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67.やってもうた

 やってもうた……。


 郷田晃生にディープなチューをされた黒羽は、ぐったりと横たわっていた。押し倒した体勢のまま、俺は彼女を見下ろす。

 酸素が足りていないのだろう。目がトロンとしていて意識がはっきりしていない。口を半開きにして息を弾ませている姿はなんというか……エロかった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。郷田、くん……っ」


 うん。どうしようこれ……。

 寝惚けていたと弁明するか? いやいや、押し倒しておきながらそれは苦しい言い訳だろう。

 どうしてくれんだよと、内心で舌打ちが止まらない。郷田晃生が口笛を吹きながらそっぽを向いている姿が見えた気がした。お前、後で話があるからな。


「えっと、黒羽」

「郷田くん……」


 黒羽は熱に浮かされたという感じだ。まずは彼女を正気に戻さなければ話にもならない。


「こんな夜遅くに、俺に何か用だったか?」


 そうだ。そもそもなぜ黒羽は俺が眠っているとわかっていながら部屋に入ってきたのか?

 用事があるのなら明日でもいいじゃないか。なのに無防備にあんな近づいて……郷田晃生の言い分じゃないが、襲われたって文句は言えないと思う。

 それに手を出したのは俺じゃない。郷田晃生の意思だった。俺は悪くねえ。俺は悪くねえ!


「へ? そ、そのそのその……あのですね。違うんですよ。あたしはただ……郷田くんが慣れない場所でちゃんと眠れているのかと気になってですね……」


 心の中で言い訳を繰り返していたら、黒羽がものすごく慌て出した。

 なんという浅はかな言い訳だ。まったく説得力を感じない。


「本当にそうか?」

「ほ、本当ですよ。信じてくだ──あんっ」


 無意識に右手で黒羽の胸を揉んでいた。夏らしく薄い生地のパジャマだった。というかこの感触……ノーブラでは?


「ご、郷田く……ダメですよ……あっ」

「黒羽が嘘をつくからだろ。悪い子だ」

「あ、あたしが……悪い子?」


 黒羽が悶える。けれど俺の手から逃れようとはしなかった。

 小柄なのに胸はしっかりと実っていて、俺の女どもに負けない感触を与えてくる。さすがはエロ漫画のヒロイン。地味な女子という設定ではあったが、彼女のこんなあられもない姿を見ればそんな印象は吹っ飛ぶだろう。

 傍らに置いていた個包装を手に取って、黒羽の目の前に持ってきてやる。


「枕の下にこんなものがあったぞ。自分からこんなものを用意しておいて、誘惑していなかったなんて言わないよな?」

「へ?」


 黒羽はぼんやりとしながらも、目の前で突きつけられたゴムを見つめる。これが何かわかっていないような……困惑しているようなリアクションだった。

 あれ、身に覚えがないのか? いや、わかっていないフリをしているだけかもしれない。


「これが何かわかるか?」

「えっと……」


 俺は黒羽の答えを待たずに、彼女の耳元に口を近づけて、ゴムの正しい用途を教えた。


「~~っ!?!?!?」


 暗がりでもわかるほど、黒羽は顔を真っ赤にさせた。たぶん頭から湯気が出ているほどに脳がオーバーヒートしてしまったのだろう。


「これ、黒羽からのアピールだと受け取ってもいいのか?」


 ゴムが入った個包装をプラプラと揺らしながら確認する。


「……はい」


 少し迷いを見せていたが、眼鏡の奥の瞳は決意を表していた。はっきりと頷き、求めるように目を閉じる。

 黒羽梨乃はエロ漫画のヒロインだ。友達だと思って意識しないようにしていたが、作中での彼女の姿を思い出すと、下半身を刺激せずにはいられない。


「黒羽、俺は日葵と付き合っている」

「……っ」


 黒羽が目を見開き、息を詰める。

 ここはエロ漫画の世界だ。NTRでもなければ、このまま襲いかかっても文句を言われるものではないのかもしれない。

 だが、ヤるとしても筋を通すことだけはしておきたかった。


「日葵だけじゃない。羽彩とも付き合っているし、エリカっていう女もいる。まあ全員恋人ってよりセフレの関係なんだけどな」


 事実とはいえ、言葉にすると最低な男だな。でも俺の女どもがこの関係を受け入れていて、ここはそれが許される世界なのだ。いつまでも以前の常識に縛られてばかりもいられない。


「えっと……そ、それは……」

「だから、黒羽が日葵たちと同じセフレでも良いってんなら、今ここで抱いてやる」


 黒羽は言葉を失った。俺もけっこう正直すぎたなとは思う。

 だけど、彼女たちとの関係を隠したまま黒羽を抱くことはできない。下半身がすでにやる気になってはいるが、断られた時は精一杯我慢しよう。


「あたし……郷田くんのことが好きなんですっ!」


 しばらく沈黙していた黒羽だったが、気持ちを固めたのだろう。突然告白を口にした。


「最初は郷田くんのことが怖くて……。でも、いつの間にか雰囲気が変わったなと思ってて。体育祭実行委員で一緒に活動して、優しくて頼り甲斐のある姿を見て……ずっと、気になっていました」


 黒羽はがんばって言葉を紡ぐ。気持ちを伝えようと必死で、邪魔をしてはならないと俺は黙って話を聞いていた。


「でも、日葵ちゃんも郷田くんのことが好きだから……っ。だからあたしは諦めなきゃって思って……でもやっぱり諦められなくて……」

「……」

「……でも、日葵ちゃんだけじゃないなら良いですよね? あたしも郷田くんに愛してもらっても、良いんですよね?」

「黒羽にその気があるなら、俺は全力で応えるだけだ」


 黒羽の目にじわりと涙が溜まる。


「はい……っ。あたしも、仲間に入れてください……。あたしも郷田くんに、愛されたいから……」


 もう俺たちの間に言葉は必要なかった。

 あとは俺が度量を示すだけのことだ。黒羽……梨乃に覆いかぶさり、やがて俺たちは一つになった。

 暑くて熱い夜。冷房が効いた室内で汗をかいてしまったが、とてもスッキリした。


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