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第73話

 俺は前へ出て、げんそくん4号と相対した。

 近くで見ると、ますますでっかいなあ。身長、2メートルくらいあんじゃねえか。握りこぶしも、まるでスイカがくっついてるみてえだ。

 でも、やるしかないぜ。

 俺は、ファイティングポーズを取った。


「始めっ!」


 葛城先生の合図と共に、4号が突進してきた。

 ブウン、と強烈な左フックを放ってくる。速い!


「うぎゃ!」


 ドカッ! といきなりぶっ飛ばされて。俺は、ごろごろマットの上を転がった。

 「おおーっ!」と生徒がどよめく。

 痛ってえ! とっさにガードした腕がじんじんする。

 魔力起こしてもらいたてで、「土」が強い状態で良かった。でなきゃ、一発でグロッキーだ。

 4号の顔には「風・土」が半々に点灯してる。それでも、3号の「土」だけのパンチより重い。

――ええい、怯んでたまるか!

 パンチ、あんまり食らったらヤバい。ここは、風でスピードアップして、ヒットアンドアウェイだ。


「我が身に宿る、風の元――」


 と、ドン! とマットを踏み切る音がして。

 気がつけば、目前に4号の拳が迫っていた。だから、速いよ!

 何とか、体を半回転する。――ズダン!  拳は俺の背を掠め、マットに突き立った。

 バナナ形に、マットがメコッとへこむ。


「げげっ!」


 息吐く間もなく、二発目がやって来た。

 ズダン! ――さらに、もう一発。4号は、激しいコンボを繰り出してくる。


「どわー!!」


 全速力で走って逃げる。え、詠じるどころじゃねー!


「何あれー、詠じることもできてないじゃーん」

「マジ進歩ねえなあいつ」


 ワハハハ……とクラスメイトが笑ってる。くそう、怖いんだからなー!

 と、ヒュン、と風を切る音がして。胴体に4号の腕が巻き付いた。そのまま左腕を掴まれて、グルン! と振り向かされる。――げげっ、しまった。眼前に、4号の腕がしなった。


「うぐっ!」


 ドフッ! と胸にラリアットを食らう。

 俺は、ボールみてえに吹っ飛んだ。

 バウンドして、ぶっ倒れる。ゲホゲホと咳き込んでいると、4号はまた迫ってきた。

 うお、顔が「土」一色だ!

 これは、やばいパンチがくる。逃げねば。――ああ、でも! 酸欠で、足に力がはいんねえ。


「ゲホッ、わがみ、にやどる……」


 でっかい拳が、間近にせまる。

 くそ、こうなりゃままよ!


「土の元素よ。わが身を、鉄壁の鎧と化せ!」


 頭の奥でキンッて音がする。

 よけれないなら、受けてたつまでだ!――拳が振り下ろされる。


――ガキンッ!



 固いものがぶっつかる、鋭い音が響く。

 交差させた両腕に、4号の拳がビーーンって震えながらおさまってた。


「や、やった……」


 俺の全身から、暗褐色の光が溢れだしていた。なんか、体がめっちゃ「固い」。

 この呪文、使ったことなかったけど、土壇場で上手くいってよかったぞ。

 と、息をついたとき。

 目の前で、4号の顔の光がふっと消える。

 それから糸が切れたように、ドンガラガッシャンと崩れ落ちた。


「ええっ?!」


 なんで急に止まった。時間切れ、だったのか?

 あっけにとられていると、葛城先生が「それまで!」と声をかけた。


「立てるか、吉村」

「あ、うす」


 差し出された手につかまって、立ち上がる。先生は、背中をポンと叩いた。


「力押しすぎる。魔力コントロールも、元素への対応もまだ全然だ。だが、よく闘った」

「葛城先生……」


 俺は、胸がジンとする。

 3号に投げ飛ばされたり、ぼこぼこにされたりしたことが、走馬灯のように浮かぶ。

 俺、あれより進歩できたよな、きっと。


「ありがとうございます!」


 ふかぶか頭を下げて、列に戻る。

 クラスメイトたちは、ざわざわしている。近くの生徒同士でひそひそ言って、こっちを見ていた。


「なにあれ。どういうこと?」

「マグレだろ。あんな奴が……」


 何言ってるかわかんなかったけど、やりきった気分で胸を張った。

 と、こっちを見ていた鳶尾と目があった。

 また、なんか言われるかな、と思って見返すと。ふいと顔をそらされる。

 なんだ、珍しいな。




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