必要だし。』
『え?』
喜治は片づけを終えるとてきぱきと身支度を整えて雨芽を家から連れ出した。
『いや…あの、一人で帰れます。』
『いやいや、さすがに子供が朝帰りなんてよくないよ?ちゃんと説明してあげるから。』
『はあ…。』
昨日も思ったがこの押しの強さはなんだろう?若く見えるけど三十代くらいなんだろうか?
雨芽は隣を歩く喜治を見る。自分よりも随分と背の高い男は飄々と歩いている。
それに着物姿で台所では割烹着を着ていた。何者なんだろう。
『うん?』
じろじろ見ていたせいか喜治は口元をにこりとさせて雨芽を見下ろす。
『いえ…。』
『それにしても随分と遠くなのな?やっぱり夜にあんなとこいたらダメだよ?』
『まあ、そう…ですね。』
『んで、雨芽ちゃんは今何年生なの?高学年だよね?』
『は?』
雨芽は顔を上げると喜治をにらみつけた。
『中二です。来年は中三です。』
『まじか…ごめん、てっきり小学生かと。』
『いいですよ。別に、よく間違えられます。』
雨芽がぷうと頬を膨らせると喜治は頭をぽんと叩いた。
『ごめんよ。悪かった。』
彼の優しい声に雨芽は少し泣きそうになった。今までこんな風に謝られたことなんてなく、殆どは茶化して終わるだけだったから。
ふいに視界が滲んで片手でそれを拭うと顔を上げた。
『ここです。ここの九階が家です。』
『へえ…すごいとこ住んでんだね?』
喜治を連れてエレベーターに乗り込む。後ろできょろきょろ何かを見ている彼に雨芽は笑う。
『やめてください。いっぱいいるんでしょ?エレベーターだけは辞めてください。』
『んん?ああ。そうだね。』
このエレベーターには幽霊の目撃情報が多く、勝手にボタンを押された、ドアを閉められた、一番酷いのはベビーカーを乗せた瞬間に勝手に上まで上がってしまったことだろう。
だからこのエレベーターを使う時は必ず二人以上でと回覧で注意がされていた。
九階に着きドアが開くと雨芽は家へと向かう。廊下を歩きドアの前で鍵を取り出した。
『うん?雨芽ちゃんはかぎっ子なのかい?』
『そんなもんですね。』