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第39話 迫りくる岩って怖いんだよ

 僕の名前は和倉詠史…今現在


「きゃぁぁぁぁですわ!!!」


「ですわ必要ですか!!??」


ゴロゴロゴロ!!


「和倉さんこそ迫りくる岩に襲われている今、そんなツッコミ必要なんですの!!??」


 同じ学校に通っている24歳の女性と共に全速力で岩から逃げている男である。


 白状します。夢邦がいかに性悪だろうとしょせん小学生、そんな大した試練が待っているとは思っていませんでした……


 いやまて、そうだ。いくら奴が生まれつきの性悪だとしても流石に僕たちの命まで脅かすわけがない……よね……


 いや、そうに決まっている。信じるよ、僕はお前を信じるよ。とにかく、だとすればこの岩だって本物なわけがない。と言うかこんなバカでかい岩をそうそう簡単に仕掛けられるわけがあるか。


「そうと決まれば簡単だ!!」


「和倉さん、何を!!?」


「どうせこの岩は張りぼてです!!僕の鍛え上げたマッスルで受け止めてやりますよ!!

 うおぉぉぉぉぉ!!!!!!」


 足を踏ん張り、筋肉を隆起させ、迫りくる岩に己の肉体をぶつけ……


「ぎゃぁぁぁ!!!!」


「和倉さ~~ん!!!??吹っ飛ばされましたよ!!滅茶苦茶吹っ飛ばされましたよ!!!」


 く…車で轢かれた感覚ってきっとこんな感じなんだろうな………


「ほら、起きてください!!あそこ!!あそこの部屋に逃げ込みますわよ!!」


 犬前さんに手を引いてもらい何とか起き上がった僕は、彼女と共に扉の中に入り込んだ。これでいったん安心できる。


「はぁはぁ……死ぬかと思った……」


「ご無事で何よりですわ……でも、よく生きていられましたわね」


「ああ、止められはしませんでしたけどバスケットボールみたいに硬くて弾力がある岩でした…ぶつかっても死にはしないです………吹っ飛ばされましたけど」


 ああ、かっこ悪ぅ………真絹や水菜乃に見られないで良かった………


「しかし、咄嗟に入りましたけれどここは何の部屋なんでしょう……暗くてよく分かりませんわ」


「えっと……電気のスイッチは……これかな?」


 スイッチを押すと眩い電気が輝いた。少し目を細めたが、とある文字を見つけたと同時に自分でも恐ろしいほどに瞼をかっぴらく。


「え?」


「ほええですわ…」


壁にデカデカと書かれていたその文字は…


『キスしないと出られない部屋』


 慌てて入ってきた扉を開けようとするが、ガチャガチャと言うだけで開く様子が全くない。


「閉じ込められた……」


 う……わぁぁぁぁ………


「あれ?僕の人生で一番のピンチ到来じゃね、これ」


~~~~~~~~~~~


「はぁはぁはぁ………くっ」


「叔母さんどうしたの?9歳だからって手心加えなくてもいいのよ」


 本気で触りに行っているのに、夢邦ちゃんにかすりもしません……


「まだまだこれからですよ……」


 夢邦ちゃんは天才です……その恵まれた観察力と分析力をもってして対峙している相手の行動を完璧に見切り、1秒後の動きを予想しきるのです……フィジカルでは私の方が圧倒的に上ですが、その力のせいでタッチが出来ません。


「行きます」


「カモーン」


 何度も何度も手数を増やして夢邦ちゃんをタッチしようとします。しかし、ことごとく見切られよけられてしまうのです……本当にこの子は……なんという才能なんでしょう。


「ほらほら、もっと頑張ってちょうだいよ。あと少しでタッチできそうよ」


 良く言いますよ……まったく、困った子ですね……


 やはり、無策では身体に触れることさえできない……しかし、私には策があるのです……夢邦ちゃんは完璧に相手の行動を見切る……それを逆手に取る手段があるのです。


「そろそろ触らせてもらいますよ」


 またしても私は突進をしました……トップスピードから少しだけ遅くして……


 勝負を仕掛けるのは残り5秒、私のトップスピードを誤認した夢邦ちゃんの虚をつき、身体に触るんです。


 そして残り5秒になりました。ここで「勝負をしかけるのよね」


 ゾクゥ


 思考を先読みされた?いえ、偶然です、残り5秒で勝負に出るなんて予想できる……行きますよ、正真正銘の最高速度で


「うぉぉぉ!!!」


 夢邦ちゃんは穏やかに微笑みました……その微笑みは怖いくらいに不気味で……いやな予感をよぎらせる笑みです……


 そしてその嫌な予感はすぐさま現実として私の目の前に現れました。


「惜しかったわね……狙いは良かったんだけど」


「そんな……」


 私の手のひらは虚空を切っていました。可愛い夢邦ちゃんの身体には程遠い場所で。


「トップスピードを誤認させようってのはあたしの攻略法として適切だけど、それをあたしに悟られた時点でお終いよ」


「私の考えはお見通しだったって言うんですか?」


「ええ、だって叔母さんから必死さが感じられなかったもの……愛しの詠史に出会うためなら遮二無二頑張るのが叔母さんのはずなのに明らかにおかしいわ……その違和感さえあれば答えにはすぐさま辿り着く。

 だってあたし、天才だもの」


 くっ…完敗です…姪っ子に完敗…情けないですね。これでも一応天才と呼ばれていたんですが……みじめに思っちゃいます。


「しかし叔母さん、本当に残念なことしたわね」


「仕方ありません、詠史さんは私が自力で見つけ出しますよ」


「いや、そういう意味じゃなくって」


「じゃあどういう意味ですか?」


「今詠史の奴、灯華と一緒にキスしないと出られない部屋にいるから早く見つけないとファーストキス奪われちゃうか「うぉぉぉぉ詠史さぁぁん!!!!!!!」はやぁい」


 待ってください詠史さん、光速で貴方を見つけ出し、一刻も早く私がその部屋に入ります!!


「キスしたいですぅぅぅぅぅ!!!!!!」


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