グビリとワイングラスに入れたイチゴオレを喉に通す。溢れんばかりの甘味とアクセントの聞いた酸味、そして喉越しがなんとも癖になる。あたしは初めて飲んだ時からずっとこの子に首ったけよ。
「すっごい、すっごい!!皆生き生きと魔王城を攻略していってるよ夢邦!!」
「ええ。流石はあたしが選んだ高校生たちね」
まぁ、一人は24歳だけど。
「特に真絹ちゃんったらキスしないと出られない部屋を爆発で切り抜けるなんて、発想と行動力が凄い!!真絹ちゃんならピッキングで入れただろうになんで爆発なんてしたんだろ?」
多数のモニターが設置されている新生初川城、もといお姉ちゃんの魔王城にある一室であたしとお姉ちゃんは優雅に見物をしていた。高校生がキャピキャピする動画なんていくらでもあるけれど、知り合いが自分の作った仕掛けで楽しんでいるのを見るのは格別ね。
「追い込まれて正常な判断が出来なかったのよ。恋は盲目なんていうけれど、焦りは賢人をも蒙昧とさせる……普通に入って、普通に鍵をかければ詠史とキスできたかもしれないのに滑稽ね」
「……うんっ!!そう思うよ!!!」
おっとしまったわ。お姉ちゃん相手に難しい言葉は厳禁だった……お姉ちゃんはまだ小学生なんだからちゃんと手心を加えてあげないと。
「水菜乃ちゃんと皇斗くんもお化け屋敷ゾーンをグイグイ攻略していってる……と言っても水菜乃ちゃんが引っ張っていってるだけみたいだけど……カッコいいなぁ。私も将来こんな風に好きな人を引っ張っていきたいなぁ」
ああ、それにしてもお姉ちゃんったらなんて可愛いのかしら……本当に私と血肉を分けた姉なのかしら?神なんて信じちゃいないけれど、もし神がお姉ちゃんを作ったんだとすれば褒めて遣わすしかないわ。
桜色の髪の毛、白くてぷっくりとしたキュートなほっぺ、無邪気に全てを平等にうけいれるクリクリのお目目、少し膨らんでいる胸、瑞々しくて見ているだけで柔らかさが伝わってくる肌……そして身体からもれでる圧倒的なきゃわいさ。
ああ、ゾクゾクする、キュンキュンする。どうしてお姉ちゃんはこんなに可愛いのかしら?どうしてこんなに愛らしいのかしら?身も心もどうして愛嬌に満ち満ちているのかしら。
あたしはお姉ちゃんの為なら何でも出来る。魔王城が欲しいと言われたらあたしのポケットマネーを使って初川城を魔王城にリフォームしたし、楽しいイベントの為に年上5人組を招集した。元名探偵とかいう肩書になっていない肩書を誇らしげに背負っているお爺ちゃんを始めとして老害と権力大好きな阿呆どもしかいない花染家の中であたしが良心を失わず、善の行為を忘れず、健全的な生き方が出来ているのはお姉ちゃんのおかげ……
「見てみて!!真絹ちゃんが詠史君に抱き着いた!!ほっぺたが落ちそうなくらい嬉しそうだよ!!
いいなぁ、私も好きな人欲しい…彼氏欲しいなぁ。私も………」
そう思っているお姉ちゃんの言葉から誰かを想っているような気配を感じた……でもきっと気のせいね。まだ小学生なのよ、お姉ちゃんに彼氏なんて速いわ。
「そういえば真絹ちゃんって何がきっかけで詠史君のことがこんなに好きになったの?」
「あら、知りたいの?」
「うんっ!!夢邦知ってるの?」
「ええ、客観的な事実ならね…でも面白くはない話よ。話す価値もないわ」
「ええ~~そうなの?」
「そうなのよ」
あたしが知っている上辺をなぞっただけの事実じゃね……そのうち詠史から聞き出しましょう。
あんたは何で自分一人だけでも絶体絶命な状況に陥っていたのに叔母さんを助けたの?自分の腹に風穴を開けた叔母さんを……ってね。
「ん?皆が合流したみたいだよ」
「そうね、いよいよ最後の試練にたどり着いたみたいだわ」
「そういえば最後って何の試練なの?夢邦は楽しみにしとけって言ってたけど」
「ふふっ、大したものじゃないわよ。ただ、あたしお仕事で悪の組織を潰しているじゃない。で、この前潰した組織がちょっと面白い研究をしてたのよね。だからそれを仕掛けてみたの」
「つまり?何を仕掛けたの?」
「みれば分かるわよ」
ふふふ、最高に滑稽な大人どもの醜態が楽しみね……乱痴気騒ぎにならないことを祈るわよ。
「ラブコメによくある展開だしね」
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「ここが最後の部屋みたいですね」
「ああ、最後の試練って書いてあるしな」
僕の名前は和倉詠史、初川夢邦と言うチビガキの皮を被った悪魔が住まう魔王城を攻略している男の子である。そして仲間と共にようやくここまでやってきたのだ。
「さぁ、最後の勝負だ!!いくぞ!!」
「おおーー!!!です!!!」
「やったらーー!!!ですわ!!!」
「あんたらやる気に溢れてるわね」
「もう幽霊でない!?出ないんだよな!!」
「あたしは変な野郎のおもりしていたってのに…まぁ良いわ行きましょう」
水菜乃が扉を開けて僕たちは中に入った。ただ、中には向こうの部屋に続くであろう扉が一つあるだけで他には何も……
「ん?」
いや、眼前にある壁の一部が少し動いていく。そこから何かの穴が出てきた……なんだろう?そう思っていると水が勢いよく出てきた。
「なっ!??」
「夢邦ちゃん、水責めをする気ですか!!??」
水責めだと?おいおい、そいつはよくねーな……
「とにかく防いでみるか」
穴の部分をとりあえず手で塞いでみた。案の定完全に塞ぐことはできずに、漏れ出ている……しかし真に恐るべきはそんなことではなかった。
「ねぇ詠史……気のせいかしら」
「いや、気のせいじゃねーと思う」
水に触れた箇所、正確に言えば水に触れた服が溶けていることに気づいてしまったのである。
「それはエロを押し出したラブコメにのみ存在しているオーパーツだろ……そうだよな」
そんな僕の焦りをあざ笑うように壁の一部がまたしても開き、謎の籠と文字が現れた。
『服だけを溶かす液体よ。もし服を溶かしたくなかったら、この籠の中に服を入れなさい♪』
「あの……悪魔め」
こうして僕たちの最後の試練が始まったのだった。
「なんてことです!!素鳥さんさえいなければ合法的に詠史さんに私の裸体をさらけ出せたのに……だせたのにぃぃぃ!!」
真絹がなんか言ってるが無視しよう。