車は高速を都心へと向かっていた。
すれ違う車があっても同じ方向へ行く車は少ない。
ハンドルを握るシヴァの顔は少し青く、ちらりとバックミラーで後ろを確認する。
後部座席で毛布にくるまれたカイルはまだ目を覚ます気配はない。
『カイル…。』
随分と前から顔色が悪いのはわかっていた。
それでもなんとか持つかとおもっていたが見立てが甘かったようだ。
シヴァはアクセルを踏み込む。
家を出る前に連絡はしておいたから、すぐに対応はしてくれるはずだ。
しかし…嫌な気分になるのは多分あいつのせいだろう。
『なんでもっと早くこないわけ?』
電話の向こう側でゼロが冷たく言い放つ。
それは数時間前のことだ。
シヴァは庭で倒れこんだカイルを抱きかかえて家に戻ると急いで電話をした。
ゼロのところだ。
苛立ちながらコールの回数を数えて、応答した音にシヴァは慌てて声を出す。
『ゼロか?』
『なあに?シヴァ?どうしたの?慌てて。』
少し面倒臭そうな相手の声はいつもの対応だが、今回はシヴァ自身が慌てているためか声が荒くなる。
『悪いがカイルが倒れたんだ、今からそちらに連れて行く。』
『はあ?僕は今日は休みなんだけどね。』
『だから悪いと言ったろ。こっちは急なことなんだ。』
電話の向こうで大きな溜息が聞こえた。
『シヴァさあ…なんでもっと早くこないわけ?馬鹿なんじゃないの?』
シヴァはぐっと喉が詰まったように声が出なくなる。
そんなことは分かっている、そう言いたくても言えずに飲み込んだ。
『君はあの子がいつまでも平気だって思ってたわけ?君ので賄ってたとしても合わないものじゃ意味なんてないのはわかってただろ?』
ぐちぐちとゼロが説教をたれている。シヴァは電話を少し離すと大きく溜息をつく。
『ちょっと!聞こえてんだよ?電話から離れてんじゃないよ。』
シヴァはしぶしぶ電話を近づけた。
『ちゃんと聞いてる。それよりも時間が惜しい。今から行くから悪いが用意していてくれ。』
『わかったよ。その代わり僕の言う事も聞いてもらうからね。』
電話は向こうから切れてシヴァは急ぎ車にカイルを乗せると走り出した。
はあっと思い出したことにシヴァは息を吐く。
視界には都会のビル郡が見え、カーブする道にハンドルをゆっくりと回す。
車が必要以上に揺れないように後ろを確認しながら走らせた。
後部座席ではまだカイルは青い顔のままで眠っている。
カイルの安全が第一だ。
シヴァは見知った道へ車を進ませると、この街で一番大きな病院の地下駐車場へと滑り込んだ。
入り口に近い場所へ車を止めてカイルを抱き上げ病院へと飛び込む。
地下からエレベーターで三階に上がり、廊下の椅子に座っていたゼロの姿を見つけて声を上げた。
『ゼロ、すまない。』
ゼロはシヴァを見てすぐに駆け寄り彼の腕の中にいるカイルを見る。
毛布にくるまれた小さな体に触れて、小さく唸るとシヴァを連れて診察室へと向かう。
カイルを寝台に寝かせてゼロはすぐに採血をし調べ始めた。
『このまま作ってくるからここで待ってて、君も最悪の顔色してるからその子と二人で寝てたら?』
ドアが閉まりゼロが駆けていった。
シヴァは部屋の壁にかけられた鏡に自分の姿を映す。
真っ青な顔だ。
ヴァンパイアだから色が白いのは仕方ないが、ここまで酷いのではゼロに言われても仕方ない。
『ああ、最悪だな。』
寝台の傍に椅子に腰掛けてカイルの手を握る。
いつもは暖かい手が冷たく握り返す力もない。
シヴァは目を閉じるとそのまま眠りに落ちた。