「どーきん、どーきん。詠史さんとどーきん♡」
ああ、胸がドキドキします。普段の生活でも詠史さんにうざったらしいくらいにアピールをして同衾をすることはありますが、今日こそは手を出していただけるような気がしてなりません。
「何せ今日は、旅行中!!普段と違う空間は私たちに不思議な高揚感をもたらしてくれます!!普段はできないことでも、何故か出来る!!それが旅行です!!そうは思いませんか詠史さん!!!」
「うん、とりあえず自分の目論見を赤裸々に暴露するのはやめてみないか?」
普段のシングルベッドと違い、今回は夢邦ちゃんが気をきかせてくれてダブルベッドです。ダブルですよダブル、人間なんて一畳あれば寝れるというのにわざわざ大きくした、これはもう夜の逢瀬をするための大きさです。
「詠史さん、今日の下着はどんなのが良いですか?ヒモ?スケスケ?一周回って白下着?それともやっぱりノーパンノーブラがいいですか!!??
いえ、旅の恥は搔き捨てと言いますし、思い切ってオムツにしましょうか?私のイメージカラーですし、私と詠史さんの初夜はちょっとくらいアブノーマルな方が思い出に残るかも」
「白がお前のイメージカラーなのに黒歴史を作るの本当に上手だよなお前」
「良いんです。私たちが結ばれればすべては白歴史になるのですから」
夢邦ちゃんからエッチな気分になるアロマももらいましたし、この前水菜乃にもらったピカピカ光るゴムも持っています。シャワーもしっかり浴びてあんなところやこんなところもしっかり洗いましたし……あとは。
「詠史さん、バッチこいです!!」
「臨戦態勢なところ悪いが、そういうことをするつもりはないってば」
「もうっ、そんないけずなことを仰らないでください。はっ、そうです。いっそ最初から全裸で寝るというのも」
夜に気持ちを向けていると扉がコンコンとノックをされました。せっかくの夜に水を差されたような気分になりましたが、しっかりと服をただした後に扉を開き…
「はい、誰だ?」
と思ったら、私が服を直したのと同じタイミングで詠史さんが応対してくださいました。なんて気の利く御方なのでしょう。こんな些細なことでもますます好きになっちゃいます。100日間連続で乳首を吸われても平気なくらいはとっくに大大大大好きですけどね。
「あん?水菜乃か、お前どうした?」
泡の模様が大量に溢れているデザインのパジャマに身を包んだ水菜乃がそこにいました。どうやらお風呂から上がったばかりのようです。
「詠史、真絹………お楽しみのところごめんなさいね……」
いつもより憔悴している水菜乃に庇護の心を刺激されたのでしょう。私と詠史さんの愛の巣に快く水菜乃を招き入れました。備え付けの冷蔵庫からお茶を取り出し、水菜乃に差し出します。
「どうしたんだ?」
「いえ……ちょっと相談があって………取り合えずこれを見てちょうだい」
そう言うと水菜乃は一枚の手紙を出しました。私は詠史さんの背中におっぱいが当たるように気を付けながら覗き込みます。
「どれどれです」
『拝啓 波園水菜乃様
突然の連絡大変失礼いたします。セミの鳴き声が響き、暑さが身体を焦がす季節になりましたがお元気でしょうか?私は元気です、元気すぎます。貴女のことを考えるだけで動悸がバクバクとして、自分の潜在能力が発揮されているとさえ感じるのです。
本当ならばスマホにて連絡をしたかったのですが、連絡先を知らないため手紙をしたためさせていただきました。
私は波園さんの凛々しさ、愛らしさ、可愛らしさ、そして母性に惹かれており、世界中の誰よりも貴女のことを愛していると自覚しています。この想いを隠すことは絶対にいたしません。ここに再度貴女を好きだと言うことを宣言いたします。
長くなりましたが、本題です。貴女と文通と言うのも乙なものですがやはり私も現代人として貴女とコミュニケーションを取りたい……つまり連絡先を知りたいのです。
波園さんが良ければ連絡先を教えてくださると幸甚に存じます。
敬具』
こ……これは……
「特殊なラブレターじゃないですか。水菜乃の隅に置けませんねぇ」
「こんなもんいきなり送られたあたしの気持ちをまず考えてちょうだい。扉の隙間から差し込まれてたみたいなんだけど……あたしこんなことされたの初めてだからどうしたらいいか」
「私も同じことをしたことがあります。詠史さんは確か私に面向かって『紙の無駄になるからさっさと交換してやる』と言ってくださいましたね」
「そんなこともあったなぁ」
「でも、あたし詠史みたいに堂々とした恥知らずじゃないからそんなこと…」
「さらりとディスったなお前……まぁとにかくお前の好きなようにやれよ」
「んなこと言っても……さぁ………」
まきゅぅぅ…これはとても珍しいですね。水菜乃がこんな乙女みたいな顔をするなんて………普段詠史さん以外の男性と全く話してないせいでしょうか?
「はっ、なんだ?その気があるなら付き合えばいいじゃんかよ」
「それは無理」
「断言したな……じゃあ断ればいいじゃんか」
「断るのもなんかちょっと違う気が……って言うかおかしいのよ。普通まずは友達からじゃないのかしら?」
「それは違いますよ水菜乃。まずは友達からは一見無難なルートに見えますが、その言葉を受けたほうからすればよっぽどのことがない限り、恋人としてはみませんと断じられているも同じなのです。
だから私も詠史さんの友達だとは思っていません、将来の彼女であり妻であり、現在は詠史さんの忠実なる下僕であると自覚しています」
胸を張って宣言したのですが、詠史さんはこの志があまり好みじゃないようで
「その認識は捨ててくれ」
なんて言います。お優しいですよね。
「ああもう……面倒くさい………あたしだって友達くらいにはなってもいいと思ってんのよ。初手ちんちん見せられたのに随分優しい対応だと思うわよ……なのに……ああもう………」
「難しいところですねぇ。対応を間違ったら不健全なストーカーになるかもしれませんよ」
「怖いこと言わないでちょうだいよ」
詠史さんは難しい顔をしてお茶を飲みました。そして空中で頬杖を突きます。
「ふっ、まぁせいぜい悩むこっちゃな。お前も僕と似たような立場になったんだ」
「詠史おまっ……なんて性格が悪いのかしら」
「お前が今までやってきたことを見つめなおせ。
それにだ、良くも悪くも色恋沙汰ってのは当人同士がどうにかするしかないだろう。もし本当にストーカーにでもなったらともかく、今のところは大したことじゃねーって」
水菜乃がジーっと目を細めて両の手で頬をつきます。
「あんた、真絹からのアプローチが恥知らず過ぎるせいで感覚麻痺してないかしら?普通、こんな手紙を送ってくるのは危険信号真っ赤っかよ」
詠史さんは一瞬目を大きく見開き、私を見つめました。あまりに情熱的な視線だったので身をくねらせ甘美な想いに酔いしれます。
ああんっ、詠史さんったら水菜乃が相談しているのに……強引なお方です。愛してます。
「言われてみればそうかもしれんな」
「でしょ」
ああっ、水菜乃が去った後の営みについて想像するだけで……いえ、まさかまさかの水菜乃の前で?それは流石にアブノーマルが過ぎませんか?
でも……詠史さんが望むなら。
「悦びのエクスタシーです」
旅行のせいでしょうか……いえ、旅行のせいでしょう……
ワクワクな興奮が止まりません♪