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第72話

 週末は、イノリとお泊りだー!

 マンガと、おやつと。そうだ、きのう新発売したジュースもいいな! 片倉先輩、「俺にはウマかった」って言ってたし。

 テスト期間だから、一応勉強道具も持ってって。

 あ。先輩たちにも、友達の部屋に泊るって話をしておかないとな。


「ふんふ~ん」


 鼻歌を歌いながら、肩の筋をぐいぐい伸ばす。

 五限は、格闘の授業だ。午後一番に、体を動かす授業なのって、なんかいいよな。

 準備運動を終えると、葛城先生は、整列した生徒達の前で咳払いした。

 その隣には、一体のロボットが立っている。いつものげんそくん3号じゃなくて、一回りは大きい。


「今日の授業は、期末の実技テストの内容を伝える! 試験では、この「げんそくん4号」と格闘をしてもらうぞ。制限時間は二分。――4号は、見ての通り3号より大柄で、パワーも強い。さらに、元素もいつもの四元素に加え、「風・土」など複合でも変化する」


 葛城先生が、ピッとスイッチを入れる。4号の顔面にある丸い石に、金色と暗褐色の二色の光が点った。

 先生の説明を聞いて、みんなどよめく。


「4号とか、何だよ。聞いてねえ」

「試験でいきなりレベル上げ過ぎじゃん」


 前の生徒達が、こそこそと囁き合ってる。

 気持ちはわかるぜ。やっと倒したと思ったら、第二形態があったフリーザ、みてえな感じだよな。

 てか俺、3号も倒せたときねえけども。どうしよ?


「静かに!」


 葛城先生が、パンと手を叩いた。


「これまでは、げんそくん3号との格闘演習を行ってきた。ここで培ってきたのは、魔力のコントロールと、相手の元素への対応力だ。ゆえに、テストでの評価ポイントはそこに重点をおくことにする。だから、倒せなくても構わない」

「マジっすか!?」


 声を上げると、葛城先生は頷いた。


「そうだ。だから、3号を倒せたことがない者も、諦めずに食らいついてけ」


 やった! 「絶対倒せ」ってことじゃないなら、なんとかなるかも!

 ぐっと拳を握りしめると、斜め前で鳶尾がフンと鼻を鳴らした。


「葛城先生も甘いなァ。要は、レベルの低い奴への救済措置じゃないか」

「どういうこと、鳶尾くん?」

「だって、そうだろ。3号なら、倒すことを条件にしないとヌルすぎるもの。この組は、それじゃ欠点になる生徒がいるだろう? だから先生は、あえて4号でレベルを上げて、そいつらの面目を立たせてやったのさ」

「なるほど!」

「さっすが、鋭い洞察だね!」


 お追従マンがはしゃぎ声で相槌を打つ。

 ははあ。そういう意図もあったのかー。

 葛城先生、ありがとう! 補習の成果を出せるように、頑張るぞ。




「では。4号がどの程度のレベルか、一度みなに見せておこう。デモンストレーションに、誰か闘ってみたいものはいるか?」


 葛城先生の声に、クラスメイトは顔を見合わせている。積極的に、手を上げてくやつはいなさそう。

 でも、わかる。俺も、さすがにトップバッターは遠慮してえ。なんかすげーデカいし、4号。

 けど、珍しいのは、鳶尾が手を挙げないことなんだよな。いっつも、率先して「ボクがやります!」て行くのに。


「誰も、いないか?」


 先生がくるりと見回すと、みんな綺麗に目を逸らしてってる。

 と、先生の目がこっちで固定されて。目の前にいた、お追従マンがビクッと肩を跳ね上げた。

 おろおろと視線をさ迷わせて、「鳶尾くん」と囁きかけている。が、鳶尾は涼しい顔で、前を向いたまま。


「では、――」

「先生!」


 ついに葛城先生が、声を上げかけたとき。

 お追従マンが、遮るように大声を出した。天井を貫くように、右手を高々と上げている。 


「なんだ、柏木」

「はい! 4号と闘いたいそうです。――吉村くんが!」

「へっ?!」


 ぎょっ、と目ん玉をひん剥いた。

 な、なに言ってんだ、こいつ。

 お追従マン(柏木って言うらしい)の言葉に、クラスの目がざざっと俺に集まった。


「何あいつ、黒のくせに立候補?」

「目立ちたがりかよ」


 誤解だー! てか、そう思うならお前らが行けっちゅーの!

 ひそひそ話に、最高に物申したい。

 柏木は、「ふふん」と俺に勝ち誇った笑みを見せてくる。は、腹立つ~。

 葛城先生は、腕組みして俺を見る。


「吉村、どうなんだ」

「え」

「やれるか?」


 いつも通りの真っすぐな目に、ちょっと落ち着いてくる。

「やれるか?」 っていうと、わかんねえけど。

 でも、遅かれ早かれ、試験でやるんだし。

 だったら、今でも一緒じゃね?

 俺は、ぐっと腹に力を込めて、叫んだ。


「やります!」




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