周りの皆が慌てている…まぁそれはそうだろうな。
「くっ!!と言うかこれ試練なんだよな!!服を溶かす水相手にどうしろってんだ!!??」
「詠史さん、それに他の皆様!!あれを見てください!!天井にボタンがあります!!おそらくあれをタッチできればクリアできるのでしょう!!」
「でも高すぎるわ、あんなところとてもじゃないけど届かないじゃない」
「だからこそ水なんですわ。あそこまで浮上すればタッチができるようになる……ただし裸になる………ひーっ!!嫌ですわ!!!殿方に見られるなんてまっぴらごめんですの!!!」
犬前さんの絶叫がこだまする……俺の名前は素鳥皇斗、先ほどから不思議な胸の高まりを覚えている健全的露出狂の男である。
この鼓動はなんだ?まだ幽霊が怖いのか……いや、違う。どっちかと言えば初めて露出をしたときの様な……なんだ?これは…いったい。
「よしっ、ちょっと私が跳んでみましょう。これでもくノ一、身の軽さには自信があるんですよ」
戸惑う俺を置き去って、初川さんが軽く体を伸びした。そして思いっきり地面を踏みしめて天井に向かってカンガルーのように跳んだ……が、まるで届いていない。
「あっちゃぁ……こりゃ駄目ですね。既にそこそこ水が溜まっているせいで足場が悪すぎます……と、言い訳をしてみましたが今の私では足場がまともでも届きませんね」
「真絹でも無理か……素鳥、お前ならどうだ?」
「お……俺か?」
「そうよ、あんた詠史の倍くらいでかいんだからいけるんじゃないかしら?」
「おいこら水菜乃、流石に倍はないだろ倍は!!」
「だまらっしゃいミスター158センチ。それに確か運動神経も良かったのよね。届かないかしら?」
ドキドキする…声が聞こえなくなるくらいドキドキの音がうるさいのに、波園さんの声ははっきり聞こえる……応えてあげたい。
「ああ、やってみる」
大丈夫、俺なら行ける……行くぞ。
「おんらぁぁ!!!」
気合を入れてとんでみたが、それでも届かない……くそっ、俺はなんて情けないんだ。
「うう……素鳥さんでも無理となると……作戦が必要ですわね……和倉さん、素鳥さんに肩車してもらえば届くのではないんですの?」
「そんな不安定な高さにしたら跳べなくなるでしょう。それに詠史さんが危険です」
「それもそうですわね……ではどうすれば………」
「ああんっ、詠史ならともかく他の男に裸なんて見られたくないわよ!!」
波園さんの声が俺の腹を貫いた………いや、そうだろう……異性になんて裸を見られたくないのが普通なのだ……
「ふぅ…」
落ち着け俺……俺なら冷静になれる………
「私が詠史さんにおっぱい揉んでいただければ喜びの力で身体能力が上がるような気がするのですが」
「隙あらば揉ませようとするの止めてくれないか?」
「いいじゃない、減るもんじゃないし揉んであげなさいよ。あたしの裸を守りなさい」
「だーまーれーー、それにお前の裸なんて守る価値ないだろ」
「あんだとこら。こちとら花も恥じらう女子高生よ。国宝級の価値があるっての」
「花も枯れさせる呪術師の間違いだろうが」
「ああ?やるの?チビ幼馴染」
「おうよ。表出ろオカルト幼馴染」
「表出れないのよ詠史コラ」
「じゃあ、さっさと出るぞ水菜乃オラ」
「ちょっとちょっと、お二人とも仲良く喧嘩はやめてくださいまし!!」
「この程度」
「喧嘩に入らないわ」
「「なぁ」」
「息ピッタリですわぁ」
「まきゅぅ……嫉妬で狂いそうです」
こんな時だというのにいつも通りのやり取りを繰り返している…きっと今普通じゃないのは俺だけなのだろう……彼らは例え服を全て溶かされようともちょっと腹が立つ程度なのだ……それだけの信頼関係がある。
いや、それならば俺こそもっとも服を溶かされようと気にしない男のはずだ……俺は健全的露出狂なのだから……
「ちょっと素鳥、あんたもなんか案をだしなさいよ。例えばあのボタンを押せる道具とかないの?」
ドキドキドキドキ
「なぁ、初川さん、ちょっと案があるんだけどいいか?」
「何ですか?詠史さんに自然に私のおっぱいを揉ませる妙案を思いついたんですか?」
「それは全く思いついていないんだが。君はそれなりに高い足場があれば届くんだろ」
「そうですね、詠史さんパワーがなくても何とか行けそうです」
ふふ、この人は好きな感情を隠していない。さらけ出している………
「んじゃ、俺を足場にすればいい。俺がこの中で一番高くてしっかりした足場になれる」
そう言うと俺は水がたまりつつある床に四つん這いになり、できうる限り高さを意識した足場になった。
「おお、単純ですがこれなら行けそうです。
後は詠史さんからパワーさえいただければ」
「………揉まないけど………今日の夜一緒に寝てやる」
「よっしゃぁぁぁ!!!元気130パーセントです!!!!いきますよ!!!!」
「元気のパーセンテージ中途半端な気がするんだけど」
「キスなら1000パーセントです!!!」
「いけっ、130パーセントの女」
バシャバシャと強い意志と共に助走をする初川さんが目に入った…そして俺の背中を強く強く踏みしめた。
「届け!!私の想い!!!!」
上から何かが押された音がした。すると排水口が現れ瞬く間に水が消えていくではないか。
「……ふぅ………見てくださいましたか詠史さん!!私の想いは届きましたよ!!」
「うん知ってる、と言うか想いはずっと前から届いてる」
「うふふ♡それに素鳥さんもありがとうございました」
初川さんの綺麗な礼の次に波園さんが俺に近づいてきた。にわかに鼓動が強くなっていく。
「よくやったわ。いや本当に、助かったわよ。素鳥」
ドキドキドキドキする………でも、とてつもなく幸福だ………
ああ……うん……間違いない………俺は健全的露出狂……だから言う。
「波園さん、俺の彼女になってください」
自分の想いを隠すことなんてしないのだ。
「えっ?」
「ほえっ??」
「えぇぇ?」
三人の驚きの声が部屋にこだまする…そんな中、波園さんは大きく目を見開き……そして口を開いた。
「はぁぁ!!!!!!!!!???????」