夏休みは学生にとって一番遊べる時期だ。
受験を意識する優等生なら「夏休みでどれだけ勉強できたかで差がつくのだ!」と言うのだろうが、不良生徒と認識されている郷田晃生には関係ねえ。将来よりも目先の快楽を優先してやんぜ!
「って割には、きっちり夏休みの計画立ててるよねー」
夏休みで一番浮かれて遊んでそうな羽彩が、俺の計画表を眺めながらぽつりと言った。
「たくさん遊ぶためにも計画を立てる。こういうの小学生の時にやらなかったか?」
「あったかもだけど、そんなんテキトーだって。どうせ計画通りにはいかないんだしさ」
そう言って羽彩はゴロゴロしながらスマホをいじる。夏休みが始まってから俺の部屋に入り浸っていることが多いが、こいつ勉強は大丈夫なのか?
「あっ、宿題が終わったら見せてよね」
「ダメだ。写すつもりだろ」
「えー! 晃生ー、意地悪すぎない?」
「羽彩のためにならないだろ。手伝ってやるから、ちゃんと自分でやれよ」
ぶーぶーと文句を言っていた羽彩だったが、俺の心が変わらないとわかったのか、素直に宿題に取りかかっていた。典型的な金髪ギャルといった風貌だが、こいつもけっこう根は真面目だよな。
宿題を早めに終わらせて、気持ち良く遊びまくる。それが正しい夏休みの過ごし方だ。
「そういえばひまりんは?」
「ひまりん? ……ああ、日葵のことか。あいつは塾の夏期講習があるとかでな。今日はそっちに行ったぞ」
「うげーっ。せっかくの夏休みなのに塾?」
「知ってるか? 俺たちもう高二なんだぜ。やっている奴はとっくに受験勉強を始めてるぞ」
「優等生は違うねー」と言いながら、羽彩は仰向けに倒れた。やる気を奪われたのかぼへーっとしている。
「……」
仰向けだってのに、彼女の胸の膨らみは存在感を主張していた。羽彩もエロ漫画のヒロインの一人だけあって、かなりの巨乳なんだよな……。
その果実がどんな味で、形や色や触感まで知っているってのに、俺は目を奪われてしまっていた。
「あっ。ちょっ……晃生、見すぎだってば……」
俺の視線に気づいた羽彩は、慌てて起き上がると胸を隠すように腕を交差させる。しかし、それは胸部の弾力を証明するだけの行為だった。服越しでも柔肉が形を変えて、はみだしそうな光景にドキドキさせられる。
「も、もう……。そ、そんなに触りたいの?」
恥ずかしそうに、だけどチラチラと俺をうかがう目は期待しているように見えた。おそらく俺の願望だけではないのだろう。
「羽彩……」
「晃生……」
夏休み。早速計画から逸れてしまったのだが、俺に一片の悔いはなかった。
◇ ◇ ◇
たくさん遊ぶためには軍資金が必要だ。
せっかくの夏休み。海や祭りなど金のかかるイベントが盛りだくさんだ。楽しみであるとともに、金の使いどころに頭を悩ませずにはいられなかった。
青春を追い求めている俺としては、是非とも夏のイベントとやらを堪能していきたい。俺の女たちもそうだが、クラスの奴らからも遊びに誘われている。実はけっこう楽しみにしているので、「金がないから断るぜ」なんて寂しい結末にしたくないのだ。
「よっこいしょっと。これ、向こうに運べばいいんすよね?」
「そうそう。郷田くんが力持ちで助かるよ」
「うっす。力だけは自信があるんで」
そんなわけでアルバイトを始めてみた。
親から生活費を振り込んでもらっているとはいえ、無駄遣いする余裕はない。ならば自分で稼ぐしかないだろう。
がっつり働くと遊ぶ時間がなくなるので、短期バイトに応募してみた。会場の設営というお手軽なものだ。まあ簡単に感じるのは郷田晃生のチートボディのおかげなんだろうけども。
「大丈夫か黒羽? 重たいもんは俺に任せて、お前はもっと軽い物にしとけ」
「わわっ!? あ、ありがとうございます郷田くん……」
小柄な女子が荷物の重みでフラフラしていたものだから、危なっかしくって手伝わずにはいられなかった。
意外と言ってはなんだが、黒羽も同じバイトに応募していた。
まさかクラスメイトとバイトが被るなんて思いもしなかったから、見慣れてきた眼鏡とふわふわの緑髪に驚いたものである。黒羽は日葵と同じで、てっきり塾通いか何かしているもんだと思っていたからな。
「夏休みは稼ぎ時ですからね。いっぱい働きたいんですよ」
と、バ畜みたいなことを胸を張って口にする黒羽だった。
「郷田くんはどうしてこのバイトを?」
「時給が良かったからな。遊ぶ金欲しさにやりました」
「あはは、日葵ちゃんと遊びに行くんですね」
「まあな」
相手は日葵だけじゃないんだけどね。別にそこまで言わなくてもいいかと、適当に合わせておいた。
「黒羽はどこか旅行とか行くのか?」
「どうしてですか?」
「たくさん働くとか言うから。旅費でも貯めているのかと思ってな」
黒羽は笑った。今の笑うところだったか?
「旅行なんてもうずっと行っていないですね。なかなかそんな余裕はないので」
「じゃあどこか遊びに行くとか。欲しい物があるとかか?」
「んー……」
黒羽は曖昧な笑顔を浮かべる。どうやら答えづらいことらしい。
まあ働く理由なんて人それぞれか。俺も金の使い道なんて、他人に教えられることばかりでもないからな。
「まあ機会があれば一緒に遊ぼうぜ。日葵も喜ぶだろうしな」
「はい。機会があれば」
黒羽は笑顔で働いていた。眼鏡の奥の目は、日光に反射してよく見えなかった。
◇ ◇ ◇
「急に雨なんか降ってくんなよな」
バイトが終わって夕方。帰路に就いていたら急に雨に降られた。
どうせ後は家に帰るだけだ。濡れても構うかと全力ダッシュで帰宅した。
「エリカ?」
「晃生くん……」
俺の部屋のドアの前で座り込んでいる青髪の美女がいた。
エリカと会うのは久しぶりな気がする。体育祭や期末考査があったりなど、学校行事にばかり気を取られていたからな。
エリカも急な雨でびしょ濡れになっていた。夏とはいえ、そのままでいると風邪を引いてしまうかもしれない。
「シャワー貸してやるから、とりあえず中に入れよ」
「……うん」
泣いているように見えたのは気のせいじゃないのかもしれない。そう考えながら、まずは身体を温めるのが先決だと、彼女を部屋に招き入れた。