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第14話

真夜中、車は森の館へたどり着いた。森はしんと静まり返っている。

シヴァは家に入り急ぎ暖炉に火を入れる。

後ろから付いて来たカイルはまだふわふわしているようで足元がおぼつかない。

『カイル、こっちへ。』

カイルを呼んで暖炉の前に座らせる。そして台所に行くとお湯を沸かす。

問題なく帰ってこられたもののカイルの様子が少しおかしい。

ゼロによると久しぶりの血のせいで、活気がみなぎっている状態が続くかも知れないらしい。

当分様子を見て、量を調整する必要があるかも…などと無責任なことを言っていた。

だからカイルを連れて行ったし、ちゃんと見合うものをと思っていたんだが、やっぱり信用ならん。

シヴァはお茶を二つ分用意してトレイに乗せると居間に戻った。

カイルは暖炉の前でぼんやりと火を見つめている。

『カイル。』

声をかけてカップを手渡すとカイルはとろんとした目でそれを受け取った。

ふうふうと息を吹いて一口飲むとシヴァに微笑みかける。

『ありがとうございます。』

傍の椅子に腰掛けてカイルの様子を観察する。

どうもいつもの感じとは違い何か変な感じがする。

シヴァはとりあえず椅子にもたれると息を吐いた。

考えてもどうにもならん、このまま様子を見る必要があるんだろう。

足を組むと暖かいお茶を口に含んだ。

けれど初めて会った時よりも顔色が良い。それだけでも少し安心できる。

カイルはカップのお茶を飲み干すと、珍しくプハッと声を出した。

なんだか小さな子供を見ているようで少し面白い。

シヴァが何も言わずにじっと様子を見つめていると、カイルの視線とかち合った。

大きな目が長い前髪の隙間からじっとこちらを見つめている。

髪を整える必要があるかもな…そんなことを考えていた時、カイルは猫のように立ち上がりシヴァの膝の上に両腕で乗りかかった。


『どうした?』

シヴァはカイルの頬に指を触れさせる。本当に猫のようにその指に頬をすり寄せてカイルは目を閉じた。

なんだか酔っ払っているようにも見えるな。

カイルは何も言わずにじっとシヴァを見つめて、体を寄せるようにして膝の上に座った。

急に近づいてシヴァの心臓がドキッと跳ねる。

カイルの目はとろんとして何か物欲しそうに唇が開いている。

酔っ払っている子に対して何かしていいものだろうか?

シヴァはカイルの体を抱き寄せると頭をそっと撫でてやる。

カイルは目を閉じてシヴァの胸に頬をすり寄せた。

『シヴァ、綺麗。』

『うん?』

シヴァが視線を落とすとカイルの手が頬に触れてその顔が近づいた。唇が触れてカイルの舌先が唇を開かせる。

『ん…。』

突然のキスに驚いたがカイルの好きなようにさせた。それを受け入れてカイルが望むように動く。唇が離れるとカイルの目がゆっくりと開いた。

『好き。』

小さな告白。シヴァが頷くとカイルはまたゆっくり目を閉じてすうと眠りについた。

腕の中でいつもと変わらない寝息を立てるカイルを見て、シヴァは大きな息を吐く。天井を仰ぎ少し上がってきた熱を落ち着かせた。

好き…か。もう少し普通の状態で聞きたい言葉ではあるが今は十分か。

シヴァは小さな体を抱き上げるとカイルの部屋へ行きベットに眠らせた。


以前カイルには成長すれば女性になると話したが、確率は半分ほどしか本当はない。嘘ではないものの強く願わなければそうはならないのだ。

カイル自身が拒めばそのまま成長してゆく。

ヴァンパイアの中で成長期に性別が変化する者はシヴァよりも何代も後の世代で出てきた。人の体と同じで環境に合わせて変化してきた。

それでも女性化したとして妊娠することはないから、家族を欲するものは皆、男性に変化する。

カイルに女性になって欲しいと願うのはシヴァの勝手だ。

シヴァは眠るカイルの髪に触れる。

今まで沢山の人を愛してきた。皆、先に人生を終えてシヴァだけがそれを見送ってきた。人間を愛さなければいいはずなのに恋をするのは人間ばかりで、こうして出会えたカイルが初めてのヴァンパイアだった。

初めて会った時、汚い子供だと思った。あんな繁華街で一歩間違えば売られてしまうところだ。

けれどどこか放っておけなくてホテルに連れ帰り泥だらけだった体を綺麗してしまえば、その白さからヴァンパイアだと気付いた。

話が出来るようになって素直で優しい子供だと分かり、少しづつだが惹かれていた。恋だと認めるのは少し時間がかかったけど。

シヴァは部屋を出て居間へ戻る。

暖炉の前に座り燃える火を見つめる。

さっき触れた唇の感触を思い出してそっと指先で触れた。

今までにも何千、何万回とキスをした、でもカイルとのキスは今胸を焦がす。

シヴァは椅子に座るとそのまま目を閉じた。

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