三日間の休暇はあっという間に過ぎ、アルは別れを惜しみながらも仕事へ行ってしまった。寂しいけれど、引き止めるなんて愚かな事はしない。夜には帰ってきてくれるのだから。
そしてその間に、私も王妃教育を受ける運びとなっていた。この一年、アル不在の中でも王妃教育は受けてきている。覚えなければならない事は膨大だ。既に知っている分野もあったけれど、その範囲が多岐に渡った。歴史に語学、地学、農学、そのどれもが桁違い。私が独学で知り得た知識など、ほんのひと握りだったのだ。
次々に先生が入れ替わり、息をつく暇もない。授業の間だけは寂しさが紛れていたけれど、夜に自室で一人になると、昼間の忙しさの分余計にアルが恋しくなっていた。
それが今では毎日会えるのだから、贅沢は言えない。それに会おうと思えばすぐに会える。王妃教育も王城で行われるから、アルの執務室まではほんの数十分の距離だ。
「お昼はお弁当を持って、執務室へ行かれてはいかがですか? ︎︎殿下はお忙しいでしょうから、サンドイッチをご用意しますね」
ネフィもそう言って、二人の時間を少しでも作ろうとしてくれる。そのネフィは、何故かこの三日でアルへの態度が和らいでいた。私が聞いても誤魔化され、二人で意味ありげに目配せするばかり。
仲がよくなってくれたのは嬉しい。でも心のどこかがチクリと痛む。何かの病かと調べてみても分からなかった。
そんな日が続きながらも、情勢は安定し、国中に穏やかな暮らしが広がっていた矢先。
「アックティカが動いた」
お昼のお弁当を手にして執務室を訪れた時、アルが神妙な声で呟いた。
ピエット伯爵や宰相派の動向は、放った間者によって逐一報告されている。その内容は輸出入の禁止。俗に言う鎖国だ。
アックティカの農作物はカイザークのみならず、多くの国に輸出されている。それを全て止めたと、アルは言う。
「そんな……それではアックティカの民に影響が出るのではないですか? ︎︎貴重な収入源がなくなってしまいます。酪農業が豊富ですから飢える事はないと思いますが、生産過多では意味がありません」
この国を含め、他国もアックティカから輸入はしているけれど、全てを頼っている訳ではないから緊急性は低い。それよりもアックティカの民の方が深刻だ。
食べる物は豊富でも、収穫量は季節毎に変わってくる。今は晩冬、農作物も家畜も、それほど生産量がない。蓄えはあるはずだけれど、輸入も止まるとなると海産物、特に塩が手に入らなくなる。塩は人体に必要不可欠と言っていい。
それだけではなく、料理や暖を取るための薪もそうだ。国境の森はカイザークの領地で、木材の供給が滞るだろう。この寒さで薪がなくなれば凍死も考えられた。
アックティカは平野に城を構える国家で、鉱山もなく、水源も心細い。以前、自国の策略で毒を流した影響が残っているらしい。魚介類の生息数は激減、飲水も煮沸してから使用しているとか。
籠城には不向きな国で、いったい何をしようというのか。
「アックティカ王は民の事なんて考えてないよ。間者の報告では、国庫の備蓄は潤沢だって。でもそれを民に分け与えるつもりはない。王族が生きてさえいれば国は存続すると思ってるみたいだね。今も王族が実権を握っているかは怪しいけど」
肩を竦めて