「どうですか、詠史さん、水菜乃。ここが今日から私たちが過ごすことになる初川家所有の別荘になります!!」
真絹につられて見たそれの高さは一般的な3階建てのアパート程度……しかしながら目の前にそびえているのはアパートや僕が想像していたペンションやモーテルと言ったものとは違った。この建物に適切なワードを選ぶとするならば……
「城じゃん」
そう、城なのである。おとぎ話でよく出てくるような洋風の優雅で洗練された神秘的な美しさを放っている城ではなく、日本風のお城。荘厳さと力強さをたたえた無骨ではあるが見る者の心に特大の感動をもたらす国宝に指定されていそうなタイプのお城である……もっとも大きさは先に言ったように3階程度の大きさなのでスケールでは少々下がってしまうがそれでも素晴らしい。
「うふふ、びっくりしていただけましたか?
もう私たち初川家が忍者の家系であることはお話ししましたよね。ここは私たちのご先祖様が修練の為に作った秘密の特訓場…いえ、特訓城なのです!!」
「どういうことなの?」
水菜乃が楽しそうに真絹の肩に手を置く。こいつもワクワクが止まらないようだ。
「忍者としてのスキルを向上させるための施設がこの中にいっぱいあるんです……と言っても、ここが最初に作られたのは100年以上前ですから当時の施設をそのまま使うことはできません。それに危険も多いので、そう言った部分には触れず今回はあくまで宿泊用として使います」
「なーんだ、ちょっと残念だ」
「すいません詠史さん。ただ見学程度ならできるので後でご案内さし上げます!!」
「ありがと真絹!」
「うふふ、詠史さんに喜んでいただけることは至上の嬉しさです」
「と言うか真絹、お前洋館って言ってなかったか?」
「サプライズです!!普段詠史さんにスリーサイズからやっていただきたいプレイまで赤裸々に正直に語る私のささやかな嘘……これが恋の駆け引きって奴ですよ」
「それはちがうぞ。まぁいいけど」
これから僕は忍者の特訓城に宿泊するのか……それに。
僕は後ろを振り向いた。すぐそばには広大な海が広がっている。
「すぐにでも海で遊べるロケーションだな」
「そうでしょう。うふふ、荷物を置いたら早速遊びますか?」
「そうだな。水菜乃はどうする?」
「いいわね。ビーチボール持ってきたから楽しみにしときなさい」
「それで詠史さん、水着は「白いワンピースの奴で頼む」はいっ!!ちなみに隙を見てポロリをするというのは「却下だ」……善処します」
それ、結局実行しないやつじゃねーか……まあいい、僕たちしかいないならそこまで目くじら立てる必要もないだろう…僕が真絹の恥知らずのアプローチを上手にかわして、楽しく健全的なバケーションにすればいいだけの話「きゃぁぁぁぁ!!!!!!!!」………
不意に僕たちの耳に絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえてきた。三人の目が一瞬だけあったあと、揃って声のあった方に向かう。
「ここかしら?」
砂浜にあった大きな岩場…どうやらこの辺から聞こえたようだ。
「二人とも、僕の後ろに……」
「はい」
ゆっくりと辺りを探っていく……さっきの声はなんだ?ここに僕たち以外に人が?それに悲鳴?
孤島と言う場所のせいなのか、殺人事件と言う物騒なワードが僕の脳を占領していく……確かに非日常的な体験を求めてはいるけれど流石にそこまでは望んでねーぞ……クローズドサークルで殺人なんてまっぴらごめんだ。
ゴクリ
僕が唾を呑み込んだ音だったのか、それとも後ろにいる真絹か水菜乃が発したのか……それは分からない……波の音だけが響き渡る中、僕たちは歩いていく……そして
「は?」
「あらあら」
「まきゅ??」
僕たちは発見してしまったのだ。
「あわわわわわわわ……しましましましましま…………しまった」
何を発見してしまったのかと言えば……
「素鳥さん?あの……こんなところに何故?……何故あなたはこんなところで………」
そこに何故かいたのは素鳥皇斗。言いづらそうな真絹に代わり僕が続きを口にしてやる。
「なんでこんなところで素っ裸でいるんだお前は……そして」
僕は視線を下に落とした。そこには金色の花の様な優美さを放つ犬前灯華さんが寝ているではないか。信じられない物を見たような驚愕の顔をしている。
「なんで犬前さんが……まさか……お前………」
「女性を気絶させて……しかも全裸………サイッテーーの男」
水菜乃が嫌悪感丸出しで僕の背後から素鳥に声をかけた。そんな水菜乃を見て素鳥の身体は砂場に崩れ落ちた。
「違うんだ………これは……違うんだよぉぉぉぉ!!!誓って、お前らが想像しているような外道なことはやってない!!!だって……だって、俺は………
健全的露出狂なんだよぉぉぉぉ!!!!!!!!」
素鳥の感情が満ち満ちた慟哭が海に、空に、そして僕たちに響き渡った……まるでこれから僕たちに襲い掛かる困難を告げる、ゴングのように。