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第44話 初めての告白

「波園さん、俺の彼女になってください」


 彼女になってください?は?は??こいつ…今なんて言った?彼女になってください??


 え?この全裸男が……あたしに………まだ出会って一日目のあたしに……初対面の印象最悪のあたしに………愛の告白をしたって言うの?


 え?ちょ……え??えっと……えっと……


「はぁぁ!!!!!!!!!???????」 


 自分の中の消化しきれない想いが感嘆の音となり、口から漏れ出た。ようやく少し落ち着いたと思ったら素鳥はあたしのことを真っすぐな目で見つめてきている。なんて澄んだ瞳なんだろうか。


「愛してるんだ…」


「ま、待ちなさい。あんた冗談でも言っていいことと悪いことが」


「冗談なんかじゃない!!俺は波園さんに惚れてしまったんだ!!」


 本気……だ。嘘でしょ、マジなのこいつ……ちょっ……そんないきなり……


 つい先ほどまで全裸になる危険だったことなんて露忘れてしまったあたしは助けを求めるように詠史に目を向けた。


「えっと……とりあえずちゃんと答えてやれ。そいつが礼儀だ」


 んなこと分かってるわよ……でも………こんなの初めてだし………それにあんた意外の男子とそんなに仲良くしてこなかったし……告白なんてされると思ってなかったし……えっと…えっと……


「水菜乃、頑張ってください!素鳥さんは本気のようですよ」


 分かってるわよ真絹この野郎!!誰もかれもがあんたらみたいに自分の想いを真っすぐぶつけられると思わないでよ。


 はぁはぁはぁはぁ。


 あたしは息を大きく吸い込んだ。自分の肺の容量をオーバーしたと感じてもかまわず吸い込み続ける…そしてフーッと吐いた。


「素鳥、悪いけど出会ってその日に告白されたからってすぐにはい、喜んでと言える女じゃないわ。だから、あんたの彼女になってはやれない」


「そ…そうだよな」


 感情を振り絞ってなんとか断ってみたが…何にも悪いわけじゃないのにこれまで感じたことのない罪悪感が胸に沁み込んでくる。隠すことなく落ち込んだ素鳥の様子を見ればさらにそれは強くなった。


「いや、良いんだ。俺は健全的露出狂、自分の想いを隠すことがしたくなかっただけだからさ……答えてくれてありがとう」


「今は」


「ん?」


 なに?今勝手に言葉が……いえ、このままいくわ。


「あたしはあんたの露出狂な面や、お化けにビビる情けない面しか知らない…好きになる要素なんてないじゃない……だから………まぁ……」


 素鳥の方に手を差し出していた。


「まずはあんたを知ってからってことで」


「ありがとう波園さん」


「どこに礼を言うところがあったのか分からないわね」


 そうしてあたし達の手のひらは重なった。詠史のそれよりもずっと男の子っぽい感触がして…ああもう、初めての告白でおかしくなってるわねあたし………しっかりしなさい!!


「まきゅぅ……詠史さん、何だか私とってもドキドキしちゃってます。何千回目のプロポーズしても良いですか?」


「良いけど予め断っておくわ、ごめんなさい」


「良いですわね。青春って感じがキュンキュンしますわ……なんという眼福なんでしょう」


 夫婦漫才を繰り広げる詠史たちのやり取りも、悦にひたっている犬前さんの声も、どうにも耳に止まらない………


 ああもう………彼氏か……


「俺、頑張って波園さんの自慢のダーリンになるから。見といてくれよな!!」


 あたしはそんなちょろい女じゃない…そう、ない……だけど。


「ほどほどに…見とくわ」


 これヤバッ……


 すると扉が開き、パチパチと拍手の音が聞こえてきた。


「なんか思っていたのとは随分違うけど、とにかくおめでとう皆」


「皇斗くん!!好きな人が出来ておめでとう!!水菜乃ちゃんが惚れる男の子に頑張ってなってね!!」


「あっ、夢邦お前この野郎!!随分な試練を強要してくれたもんだな!!」


「小学生が考えた悪戯よ、高校生なら寛容な心で受け入れて欲しいものね。あんたたちの珍道中はしっかりと見せてもらったわ。うふふ、最高の娯楽だったわよ。特に最後の告白わね」


「そうそう!!みんな本当に凄かった!!私胸がドキドキしっぱなしだったもん。大きくなったら私も皆と同じようにこの魔王城を攻略するね」


「琴流、この城の主ってお前じゃなかったっけ?」


「自分の城を攻略するくらいいいじゃん…さて、そして見事に城を攻略された魔王としてのお勤めしないとね」


 そういえばそんな設定だったわね…そんなことすっかり頭から吹っ飛んでたわ。


「なんだ、最後は魔王との戦いだと思ってた」


「もう、詠史君、私はただの魔王じゃないよ。健全的な魔王様なの。無駄な殺生はしないタイプの魔王様なんだよ。だからこんなものを用意してみました」


 琴流ちゃんが身体を大きく動かして扉の奥にあるものを披露した。そこにあったのは色とりどりの美味しそうな食事の数々である。


「凄いですわ。これ、シェフを呼んだんですの?」


「違うよ。私がぜーんぶ作ったの。いっぱい練習したんだよ」


「マジ?」


 詠史の言葉に琴流ちゃんはとびっきりの笑顔で頷いた。


「マジ。皆の為に愛情いっぱい入れたからどうぞ召し上がれ!!」


 こうしてあたし達の魔王城攻略は終わった…ま、あたしの戦いはこれからなんだろうけどね。


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