邪羅威と迦麗は事が終わるとすぐに私たちの前から去って行った。
あんな人間がいるなんて今でも信じられない。
あらゆる理から自らを切り離した存在。
あの人たちがどのような日常を送っているのか?私には想像もつかないが、二人のことは鮮烈に記憶に残った。わすれるということが不可能なくらいに。
あれからすぐに諏訪式姉妹は市内の病院へ入院した。
怪我は常人をはるかに上回る回復力で、一週間もせずに退院していった。
入院している間、私と巴はお見舞いに行ったのだが、個室の前には警察官が警護に立つほどのVIP待遇で会うことも叶わなかった。
彼女たちが最初に、国と関わりがあると言っていたが、あのときは現実味がなかった。
しかし、こういう待遇を見ているとにわかに現実味を帯びてくる。
二人が退院したのを知ったのは、学校に姉妹から電話がかかってきたからだ。
「桂木瀬奈さん。諏訪式祓椰です」
この落ち着いた声を聞くと妙に安心してしまう。
「私たちはおかげさまで無事に退院することになりました。ですが、次の仕事が控えているので電話での挨拶をお許しください」
「いえ、いいの。それよりもう大丈夫なの?」
「はい。鍛え方が違いますから」
「そう……」
「もしも、この先で迷うこと、思うことがあったら遠慮なく私たちのところをお訪ねください」
そう言って祓椰は連絡先を私に教えた。
「祓椰さん、お元気でね。清伽さんにもお元気でって」
「ありがとうございます。横にいる清伽にも伝えておきます。では、瀬奈さんと巴さん、お二人のご多幸を二人で祈っております」
「ありがとう」
祓椰は最後に電話口から祓い詞を唱えた。横にいるであろう清伽の声も重なって聞こえた。
そして「失礼します」と、言って電話を切った。
学校が終わってから私は海岸に来て海を眺めていた。
思えば血生臭い空気が町に充満していた。
人知の及ばぬ恐ろしい力が多くの命を奪った。
その空気を、邪羅威という暴風が吹き飛ばし、諏訪式姉妹が穢れた地を清めて行った。
水平線に沈む夕陽が海をオレンジ色に染め上げている。
その沖合をフェリーが白波を立てて横切っていく。
波の音は静かに打ち寄せ、汽笛の音が聞こえた。
間もなく空と海が一体となる。
時を忘れたような静寂の中で、一人佇み、潮風に髪を揺らしながら亡くなった人たちを思った。