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第52話 健全者が揃ってきました

 燃え盛るような太陽が私たちを見守ってくれています。夏とは暑い季節、人に苦難を与える季節です。しかしそれを上回る闘魂を持っていれば暑さとはただの太陽光にすぎません!!私と詠史さんの未来を明るく照らすグローリーレイです!!!


「詠史さーん、ラーブ、ラーブ、ラーブ!!!」


「あの、初川さん…流石にその掛け声をわたくしがするのは少々恥ずかしいと言いますか……本当にLOVEってないのにラーブって叫ぶのは和倉さんにとっても失礼でしょうし」


「そうですか?ラーブって言われて嫌がるような男性じゃありませんよ」


「そうかも知れませんが、流石のわたくしでも羞恥心が……羞恥心がぁぁぁ」


 現在私たちは詠史さん同好会の活動をしています。夏休みと言えどもいつまでも休んでいるわけにはいきません。熱愛をするために自分磨きはかかせないのです。


「うーむ…とは言え恥ずかしいというものを強制するというのは気が引けますね…」


「と言うか初川さんは少しも恥ずかしくありませんの?」


「全然ありません。もっと凄いことをいっぱいしてきてますしね」


「納得ですわ……でもほら、最初の頃はもっと照れがあったりしたものではないんですの?」


「そうですね……確かに最初の頃は少々の恥じらいはあったかもしれません…が、詠史さんへの愛を叫ぶことの尊さを考えたらそんな恥じらいはあってないようなものだとすぐに思い直してまして」


「何と言うか………流石ですわね」


 外周を10周くらいした後にこの犬前高校に居を構えている犬前さんの隠し部屋にて汗を流そうと校舎に入ろうとしました……その時です。


「ちょっと俺に時間をくれないか?」


「貴方は…素鳥さん?何の御用ですか?」


180センチを超える長身と整った容姿を携えた少年、健全的露出狂であらせられる素鳥皇斗さんが私たちを待ち構えていたのです。


「水菜乃はいませんよ。誘ったんですが『そんなトンチキな活動絶対にしないから』と断られてしまって」


「ああ、波園さんはいなくていいんだ………と言うかいない方が都合がいい」


「ほう…つまり?」


 肩で息をしている犬前さんにタオルを渡しながら素鳥さんに向き直りました。彼は木の幹に身体を預けてゆっくりと語りだします。


「俺考えたんだよ。波園さんはどんな男が好きなのか……好きになってから毎日毎日考えた。どうすれば俺に振り向いてもらえるのかを」


 分かります。詠史さんを好きになってから毎分毎秒どうすれば詠史さんに相応しい自分になれるのか、詠史さんの好みの女性はどんなものなのか、それをとにかく考えていました。


「残念ながら俺には乙女の気持ちってのは全く分からなかった。おまけに最近好きになった俺は波園さんのことをほとんど知らない……だから俺は知る必要があるんだ。波園水菜乃と言う人のことを」


 なるほど…


「そう言うことですか素鳥さん」


 私が悟ったことを察したのでしょう、素鳥さんはこくりと頷きました。


「えっと、ちょっとまだ呑み込めていないんですけれど……素鳥さんは何を仰りたいんですの?」


「犬前さん、水菜乃と詠史さんは赤ん坊の時から一緒にいました……そして今現在も二人の仲は類を見ないほど良いです。お互いがお互いに与えている影響力はとんでもなく大きいでしょう……つまり、詠史さんを知ることは、水菜乃を知ることに通ずるのです」


「そうなんですの?」


「そういうこと」


「いや……波園さんのことが知りたいんでしたら直接本人と仲を深めればいいんじゃないですの?」


「そんなの恥ずかしいじゃないですか!!俺初恋なんですよ!!どうしていいのかよく分かんないし……この前も一緒に裸になろうって言ったら怒られたし」


「ああ、それは乙女心が分かってませんね」


「乙女心が分からなくても駄目なことくらい分かりますわよね。普通の感性を持ってれば言われずとも分かりますわよね」


「無論、俺のことを赤裸々に知ってもらいたいから直接アプローチをするのも続けるが、和倉のことを知るのも波園さんの理想の男になるには必要なことだと思うんだ…それに波園さんの好きなタイプを聞いた時こんなことを言っていた」


「何ですか?」


「『詠史よりいい男………かしら、取り合えず』と」


 詠史さんよりいい男ですか……そんな人全世界を見渡してもまずいませんが……まぁ水菜乃は感覚がおかしいですからね。


「そういうわけで和倉を知ることは波園さんの好きな男になることに繋がるんだ……だから初川さん、俺を詠史さん同好会に入れてくれないか?」


 熱い視線と、水菜乃に対する厚い愛情を感じます……ふふふ、従姉として水菜乃が幸せになる手伝いは是非ともしたいです……それに


「理由が何であろうと詠史さん同好会に入りたいという真摯な気持ちを持っている以上、断る理由はありません。

 素鳥皇斗さん、今日からよろしくお願いしますね」


「ああ、ありがとう!!俺頑張る!!」


「まさかこんな同好会に入るもの好きがわたくし以外にいるとは驚きですわ………とは言え歓迎いたしますわ。一緒に青春を謳歌いたしましょう。波園さんを落とすのに助けが必要ならば何でもお手伝いいたしますわ」


「犬前先輩もありがとうございます!!俺、頑張ります!!!」


 これで三人揃いました…それも何の因果か全員が健全者です。


 そう、私こと初川真絹は健全的ストーカー、犬前灯華さんは健全的浪人生、そしてたった今入ってくれた素鳥皇斗さんは健全的露出狂……ふふふ。


「とんでもないメンバーが集まりましたね………これで部の申請に必要なのは顧問だけです」


「顧問か…心当たりはいるか?」


「いえ、全先生にお願いしてみたんですが「いつの間にそんな恥知らずなアプローチをしてたんですの?」皆さんから断られてしまいまして「でしょうね」ちょっと困ってるんですよね」


「別に部にする必要もないんじゃなくて?同好会のままでも不都合はないと思いますわよ」


「部になれば部室をゲットできますし、部費も入りますよ。それにオフィシャルな感じがするじゃないですか」


「オフィシャルって……」


 さて、引き受けてくださる方をもう一度探してみますかね。


「ふふっ♪」


 何にしても同士が二人もできたことは素晴らしいことです。詠史さんへの愛情をこのままどんどん深めていきますよぉ。


「さぁお二人ともご一緒に、えいえいしーです!!」


「そんなえいえいおーみたいな掛け声初耳ですわ!!」


 犬前さんの気高いツッコミが夏の青空に響いていきました。


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