「でもよぉ、大丈夫なん?」
「なにがー?」
焼きそばパンをむぐもぐやりながら、問いかける。
「次期会長、目指すって言ったらさ。現・会長の八千草さんに喧嘩売ったって、睨まれたりしねえ?」
やっぱさ、一緒の生徒会室にいるわけじゃん。そんなことになったら、けっこうやりにくそうだけど。
すると、イノリは「あぁ」と頷いて。
「大丈夫だと思うよー。来期は八千草先輩、三年じゃん? いろいろ忙しくなるから、今期で辞めるつもりだって言ってた」
「マジ! じゃ、どうなんの?」
「決闘で負ける以外で、役職を降りる時はさ。ふつう、先に誰か一人選んで引き継ぎするんだってー」
「へええ」
「引継ぎ」かぁ。
そんな平和的な方法が、この学校にもあったのか。そら、話し合いで済むならそれが一番と思うよ、うん。
でも、イノリは不満そうに口をとがらせる。
「イノリ、嫌なん?」
「だってー。どうせなるなら、勝ってなりたいんだもん」
「おおっ!」
生徒会って、腕がなまらないようにお互いでバトルしてるとかで。
で、イノリは、今んとこ八千草先輩には「勝ち」がないらしく。悔しいから、ブッ倒して席を取りたいんだって。かっけえ。
普段おっとりしてるのに、意外と熱いとこあんだよなあ。
「がんばれ! お前なら出来る!」
「わーい。頑張るー」
俺たちは、笑って拳をぶつけ合う。
それから、暫くバトルについて盛り上がった。「俺の考えた必殺技」とか、アホなこと。でも、決闘をこなしまくっているイノリのワザは、だいぶ実戦的だった。
と、ふいにイノリが「あっ」て声を上げてさ。
「あのさ、トキちゃん。魔力おこすのなんだけど……ごめん、今夜は無理なんだ。たぶん、明日も。会議があるみたいで」
「おお。わかった、大変だな」
「ううん。ごめんね」
「わは。いーよ、いーよ」
ポンと肩を叩いても、イノリはへにゃっと眉を下げたまま。
もともと、俺の事情に協力してもらってるんだし。気にしなくたっていいのにな。マジで、律儀な奴だよ。
「……ちなみにトキちゃん、今週末のご予定は?」
「ぶっ、何畏まってんの。なんもねえけど」
だしぬけに、やたら改まって聞かれて吹き出した。
「じゃあさ。良かったら、なんだけど。――土日、401にお泊り会しない? それだけ時間があったら、水と火をゆっくり起こせるし。あと、テス勉したり、ご飯食べたりもできるしさ。……どうかな? あ、須々木先輩に、許可はもらったから」
イノリは、すげえ早口でそんなことを言う。
俺は、ポカンとして聞いていた。
だって、そんな楽しそうなこと、にわかに信じられなくて。――ここにきてから、一緒に週末を過ごしたりとか。今まで当たり前だったこと、全部出来なくなったから。
幻聴かな?
とか思っちゃって、返事もせずにボーっとしてた。すると、
「トキちゃん。やっぱ、だめかな……?」
イノリが、不安そうに尋ねてきて。
やっと我に返って、俺はイノリに飛びついた。
「駄目なわけねーじゃん! すげー楽しみだし!」
「わっ! ほんと?」
「マジ! 俺、いろいろ持ってくわ。メシとかー、あと雑誌とかもさ」
「トキちゃん……! 俺ももってく。いっぱい遊ぼうね」
「うん!」
見上げたイノリの目が、嬉しそうにきらきら輝いてる。
俺も、ニマニマすんのが止まんなくってさ。イノリの背中にぎゅっと腕を回した。
「じゃあ、土曜日の朝から、401に行ったらいいんかな?」
「うん。で、土曜は「水」を起こしてみよっか? 午前と午後に分ければ、負担も少なくなると思うから。眠くなっても、お布団もベッドもあるしー」
「よっしゃ。色々荷造りしとく」
「俺もー。ふふ、楽しみー」
「だな!」
そうして、今週末にお泊まり会が開催されることになったのだった。
楽しみだなぁ。おやつ何持ってこう。