「え?あたしも一緒に真絹の別荘に行かないかって?」
あたしの名前は波園水菜乃、真絹から本日『詠史さん同好会』と言う謎の同好会の活動に一緒に勤しまないかと言う誘いを断り、幼馴染である詠史と遊ぶことにした女である。
「ああ、真絹と二人きりで行くとなったら何があるか分かんないからな……別荘って言っても何でもミステリーにでも出てきそうな洋館で、孤島にあるらしいぞ」
「ほーん、それは興味深いわね……でも、いいの?真絹が怒ったりしない?」
「夏の思い出を作りたいって言ってたし、だったら二人より三人の方がいいだろ」
「そーいうんじゃなくて、あんたとの仲を深めたいのにあたしと言う邪魔者が入っていいと思ってんのかって言ってんのよ。ひと夏のバカンスなんて間違いなくあんたと一線を越えるために用意したに決まってるじゃない」
「だからこそだ……あいつが何をするか分からんから予防線が欲しい……」
ったくこいつは……いや、いつもハッキリ断ってるのに詠史を全く諦める気配もない真絹の方に呆れるべきか……ったく。
「困った幼馴染と従姉だこと……まぁいいわ、あたしは空気を読める女だからそういう空気になったら即座に撤退できるしね」
「ありがとよ」
「どういたしまして…にしても孤島に別荘って初川家ってのはお金持ってんのね」
「さぁ?実際どうなんだろうな?忍者らしいけどこのご時世の忍者ってどのくらい儲かるんだろうか?」
何気なくあたし達は角を曲がった。
「そうね、もしか「よけてぇぇ!!!」えっ??」
その時あたしの横を鈍色の疾風が駆けていった。何があったか理解する間もなく小さな影が宙を舞った……そしてそれが詠史の頭に落ちる。
ベチャッ
「きゃぁぁぁ~~~ごめんなさい!!!」
「……???」
自分の状況を分かっていない詠史が顔にはてなマークを張り付けている。そしてあたしはそんな詠史の状況を見て。
「ぷっ……」
「あ?なんだ?」
「アハハハハハハハハ!!!!!!似合ってるわよ詠史!!!」
「おい、何があったんだ?」
「ああ…苦しい……あははは!!なぁんでこうなるのかしらねあんたは!!あはははは!!」
腹筋バキバキになりそうなほどに大笑いをしながらあたしはかろうじてスマホを取り出し、鏡代わりに詠史に今の自分を見せてやる。
「は?え??」
頭の上に赤色と青色の二段のアイスクリームが乗っている詠史の姿を……溶けた二色のアイスがツーっと顔を伝っている今の顔を……
「いやぁ……涼しそうで夏にピッタリね……あはははは!!!」
「ごめんなさい!!」
腰まで伸びた桜色の髪の毛が印象的な女の子がこちらにやってきた。恐らく角を曲がったあたしたちをよけようとして、無理に運転をした結果、手にでも持っていたアイスが詠史の頭に乗っかかってしまったのだろう…まぁ、それについては後でしっかりと怒ってあげるとして……
「アハハハハッハハハ!!どうして、どうしてあんたはこんなに滑稽なのよ!!!!無様の星の下に産まれたの?あんたは!!!」
「てめぇ、いくら何でも笑いすぎじゃないか?」
「ご…ごめん……分かってるの、あんたは悪くないって……でも、でも………」
「アハッハハハハハ!!!!!!」
今は笑わせてほしい。だって、おかしいんだもの。
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「本当にごめんなさい」
「いいかい?今度からは曲がり角を曲がる時は気を付けるし、運転中にアイスを食べたりしちゃだめだよ。事故しちゃったら冗談じゃすまないからね。自転車はちゃんと両手で運転して」
「うん……ごめんなさい」
僕の名前は和倉詠史、危うく事故りかけた小学生の女の子をしっかりと叱るタイプの男の子である。
最近は知らない子に挨拶もしない、どんなケチをつけられるか分からない世の中だなんてよく言うが、流石に限度と言うものがある。子供の過ちは大人がしっかりと正してやるべきなのだ。
「…ねぇお嬢ちゃん、貴女ってもしかして健全的魔王ちゃんじゃない?」
水菜乃が普段の様子からはとても考えられないほどに優しい笑みで少女の目線まで腰をかがめた。ぶっちゃけ不気味である。
「え?なんでそれを」
「覚えてない?あたしよあたし、魔王様の№3のカードをもらった女よ」
少し首をひねった後に、思い出したようで「あっ!」と声を出した。
「本当だ!!お姉ちゃん、久しぶり!!」
「ええ久しぶり。相変わらず可愛い魔王ちゃんね。
でも、魔王とはいえ健全的なんだから、これからはもう悪いことはしちゃ駄目よ。幹部からの忠告です」
「うん……ごめんね」
「謝れて偉いね。そしてこれからはちゃんと気を付けるってお姉ちゃんとこのアイスの精霊に約束してくれるかな?」
「うん、約束する!!指切りげんまんする!!」
アイスの精霊じゃねーよ……と、言いたいが、言い出せる空気じゃない。
「指切りげんまん嘘ついたらネットに個人情報な~がす、指切った」
現代っ子の罰ってはりせんぼん飲ますんじゃないの?進化してるの?時代の変化なの?
「それで、お姉ちゃんとアイスの精霊ちゃんは何て名前なの?」
「ん?あたしは波園水菜乃、そしてこっちは和倉詠史よ。気軽にアイス君って呼んであげて」
「うん、私は花染琴流!!よろしくね水菜乃ちゃん、アイス君」
「出来れば詠史の方で呼んで欲しいんだけど」
「ん?アイス君じゃないの?」
「うん、それは滅多に言われないというか、一部の人間だけど言うか」
たったいまどこぞの悪魔が適当に思いついた腹立つ造語と言うかね…
「とにかく詠史でお願い」
「うん、詠史君。さっきは本当にごめんなさい。もうすぐ夢が叶うって聞いてテンションが上がっちゃったの………」
「夢?夢ってなんなの?」
「えっとね、えっとね!!私は魔王になるのが夢なんだけど、もうすぐ魔王城が貰えるんだって!!凄くない!!??魔王っぽくない!!??楽しみなの!!!」
おもちゃでも買ってもらえるのかな?それにしても、聞いているだけで僕の邪気が払われるほどに明るく朗らかで無邪気な声だ。子供らしい可愛らしさが眩しくて仕方ないではないか。
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『ガキ相手に大人げないわよ~~~』
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どこぞの初川夢邦とか言う邪悪な子供とは大違いである。
「そう、それは良かったわね。楽しい夏休みになればいいわね」
「うんっ!!詠史君と水菜乃ちゃんもね!!
じゃあ私、そろそろ行かないとだから、また今度遊ぼうね!!!」
「ええ、バイバイ」
「気を付けるんだぞ」
「うん。本当にごめんなさい、そしてありがとう!!」
そうして長い髪をたなびかせながら去っていく琴流を見ていると水菜乃が口を開けた。
「抜けてるところはあるけど、とっても可愛くて良い子ね。あんたと真絹の子供もあんな良い子になるといいわね」
「ああそうだな………って」
僕は水菜乃を真っすぐに見つめた。腹の立つ表情で僕を見つめ返してくる。
「子供作る気はないっての!!!」
「良い子になるといいわねぇ~~」
「僕に子が出来たとして、少なくともお前みたいにはならないようにしっかり教育してやるよ」