瞬間移動を満喫して、俺たちは昼メシを広げた。
天むすのラップを剥がしながら、まださっきのウキウキが残っている。
「楽しかったー! ありがとな!」
「んーん。俺もたのしかったー。トキちゃん、すげぇ跳んでてかわいかったしー」
「だから、かわいくねえって」
イノリも、にこにこしながらタマゴサンドをちぎっている。優しい目で見られて、ちょっと照れくさい。
むずむずする口を引き結んで、天むすをずいっと差し出した。
「えーと、そうだ。イノリ先生、天むす食う?」
「わーい、食べる――」
イノリは、天ぷらのあちこちはみ出したソフトボール大の天むすに、目を丸くした。
「これ……もしかして、トキちゃんの手作り?」
「うん。つっても、握って海苔まいただけだけど」
天むすって、たまにすっげえ食べたくなるんだよなぁ。そういうときに限って、コンビニに置いてなかったりして。
それで、好きな天ぷら買って、食堂でごはん分けてもらって握ってきたんだ。
「うわぁ、すげーひさしぶり……もらっていいの?」
「ん? おう。俺三つ握って来たし」
「嬉しい。大切に食べるね?」
「あはは。大げさだなー!」
不格好なおにぎりを、大切そうに掲げもってイノリが言う。そんなに喜んでもらえて、悪い気はしない。
イノリの奴、よっぽど天むす食いたかったんだなー。タイミングばっちりで良かった。
「そういや、ちょっと気になったんだけどさ」
「うん?」
小鳥みたいに天むすを食っていたイノリが、首を傾ける。
「さっきの魔法、呪文のかわりにイメージみたいの思い浮かべてやったじゃん? あれが無詠唱ってやつなん?」
「ああ。うん、そうだよー?」
「やっぱりそっか!」
ぱちん、と指を鳴らす。
イノリとか、上位の生徒は呪文を詠じずに魔法を使ってるもんな。あれ、不思議だなーって思ってたんだよ。
「呪文は、魔法式を発動する鍵みたいなものだ」って、高柳先生言ってたからさ。じゃあ無詠唱って、どうやって発動してんだろうな? って。
「あーいう風にイメージを思い浮かべんのが、「鍵」になるのかぁ」
「んー、そうだねぇ。魔法は究極的に、イメージ勝負だからかなー」
「イメージ?」
問い返すと、イノリは説明してくれる。
「えっとね。魔法ってさぁ、脳ミソで発動させてるじゃん? ほら、発動するとき、頭がキンッてなるでしょ」
「ほおほお」
「あれ、脳が「何をしたいか」理解して、魔力中枢に指令を与えてるんだー。「この現象を起こすために、魔力を放出しなさーい」って。だから、脳が理解できるようにしっかりイメージできれば詠じなくても発動できるの」
「へ、へええ」
そういうものだったのか……。
イノリは、他にもいろいろ教えてくれた。
無詠唱はコントロールが難しい分、普通に呪文を詠じるより大きい効果が出るらしい。さっきの瞬間移動も、もともと「はやてのごとく~」ってのと原理は変わんねえんだって。びっくりだよな?
「たぶん、やってるうちにわかってくるよ。あ、でもね――無詠唱って危ないこともあるんだ」
「え?」
「さっきも言ったけど、イメージを先に作って発動するでしょ? 脳ミソがイメージ通りに魔法を発動させようって、体に働きかけるから――力の制御がすっげえややこしいんだ。力が暴走したらいけないから、無詠唱は魔力コントロールに慣れてからがいいと思う」
「そうなのか。……あっ、それで、さっきお前が魔力ひっぱってくれたのか?」
「うん。俺が手を繋いでれば、暴れたりしないかなって……」
「そっかぁ」
眉を下げて頬をかくイノリに、胸がほわっと熱くなる。
俺がやってみたいこと、いつも止めたりしなくて。でも、そうやって知らないうちに助けてくれてるんだよな。
イノリは、昔から本当に優しい。
「ありがとう、イノリ」
「えへへ」
頭をよしよしって撫でると、気持ちよさそうに目を細めてて、かわいい。
俺も、もっとお前に優しくしたいな。