ミアは度々カイルの前に現れるようになった。
けれど彼女の白さが薄くなっている気がしてカイルは心配になる。
『ミア、君は随分と薄くなっているが平気なのか?』
ミアはくるりと回りにこりと笑う。
相変わらずカイルには声は聞こえない。
『カイル。こっちへ来て。』
シヴァの声が彼の部屋のほうからしてカイルは返事をして向かった。
『なんでしょう?』
開けられたドアの前に立ち中をうかがうとシヴァが床に座り込んでいた。
『ちょっと手を貸して。』
促されてシヴァの傍に膝をつく。
彼の手元には大きなトランクが置かれ開かないようだ。
『少し
言われた通りにカイルが一方に手をかけて引き上げる、トランクは開いたがバランスを崩したのか中のものが飛び出した。
『ああ、すいません!』
カイルは急ぎ手を出すがさらりと手から零れ落ちてしまう。
『いや、かまわない。それよりもこの中のものは君に合うのを忘れていたんだ。』
『はい?』
シヴァはぐちゃぐちゃになった物の中から一枚すくいあげた。
綺麗な絹でできたシャツだ。
他のものも洋服で上等な織物で出来ている。
『でもこれ…女性ものですよ?』
『ああ、そうだ。』
シヴァは一枚をカイルにあてる。
『似合うな、好きなものを選んで着るといい。私のお下がりではブカブカすぎる。』
『いえ、そんな。あの・・・私は…その。』
『カイル、以前から話しているが私に気兼ねすることはない。それに買い物に行くたびに君の洋服を見ているが欲しがらないから私も対応に困る。』
『すいません。』
『いいや、それはいいんだ。それで思い出したんだ、そういえばあったなと。』
シヴァは飛び出したものをトランクに乱雑に放り込むとカイルにトランクを押し出した。
『これは君が使うといい。私の知り合いのものだがもう使われることはないからね。品も綺麗だし君に似合うだろう。』
『いいんでしょうか?』
『いいさ、使いなさい。さっそくだが何か着てみせてくれ。』
シヴァは立ち上がると部屋を出る。
カイルはその場で何枚か広げてみた。
サラサラとして美しい刺繍が入ったシャツに、上品なペイルブルーのパンツ、底のほうには綺麗に折りたたまれたリボンが入っている。
『わあ。』
この持ち主は大切に使っていたようだ。
カイルは鏡の前に立つと何枚かを体に当ててから着替えることにした。
『出来ました。』
カイルはそっと頭だけを壁からのぞかせて、シヴァを見る。
彼は椅子に座り新聞を読んでいたが、カイルを見て新聞をたたんだ。
『出てきなさい。』
促されてカイルは一歩前に出た。
『ふうん、似合うな。』
シヴァはどこか懐かしそうな顔をして優しく笑う。
『あの…。』
カイルは着たはいいものの少し戸惑いながらシヴァに聞いた。
『これを着ていた方は?』
『うん?ああ、それは私の姉のものだ。彼女は随分前に灰になったがな。』
『ええ??』
シヴァが口元を押さえてぶっと笑う。
『
彼は立ち上がりカイルの傍に来ると洋服の様子を確認した。
『うん、大丈夫だ。まだ当分着れるはずだ。』
『そうですね。あの…。』
『ん?』
シヴァはカイルの足元に膝をつき、確認していた手を止めて顔をあげた。
『あの…これは女性ものですよね?』
『そうだが、何か問題か?』
『いえ、あの…私は。』
カイルは少し言い出しにくそうに口を噤む。
『ああ。』
シヴァは立ち上がりカイルを見下ろすと指先で顎をすくい唇を重ねた。
『君は知らないのだな。君はまだ成長途中だ。私の代では見られなかったが君は新しいヴァンパイアだ。男、女どちらにでもなりえる。』
至近距離でシヴァはそう言うともう一度キスをしてから椅子に座った。
彼は唇を親指でなぞりぺろりと舐める。
『うん、君は女性化の一途を辿っている。間違いなく。』
『え?』
『まだ少年のような体をしているが時期に女らしく変化してくるだろう。』
シヴァはまた新聞を広げると視線を落とした。
『そんなことありえるんでしょうか?私は…。』
カイルは俯いて昔を思い出す。
小さな頃は意識などしたことなかったが。
『あ。』
ふと気がついて声を上げた。
シヴァは新聞を捲りまた大きく開く。
『君はそのように育てられていないはずだ。
そうだ。小さな頃はただ生きるために必要なことしか教えられてこなかった。
『では私は女性に?』
『ああ、私がそう望んでいる。』
シヴァは新聞に視線を落としたままでそう言った。