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4-3

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 朝の提案がキッカケで、クラスメイトからたくさんの情報が集められた。昼休み、机の上に広げられている、あちこちの弁当からいい匂いが漂う中、お昼ご飯を食べながらスマホをいじり、情報を精査して優先順位をつけていく。


(あーあ、悠真と全然話ができねぇ。いつもならこんな作業をさっさと捌いて、別なことをする余裕があるのに、テンションが下がっているだけで効率が悪いなぁ)


 箸で卵焼きを摘み、口に放り込む。出汁の旨みを舌で味わいつつ、左手でスマホの画面をスクロールし、優先順位をつけた情報の見直しをはじめた。フェロモンの爆散でクラスに迷惑をかけている分、丁寧に仕事をこなさなければならない。


「西野、どこまでできたんだ?」


 ピリッとした空気が肌に伝わったことで、アルファが傍に来たのがわかった。


「佐伯、いきなりなんだよ?」

「クラスメイトに助けを乞う、情けない委員長の片腕として、俺も働かないといけないだろう?」


 毒舌まじりのセリフに、ひょいと肩を竦めてみせた。


「ふん、情けなくて悪かったな!」

「今までよくひとりでやってるなと感心してたんだぞ、実は」

「それ、マジで言ってる?」


 窓の外で運動場の歓声が遠く響く中、佐伯の言葉がやけに鮮明に聞こえた。校内にいるアルファの中で、佐伯は上位にいるくらいスペックが高い。部活の助っ人を何件もこなし、活躍している噂話を耳にしている。


「西野にウソを言うと、あとからフェロモンの攻撃を食らうかもしれないからな」


 からかう口調で告げた佐伯が鼻で笑う。


「佐伯、スマホ持ってる? アプリで情報共有したいんだけど」

「ああ、教えてくれ」


 こうして完璧主義の副委員長様と情報共有できたおかげで、仕事量がかなり減った。


「マジで助かる。佐伯、ありがとな。これで前よりも、テストのヤマをしっかり張れる気がする」

「テストのヤマよりも、月岡と話をする時間を作るほうを優先したらどうだ?」


 意外なセリフに言葉を失い、佐伯をまじまじ見つめた。昼休みの喧騒が一瞬消え、悠真の笑顔が脳裏に浮かぶ。お昼休みなので当然教室が騒がしいのに、なぜかこのときだけ俺の周りが無音になった。


「西野、なんて顔をしてるんだ」

「や、だってさ。真面目を絵に描いた佐伯が、そんなことを言うとは思わなくて、ビックリしたんだ」

「恋愛をしてない1年の頃なら、絶対に出ないセリフだろう。よかったな、2年になってから俺と委員関連のペアを組めて」


 佐伯の言葉で、1年前の委員長会議で顔を合わせたときのことを思い出す。どの学年の委員長もお堅い雰囲気を醸している上に、全員アルファばかりだったから、会議室がなんとも言えない物々しさで辟易した。


 その中でも一番と称していいほど、髪型から制服の着こなし方まで、模範になっていたのが佐伯だった。


「佐伯が恋愛するとは、誰も思わなかっただろうなあ」


 しかもそのお相手は、見た目がヤンキーで喧嘩っ早い榎本なのだから。


「まったく。人生なにが起こるか、わかったもんじゃない。それと西野、興奮するたびに、フェロモンを垂れ流すのをやめてくれよ。俺にとって、いい迷惑だからな」


 ちゃっかり注意を促して去って行く背中に、慌てて声をかける。いろんな衝撃を佐伯に与えられて興奮したため、フェロモンが出ないように注意した。


「すげぇ感謝してる。放課後、図書室で悠真と話してくる。もちろんフェロモンは爆散しないように、気をつけるからさ!」


 すると無言で右手をひらひら振って、教室から出て行った。


 残りの昼休みに、3ページだけ本を読み進めた。放課後、悠真にタクミの活躍を話せば、アイツの笑顔が見られる。そんな小さな進捗が、嬉しくてたまらなかった。



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