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第55話 恥じらう方が悪いのよ

 店内に響いている最近話題のアニメOPを涼やかな風が運んでいく。和の雰囲気漂う机の上に置かれた抹茶プリンをすくって口に運んだ。


「…うまっ!!」


 舌の上でプリンが滑らかに滑るとともに味蕾を上品な甘さで刺激した。滑らかなのに弾力のあるプリンを軽く噛むだけで口の中に抹茶の美味しさが広がっていくではないか……プリンにかかっていたソースがその甘さがさらに引き立っている。


「そうでしょう、ふふふ」


 夢邦はいちごパフェを手慣れた様子で口に運んだ。満足そうに微笑む。


「半分道楽で運営しているとはいえ仮にも喫茶店だからね、味と雰囲気にはこだわってるのよ」


「どう考えても9歳がすることじゃないが……この味は認めざるを得ないな」


「あっちで琴を弾く体験もできるわよ。ストリートピアノみたいな感じかしらね」


「へー、後で弾いてみようかな」


「壊さないでね」


「壊さねーよ。ガキ扱いするな」 


夢邦は何も言わずに太々しい笑みを浮かべてさらにいちごパフェを口にした。僕も改めてプリンをすくいとる。


 普段は真絹に振り回されて慌ただしい時間を送ってるけど偶には静かでゆったりとした時間を過ごすのもいいかも「あっ、詠史さんだ」……


 聞き覚えのある声がした方に首が回っていた……そこにいたのは思った通り真絹の母親にして夢邦の祖母である初川綿子さんだ。


 ピンク色の眼鏡に黒いミニスカートにルーズソックス、上半身にはチューブトップを着こなしている…頭には猫耳までつけているではないか……正直似合ってはいる……似合ってはいるが……


「マジ……ですか………」


 この人見た目は中学生なんだけど55歳なんだよなぁ………55歳なんだよなぁ……


「どう?似合ってる?私綺麗?」


 孫までいる55歳なんだよなぁ………この人……真絹以上のとんでもない胆力の持ち主だよ。


「ええ、とっても似合ってるわよバーバ、詠史もバーバから目が離せないみたいね」


「そんなに似合ってる?でもあんまり魅惑しちゃ真絹に悪いか…うふふ」


 夢邦が僕をにやつきながら覗き込んできた。大きな瞳に大層な間抜け面が映っているではないか。


「どう?バーバって見た目がエグイほど若いから若者にしか許されないコスプレもできるのよ」


「……ここはメイド喫茶だったのか?」


「さっきも言ったでしょ、服装自由なのよ…ふふふっ、我が祖母ながらミニスカ猫耳娘姿で給仕するメンタルには脱帽するわ。

 いやぁ、あんたに見てもらって良かった良かった」


 この小娘は身内の恥って奴を感じない性格なのか……


 その時バックヤードから足音が聞こえてきた。


「お母様!!その格好で人前にでるのは止めて下さ………」


「真絹……?」


「詠史さん??え……え………」


 現れたのは真絹だ。いたって普通の服装にエプロンだけをしている……うん、これが普通だ。普通なのだが二人のミニスカメイドがいるせいか少し浮いているような気がしなくもない……まぁそのミニスカメイドの二人は30歳と55歳なんだけど………


「なんでここに………いや………見ないでください………こんな姿を………」


 見る見るうちに頬が赤に染まっていく。


「こんなお母様を見ないでください!!!」


 勢いよく綿子さんの前に立ち手を大きく広げた。


「違うんです!!私は夢邦ちゃんにそそのかされてこの喫茶店でアルバイトしているだけで……こんな恥知らずな格好を不特定多数の方に見られる趣味はないんです!!!私の恥知らずな格好は詠史さんだけのものです!おっぱいも生足も詠史さんだけのものなんです!!!」


 聞いてない聞いてない。


「それにお母様や雫さんの格好だって私は止めましょうと言ったんです!!!年甲斐のない格好はしないでくださいと……でも自分の欲求を止められないと、承認欲求を満たしたいと……でもそれでも止めようとしたんですよ………だから………えっと……その………」


 綿子さんが真絹の肩に手を置いた。


「可愛いから良いと思うのに……」


「おばあちゃんであることを自覚してくださいよぉぉぉぉ!!!yきゃぶいtwらえbぎおあへ!!!!

 詠史さんに母親の痴態を見られる私の……私の気持ちを考えてください!!!詠史さんは私の痴態だけ見とけばいいんです!!!!!」


「とっても愉快よ。流石おばさん、あたしの期待を裏切らないわ」


「う……うう………夢邦ちゃんの……夢邦ちゃんの意地悪ぅぅぅ!!!!」


「ちょっ、真絹!!!」


 真絹はあまりの羞恥心に耐えきれなかったのだろう。勢いよく扉から飛び出て韋駄天のごとき速度でどこかに去っていった。


「ああもう………夢邦………お前真絹の気持ちを考えてやれよ」


「ごめんなさい、ただ叔母さんが身もだえる様をどうしても観察したくなって……悪気はあったの」


「反省を全くしていないことはよーく分かった」


「でも叔母さんも叔母さんよね。時給5000円のバイトなんだから裏があるって分かるようなもんでしょうに」


「たかっ!!」


「血の繋がった叔母さんの滑稽な姿を見ることが出来ると思えば安いものよ」


「お前の性格の悪さは筋金入りだな」


「あら?あたし以上の性悪なんていくらでもいるわよ。詠史にも紹介してあげましょうか?」


「遠慮しとく」


 真絹のやつ大丈夫かな?帰ってきた後慰めてやるか……


「にしてもなんで真絹は私がちょっと若い格好するだけであんなに恥ずかしがるんだろ?」


「年頃の娘の気持ちを考えてあげてください」


「でも、私この格好で一昨年のハロウィンで真絹と一緒にお菓子を奪いに回ったよ。耐性あると思う」


 53歳がトリックオアトリートしたのかぁ……真絹の鋼を超えた頑丈すぎるメンタルはこの人譲りなんだろうなぁ。


「それにこの格好本当に可愛いと思う。今夜ダーリンを誘ってみようかな」


「そういうの言うの止めてくれませんかねぇ」


「夢邦ちゃんは叔母さんと叔父さんどっちが欲しい?」


「それ、間違っても孫に聞くような質問じゃないですよね。って言うか初めて聞きましたよ弟か妹かのノリが叔父叔母になるの」


「叔母さんはいるから叔父さんが良いわね」


「お前も普通に答えてんじゃない!!良いのか?年下の叔父さんになるけどいいのか!!??」


「そんな小さなこと気にするような女じゃないわ。

 初川家の女を甘く見るんじゃないわよ」


 ……ははは。


「甘く見たことなんて一瞬たりともねーよ」


 雫さんがニコリと微笑み水を差しだしてきた。


「サービスです。心を落ち着かせてくださいね。

 とっくに知ってると思うけれど、この子たち可愛い見た目のくせして一人残らずエグイから」


「……ありがとうございます」


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