ソファにちょこんと座っている濃い桜色の髪をした可愛らしい少女、花染琴流が口を動かした。
「私さ、好きな男の子がいるの……方丈縁和くんって言うんだけど……カッコよくって、ちょっと抜けているけど優しくて……私のことを守ってくれるんだ」
もじもじと照れくさそうにしながらそれでも小さな唇を動かしていく。真絹はそんな琴流の様子を暖かく見つめていた。
「いつの間にか縁和くんを好きになってて……話すだけで幸せだし、見るだけでドキドキしてるんだ…だから私付き合いたいの……そしてあわよくば………」
小さな唇がプルプルと震えた。
「キス……したい」
………普通だ、普通の初恋だ。
「ほ………ほわわぁ………琴流ちゃん初恋ですね。その気持ちよーく分かりますよ」
この初手ストーキング、二手目押しかけ同棲を仕掛けてきた真絹とはまるで違う。
「それで琴流ちゃん、その縁和君には告白したんですか?」
「してないよ…だって恥ずかしいもん……断られたら怖いし………」
「分かります。私も詠史さんに告白するのはとっても怖かったです」
え?僕が止めなきゃストリップしていたあの告白に恐怖があったのか?
「でも琴流ちゃん、私を見て分かるように告白して億が一フラれたとしてもそこで終わりではありません。ガンガン行けばいいんですよ!!」
「そうかもしれないけれど………私真絹ちゃんみたいにはきっとできないよ」
「琴流ちゃんは天使より可愛いんですからガンガン押していけばいけます!!詠史さんもそう思いますよね」
「そうだなぁ……正直その男の子のことを全然知らないけど、確かに琴流は可愛いし告白されて嫌な顔する奴はそうそういないと思うぞ」
特に精神性はあの憎たらしいガキ(夢邦)より遥かに愛らしいしな。
「そうかな……でも、縁和くんもそう思ってくれてるのかな?」
真絹は優しく微笑んで琴流をギュッと抱きしめた。そのまま琴流の髪を慈母のように撫でる。
「自信を持ってください。琴流ちゃんを可愛いと思わない人なんていませんよ。私が断言します」
「真絹ちゃん……ありがと。私頑張ってみる……とにかくまずは縁和くんを夏祭りに誘ってみるね」
「その意気です!!まずは行動してみること、そして手ごたえがあると見ればガンガンいくことです!!私はその心意気を詠史さんにぶつけることで同棲までこぎつけました!!!」
「同棲……つまり………毎日お泊り……一緒にご飯食べて一緒にゲームして一緒にお……お風呂とか……お休みとおはようのキスを……」
不意に琴流の頬が紅潮した。
「すっごい………考えるだけで幸せ」
そんなに上手く行ってないだろお前、真絹にそう言いたい想いをグッとこらえて琴流に向けて言葉をかける。
「頑張ってみろ、お前が惚れるくらいだからよっぽどいい男なんだろ、早く付き合って早く幸せになって見ろ」
「うんっ!!私頑張る!!頑張って頑張って頑張りまくって……
パパとママみたいな素敵な家庭を築いてみせる!!」
しかしなんだろう……このほっこりとした気分………これが………これが…………
普通の恋愛ってやつなのか……
「頑張れ琴流、お前ならいけるぞ」
「いっくぞぉぉ!!!おーーーー!!!!!」
咆哮をあげた琴流は思い出したように言葉を発した。
「そうだ、夢邦には黙っておいてね……あの子私のこと大好きで仕方ないから縁和くんを夏祭りに誘うなんて知ったらいったい何をしでかすか分かんないからさ」
「はいっ!!夢邦ちゃんにも、当然お兄様やお義姉さまにも絶対に言いません。なので、思う存分ラブコメを楽しんでくださいね」
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そのころイチゴオレで満たした風呂で優雅に読書をしていた夢邦は呟いた。
「何かしら……途轍もなく看過できないことが起きそうな気がするわね」
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さらにその頃、水菜乃は自室でスマホとにらめっこしていた。
『波園さん。よろしければ今度の夏祭り遊びに行きませんか?イカ焼き奢ります。たこ焼きも奢ります。焼きそばも奢ります。
夏の悪魔も吹き飛ぶくらいに熱くて幸せなデートがしたいです。
ご返信お待ちしております』
「素鳥のやつ………こんなデートなんて………いやでもあたし詠史と行く予定だったし…そりゃまだ誘ってはいないけどあいつなら絶対に行ってくれるし、そういう意味ではもうすでに予定があるって言うか………でも正確には予定はまだないって言うか………」
ああ……あの露出男……こんな堂々とデートなんて………もう少し駆け引きって奴を考えなさいよ……
「でもまぁ……詠史と真絹を二人きりで行かせるってのも気の利く幼馴染としてありな手ではあるし………そうなると一人で行くよりは誰かと行く方が楽しそうだし………いっぱい奢ってくれそうだし………でも奢られっぱなしはムカつくからあたしもなんか奢ってやるくらいはするけど………」
ああもう……なんであたしがこんなこと考えなきゃいけないのよ………あの野郎……
「浴衣……どこにしまってたかしら」