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第71話

「でもよぉ、大丈夫なん?」

「なにがー?」


 焼きそばパンをむぐもぐやりながら、問いかける。


「次期会長、目指すって言ったらさ。現・会長の八千草さんに喧嘩売ったって、睨まれたりしねえ?」


 やっぱさ、一緒の生徒会室にいるわけじゃん。そんなことになったら、けっこうやりにくそうだけど。

 すると、イノリは「あぁ」と頷いて。


「大丈夫だと思うよー。来期は八千草先輩、三年じゃん? いろいろ忙しくなるから、今期で辞めるつもりだって言ってた」

「マジ! じゃ、どうなんの?」

「決闘で負ける以外で、役職を降りる時はさ。ふつう、先に誰か一人選んで引き継ぎするんだってー」

「へええ」


 「引継ぎ」かぁ。

 そんな平和的な方法が、この学校にもあったのか。そら、話し合いで済むならそれが一番と思うよ、うん。

 でも、イノリは不満そうに口をとがらせる。


「イノリ、嫌なん?」

「だってー。どうせなるなら、勝ってなりたいんだもん」

「おおっ!」


 生徒会って、腕がなまらないようにお互いでバトルしてるとかで。

 で、イノリは、今んとこ八千草先輩には「勝ち」がないらしく。悔しいから、ブッ倒して席を取りたいんだって。かっけえ。

 普段おっとりしてるのに、意外と熱いとこあんだよなあ。


「がんばれ! お前なら出来る!」

「わーい。頑張るー」


 俺たちは、笑って拳をぶつけ合う。

 それから、暫くバトルについて盛り上がった。「俺の考えた必殺技」とか、アホなこと。でも、決闘をこなしまくっているイノリのワザは、だいぶ実戦的だった。

 と、ふいにイノリが「あっ」て声を上げてさ。


「あのさ、トキちゃん。魔力おこすのなんだけど……ごめん、今夜は無理なんだ。たぶん、明日も。会議があるみたいで」

「おお。わかった、大変だな」

「ううん。ごめんね」

「わは。いーよ、いーよ」


 ポンと肩を叩いても、イノリはへにゃっと眉を下げたまま。

 もともと、俺の事情に協力してもらってるんだし。気にしなくたっていいのにな。マジで、律儀な奴だよ。


「……ちなみにトキちゃん、今週末のご予定は?」

「ぶっ、何畏まってんの。なんもねえけど」


 だしぬけに、やたら改まって聞かれて吹き出した。


「じゃあさ。良かったら、なんだけど。――土日、401にお泊り会しない? それだけ時間があったら、水と火をゆっくり起こせるし。あと、テス勉したり、ご飯食べたりもできるしさ。……どうかな? あ、須々木先輩に、許可はもらったから」


 イノリは、すげえ早口でそんなことを言う。

 俺は、ポカンとして聞いていた。

 だって、そんな楽しそうなこと、にわかに信じられなくて。――ここにきてから、一緒に週末を過ごしたりとか。今まで当たり前だったこと、全部出来なくなったから。

 幻聴かな?

 とか思っちゃって、返事もせずにボーっとしてた。すると、


「トキちゃん。やっぱ、だめかな……?」


 イノリが、不安そうに尋ねてきて。

 やっと我に返って、俺はイノリに飛びついた。


「駄目なわけねーじゃん! すげー楽しみだし!」

「わっ! ほんと?」

「マジ! 俺、いろいろ持ってくわ。メシとかー、あと雑誌とかもさ」

「トキちゃん……! 俺ももってく。いっぱい遊ぼうね」

「うん!」


 見上げたイノリの目が、嬉しそうにきらきら輝いてる。

 俺も、ニマニマすんのが止まんなくってさ。イノリの背中にぎゅっと腕を回した。


「じゃあ、土曜日の朝から、401に行ったらいいんかな?」

「うん。で、土曜は「水」を起こしてみよっか? 午前と午後に分ければ、負担も少なくなると思うから。眠くなっても、お布団もベッドもあるしー」

「よっしゃ。色々荷造りしとく」

「俺もー。ふふ、楽しみー」

「だな!」


 そうして、今週末にお泊まり会が開催されることになったのだった。

 楽しみだなぁ。おやつ何持ってこう。





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