俺は前へ出て、げんそくん4号と相対した。
近くで見ると、ますますでっかいなあ。身長、2メートルくらいあんじゃねえか。握りこぶしも、まるでスイカがくっついてるみてえだ。
でも、やるしかないぜ。
俺は、ファイティングポーズを取った。
「始めっ!」
葛城先生の合図と共に、4号が突進してきた。
ブウン、と強烈な左フックを放ってくる。速い!
「うぎゃ!」
ドカッ! といきなりぶっ飛ばされて。俺は、ごろごろマットの上を転がった。
「おおーっ!」と生徒がどよめく。
痛ってえ! とっさにガードした腕がじんじんする。
魔力起こしてもらいたてで、「土」が強い状態で良かった。でなきゃ、一発でグロッキーだ。
4号の顔には「風・土」が半々に点灯してる。それでも、3号の「土」だけのパンチより重い。
――ええい、怯んでたまるか!
パンチ、あんまり食らったらヤバい。ここは、風でスピードアップして、ヒットアンドアウェイだ。
「我が身に宿る、風の元――」
と、ドン! とマットを踏み切る音がして。
気がつけば、目前に4号の拳が迫っていた。だから、速いよ!
何とか、体を半回転する。――ズダン! 拳は俺の背を掠め、マットに突き立った。
バナナ形に、マットがメコッとへこむ。
「げげっ!」
息吐く間もなく、二発目がやって来た。
ズダン! ――さらに、もう一発。4号は、激しいコンボを繰り出してくる。
「どわー!!」
全速力で走って逃げる。え、詠じるどころじゃねー!
「何あれー、詠じることもできてないじゃーん」
「マジ進歩ねえなあいつ」
ワハハハ……とクラスメイトが笑ってる。くそう、怖いんだからなー!
と、ヒュン、と風を切る音がして。胴体に4号の腕が巻き付いた。そのまま左腕を掴まれて、グルン! と振り向かされる。――げげっ、しまった。眼前に、4号の腕がしなった。
「うぐっ!」
ドフッ! と胸にラリアットを食らう。
俺は、ボールみてえに吹っ飛んだ。
バウンドして、ぶっ倒れる。ゲホゲホと咳き込んでいると、4号はまた迫ってきた。
うお、顔が「土」一色だ!
これは、やばいパンチがくる。逃げねば。――ああ、でも! 酸欠で、足に力がはいんねえ。
「ゲホッ、わがみ、にやどる……」
でっかい拳が、間近にせまる。
くそ、こうなりゃままよ!
「土の元素よ。わが身を、鉄壁の鎧と化せ!」
頭の奥でキンッて音がする。
よけれないなら、受けてたつまでだ!――拳が振り下ろされる。
――ガキンッ!
固いものがぶっつかる、鋭い音が響く。
交差させた両腕に、4号の拳がビーーンって震えながらおさまってた。
「や、やった……」
俺の全身から、暗褐色の光が溢れだしていた。なんか、体がめっちゃ「固い」。
この呪文、使ったことなかったけど、土壇場で上手くいってよかったぞ。
と、息をついたとき。
目の前で、4号の顔の光がふっと消える。
それから糸が切れたように、ドンガラガッシャンと崩れ落ちた。
「ええっ?!」
なんで急に止まった。時間切れ、だったのか?
あっけにとられていると、葛城先生が「それまで!」と声をかけた。
「立てるか、吉村」
「あ、うす」
差し出された手につかまって、立ち上がる。先生は、背中をポンと叩いた。
「力押しすぎる。魔力コントロールも、元素への対応もまだ全然だ。だが、よく闘った」
「葛城先生……」
俺は、胸がジンとする。
3号に投げ飛ばされたり、ぼこぼこにされたりしたことが、走馬灯のように浮かぶ。
俺、あれより進歩できたよな、きっと。
「ありがとうございます!」
ふかぶか頭を下げて、列に戻る。
クラスメイトたちは、ざわざわしている。近くの生徒同士でひそひそ言って、こっちを見ていた。
「なにあれ。どういうこと?」
「マグレだろ。あんな奴が……」
何言ってるかわかんなかったけど、やりきった気分で胸を張った。
と、こっちを見ていた鳶尾と目があった。
また、なんか言われるかな、と思って見返すと。ふいと顔をそらされる。
なんだ、珍しいな。