青い海、青い空、白い砂浜…
「そして白い私、初川真絹です!!!」
初川島での二日目の朝、僕たちは海に遊びに来ていた。まぁプライベートビーチのある島にきて海に来ないという選択肢はないであろう。
「どうですか詠史さん、詠史さんは色白が好きだと信じ、一切の日焼けをさせないように気を付け、水着もしっかり白いワンピースタイプのものにしましたよ!!」
僕が白色が好きと言う、僕自身も初めて知った情報を振りかざしながらビーチパラソルの下でうつぶせになった。
「でもこのままじゃいけませんよね。詠史さん、日焼け止めを塗ってください。日に当たるところはもちろん、水着の中までしっかりとお願いしますよ」
「中に塗る必要性は?」
「触ってもらいたいからです!!そもそも好きな人に日焼け止めを塗っていただくのに、触ってもらいたいから以外の理由ってありますか!!!??」
「日焼け止めってのは日焼けを防止するためにするもんだぞ」
「じゃあ譲歩します。背中とおっぱいだけでいいのでねっとりと塗ってください。ぬりぬり塗ってください」
「まだおかしいものが残っているぞ」
「うう……これでもまだ首を縦に振っていただけないのですが、まったくもう、交渉上手ですね♪
仕方ありません、愛する詠史さんの意思を尊重し、おっぱいにだけ塗ってください!!!」
「お前の交渉術はいつもストロングスタイルが過ぎると思わないか?」
「違いますよ、これがドアインザフェイスと言うものです。最初に難しい条件を提案し、簡単なものに変えることで相手の承諾を得やすくなる心理テクニックです」
「最初の要求と最後の要求がほとんど変わってない場合でもそのテクニックは成立するのか?」
「しませんね!!まぁそんなことはともかく、塗りまくってください!!私も詠史さんに塗りまくりますので」
「ああ、そっか。じゃあお願いを「おっぱいで」しないわ。水菜乃に頼むか」
パラソルから離れようと思ったらシャツの裾を全力で掴まれた。
「それはないでしょう!!いいじゃないですか、お風呂じゃ石鹼をおっぱいで塗るなんて普通ですよ普通!!昨日読んだ漫画でもそうなっていました!!」
「その普通はエロ漫画限定だろうが。って言うか、お前僕と同じ部屋でそんなもん読んでたの?相変わらずどういうメンタルしてるんだよお前!!」
「シミュレーションをしておく必要があるかと思いまして……分かりました、おっぱいは塗る方も塗られる方も諦めますから、普通に塗って塗られてください!!!」
「わーったよ」
すると暑い風に乗ってクスクスと意地の悪い笑い声が聞こえてきた。
「結局承諾するのね。あんたって本当叔母さんに弱いんだから」
そこにいたのはやはり、夢邦だ。パレオのついたいたって普通の黄色の水着なのにこの女が着ていると、不思議と真絹より艶やかさがある…幼児体系のくせにどうなっているのだろうか。いや、真絹があまりにも真絹なせいで色気を感じられないせいだろうか。
「このくらいは普通にできるってだけだよ。それより他の奴らは?」
「灯華とお姉ちゃんは、今カヤックで海を疾走しているわ」
「何それ面白そう」
「悪いけどカヤックは一艘しかないからやりたきゃ二人が帰ってからにしなさい。サップ用のボードならあるから遊びたいならあれを使いなさい」
夢邦はイチゴオレを飲みながらゆっくりとこちらに近づいてきた。そして僕の上にちょこんと座る。
「ふーん。思ったより座り心地良いわね」
「何をナチュラルに人に座ってんだ夢邦」
「そ、そうですよ夢邦ちゃん!!まだ私でさえそんな真似したことないのに……うらやまやけしかりません!!今すぐ私と交代してしてください!!」
「まぁまぁ、そんなに声を荒立てないでちょうだい。しょせんガキのすることよ。詠史は叔母さんが大好きで、決してロリコンじゃないんだから問題ないって」
「えっ?詠史さんが私のことを大好き?いやぁ~~やっぱり夢邦ちゃんほどの観察眼を持っているとそこまでお見通しなんですね。照れちゃいます」
本当に嬉しそうな顔しよって、こいつは本当に扱いづらいくせに扱いやすいな。
「それにここがベストポジションなのよ」
「ベストポジションってなんだ?」
「ほら。あそこの岩場の隙間を見てみなさい、あんたの幼馴染とその幼馴染に恋した男子のやり取りが見えるでしょう」
「え?」
言われた場所を見てみると本当にそうだ。どこに行ったのかと思っていた水菜乃と素鳥が向き合っている。素鳥は普通の海パンだが、水菜乃は上にジャージを羽織っている。
「なんか言ってるみたいだけど、こっからじゃ聞こえねーな」
「あら?幼馴染の秘密を知りたいお年頃かしら?」
「うっさい。ちょっと気になるだけだよ」
昨日あんな頓狂な手紙を送ってきた素鳥だ。まさか妙なことはしないと思うけれど……大丈夫かな?
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俺の名前は素鳥皇斗、告白し、ラブレターを送った相手から呼び出された男である。
ドキドキドキドキ
俺、これから何を言われるんだろ……にしても波園さん……なにこれ可愛い……海だからか髪型いつもと違ってまとめられているし、露出している白い足もとっても綺麗で……あああ……なにこれ凄くときめく。
「素鳥、まず言わせてもらいんだけど」
「な、なんですか?」
「何で敬語なのよ…とにかく、素鳥ああいう怪文書を送ってくるのは止めてくれないかしら?」
「えっ?怪文書って」
「あたしの連絡先を聞いてきたあの手紙のことよ。なんなのあれ?狂気的なポエミーを感じたんだけど」
「なっ!!??そんな、俺の溢れる衝動は確かにぶつけたけど……狂気的だなんて」
「いや…ちょっと言いすぎたわ……ごめん……つい詠史に言ってるテンションで言っちゃって」
少し落ち込んだ俺を慮ってくれたのだろう。必死にフォローしている様子は聖母のようでどうしようもなく心ときめく………ああダメだ、どうやら俺はこの人の全てを好きになってしまうようだ。
「だからつまり……連絡先の交換くらいはしてあげるから。もっと普通にしてちょうだいってことよ」
「ありがとう!!!」
「ああうん…どういたしまして」
ああ、俺を真っすぐ見てくれている……どうしよう………
「俺、幸せだよ」
「ちょっ、何で泣くのよ?」
「だって……嬉しいから……俺こんな感情になるの初めてなんだよ」
「………あっそう……なんと言いうか感受性豊かとか言うか………感情を思いっきり発露する男ねあんた」
「当然、だって俺は隠すことが嫌いな健全的露出狂だから!!これからもどんどん好きだって伝えるぞ!!」
ああ、これが恋か……こんな幸せな気持ちになるものをこれまで持っていなかったなんて……もったいないことしたな。
ふと和倉に纏わりつきながら何かを囁いている初川さんが目に映った。
今なら彼女の気持ちが分かる……なんだか親友になれそうな気がするぜ。