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第40話 あたしってダメンズ好きなのかしら?

 気まずい……


「………」


「………」


 俺の名前は素鳥皇斗、完全に俺のことを敵視している女性と二人きりになって死ぬほど苦しい気持ちになっている男である。


 いや、俺が悪いのは分かるよ。ファーストコンタクトが全裸なのは普通嫌だよね。しかも腹を割って話せるであろう幼馴染たちと離れ離れになって二人きりになったらそりゃ心細くもなるだろうし、俺みたいな危険人物と距離を取りたい気持ちは分かる………


 でも、気まずい……内臓が全部口から出てきそうなレベルで気まずい。 


「…………」


 え?どうする?俺どうする?このままでどうする?無理に仲良く会話する必要はないか?いや、でもだからと言ってこの状況は不味くないか。だって心身ともに疲労感が凄いんだ。歩いているだけなのにフルマラソン走っている気分だ。


 落ち着け素鳥皇斗……俺は清く正しく美しくをモットーにしている男……裸の俺を見せてやれば何とでもなるはずだ。大丈夫、肉体の裸はともかく心の裸は誰に見せても恥ずかしくないもののはずだ。


「今日はいい天気ですね」


「……今城の中なんだけど」


 ですよねぇぇぇ!!!!天気なんて関係ないよね!!!


 何やってんの俺?なんで会話が無くなった時に最後に出す話題を初っ端から出したの俺?バカなの?うん、バカだな俺………くっ、俺ともあろうものが緊張しているってのか?同年代の女の子との会話なんてこれまで腐るほどしてきただろう……大丈夫だ。落ち着け、俺ならできる。何故なら俺は健全的だから。

 そう、健全的露出行為についての誤解を解いておこう。高尚とまではいかなくても素晴らしい行為だと分かってもらえれば警戒心がなくなるはずだ。


「あのさ、裸になるのってとっても気持ちいいんだよ。自然と一体化したみたいで、世界が自分の一部だって分かるんだぞ。良かったら君もどう?とっても健全的な趣味だぞ」


 よしっ、完璧だ。このにこやかな笑みと合わさって警戒心は一気に溶けていったはず。


「……………はぁあ?」


 あれぇ???間違っちゃたカナ?


 なぜだ?何を間違った?健全的露出行為が素敵なものだと説明できなかったのか?俺の説明力不足なのか?


「サイテー」


 グサァァ


 なんか刺さった………俺の胸に何か見えない槍がグサッと刺さった!!え?何この気持ち、とっても悲しいんだけど!!俺……俺………間違ってる??


 なんだ?何が不味かったんだ??裸か?裸が不味かったのか???そういえば聞いたことがある、女性の中には男性の裸に嫌悪感を抱く人がいると……確か和倉の幼馴染だったよなこの子、よし、そこから確認しよう。


「えっと、和倉君の裸とか見たことある?」


「……セクハラ?」


「違う!!」


 なんでなんだぁぁ!!!もう嫌だ、この地獄みたいな空気!!!!でもこれ俺だよね、多分俺が悪いんだよね!!!!


 裸だ、きっと、いや間違いなく裸が問題だ。おそらく俺と彼女とでは裸への認識が違うんだ。きっと彼女の中では裸になったら不健全なことになるとなっているに違いない、まったく最近の若者はすぐにそっち方面に結び付けるんだからまいる。


 裸とはそんなふしだらなものではない、人間のあるがままの姿であり、服という装備を取り払った素の力、つまり真なる己の力を引き出せる原初にして最強のファッションなのだ。


 ただ、これ以上考えなしに裸について語ったらこの子の中の俺の株価はマイナスになる。考えろ、素鳥皇斗、俺の人生の全てをかけて考えるんだ!!


 うぉぉぉぉぉぉぉ!!!


~~~~~~~~~~~


 なんか急に黙ったわねこいつ………何考えてんだか………こわっ。


 あたしの名前は波園水菜乃、外での露出行為に快感を覚えるという初対面の変態男子と二人きりになってしまった可哀相な女である……


 ああ、こうなったら詠史や真絹がどれだけ心強い存在だったのか分かるわ……


 そして、気まずっ。シンプルに気まずっ……多分全裸男子もこの地獄みたいな空気を緩和しようとして話しかけてきたんだろうけど話題が最悪じゃない…初対面の女子相手に普通裸トークする?風俗かなんかと勘違いしてるんじゃないかしら?


 ああ、これだから男は…真絹の過激なアプローチを受けても何とか薄皮一枚耐えている詠史の爪の垢を煎じて飲みまくりなさい。欲望は自分で制御してなんぼよ。


 そんなことを考えていると不意にあたりが薄暗くなってきた。生暖かい風がふいてきて、少し寒くなってきた。エアコンが強くなったのだろうか?


 ドロドロドロドロドロドロドロドロ


「なんだ?このBGM」


 生物の危険をかき立てるようなBGMがあたりに響く……これはまさか。


「お化け屋敷?」


「え?いまなんて?」


 途端に裸男の前に黒い布切れが落ちた。


「ひゃぁぁぁぁ!!!!!!!」


 妙に綺麗な声での絶叫があたしの身体にこだまする。


「なんだなんだんあんななんなんなんなん!!!???」


「落ち着きなさい、言葉になってないわよ。ほら、ただの布切れが落ちただけだから」


「えっ…布?ああ、そうか………なるほどなるほど……心臓が止まるかと思った……だがタネが分かっちまえばどうということは…」


 ゴトンッ!!と何かが落ちた音がした。全裸野郎は「ヒッ!」と言いながら音の方を向く。するとその動きを見計らったかのように上からこんにゃくが垂れ下がってきた。そして野郎の首筋をぬるりと滑らせる。


「gtrねおbがえお;hrgぽう!!!!!?????」


 …古典的すぎて最近は滅多に見ることがない仕掛けだというのに面白いくらいビビるわねこいつ………


「ちょっと、もう少しカッコつけなさいよ。ビビりすぎじゃないの」


「だって……だって……俺はカッコ付けなんてしないの!!俺はいつでも素の素鳥皇斗なの!!」


 ははは、要するに猫を被ることも見栄を張ることもできない不器用な野郎ってわけね……


 ポトリ…ポトリ


 何かがあたしの髪の毛に落ちてきた。何気なくそれを触ると真っ赤なものが手のひらについているではないか。


「血だぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


「だから落ち着きなさい!!」


 ああもう……なんなのよこいつ……


 滑稽だわ。ふふっ♪


「どうやらお化け屋敷の試練みたいね……あたしが前にいくからあんたは黙ってついてきなさい」


「えっ?いいの?」


「いいの。あたし、こういうの大好きだから大船にのったつもりでいなさい」


 ったく、詠史だったらこんな弱いところ絶対に見せないわよ……ふふっ♪


 ああ~~おもしろっ♪だめねぇ、あたしは、滑稽で情けない男が大好きなんて。


 少し上機嫌になっていたあたしは、裸野郎の顔が少し赤らんでいたのに気づくことができなかった。


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