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第75話

 先輩たちと別れてから、コンビニで必要なものを調達した俺は、さっそくポスター作りに取り掛かった。

 西浦先輩が「一緒に演習場に行かないか」って、誘ってくれたんだけどさ。

 今晩は、このミッションがあるから、ありがたくも辞退した。かわりに、明日ご一緒させてもらうことになったんだ。


「どんな感じにしようかなー」


 生徒会が警備に参加するのに、反発があるってことだから。

 やっぱ、今回の変化が前向きに伝わるのがいいよな。「学園に新風」とか「こころを一つに」とか、良い感じじゃね?

 イメージを決めたら、さっそく、画用紙に描き始める。

 青空と校舎をバックに、二本の腕が握手してる絵にする予定。

 絵はそんな得意じゃねえけど、ポスターカラーで色を塗って、文字をいれたらそれっぽくなってきた。

 最後に「生徒会と風紀の共同警備を支持します」って書きつけて。


「よっしゃ、できた!」


 あっという間に、一枚完成した。

 続けて二枚目、三枚目と描いていく。で、先輩たちが部屋に戻ってくる前に、なんとか五枚描き終わった。

 並べて乾かしながら、俺はグッと拳を握った。


「明日の朝、掲示していいか葛城先生に聞いてみて。オッケーだったら、貼って回るぞ!」




 で、翌朝。

 補習の後に、ポスターを持って葛城先生に聞いてみた。俺の力作を見て、先生は「ふむ」と頷いて、言った。


「ポスターなら、掲示スペースであればどこに貼っても構わない。この学園は主体性を重んじる。公序良俗に反さない限り、誰が何を主張してもいい。――ただ、主張には何らかの反応がつきものだ。そのことは考えておくようにな」

「はい! ありがとうございますっ」


 ペコっと頭を下げる。

 まだ早朝のせいか、廊下には生徒が少ない。今のうちに貼っておいたら、登校して来たときに、みんな見てくれるはず。

 けど、さっそくC館の掲示スペースに行ってみて、俺は度肝をぬかれた。


「なんじゃ、こりゃ!」


 広い掲示スペースは、すげえ量の張り紙やポスターで埋め尽くされてた。

 もともと貼ってあった、行事予定のポスターとか。課外活動の案内を押しのけて、貼られてたのは。


『学園に受け継がれてきた伝統を守ろう』

『生徒会の独裁をゆるすな』

『風紀の美しい活動のこれまで』


 と、今回の決定に「物申す!」って、誰かの主張。

 こんなすげえ量、いつの間に貼ったんだ。相手側の本気を感じて、ごくりと唾を飲む。


「いやでも、主張すんのは自由だし」


 俺だって、ここに応援ポスター貼っちまうもんね。

 乱雑に貼られてる紙をきちっと並べ直したら、ぎりポスター一枚貼れるくらいの余裕が出来た。

 良く見えるように、画鋲でしっかり留める。


「よしっ、まず一枚!」


 俺は、あちこちの掲示スペースを回った。

 けど、どこもC館と同じようになってて。一体どれだけの生徒が反対してんだろって、ちょっとぎょっとする。

 俺のクラスとかだと、けっこう喜んでたみたいなんだけど。ここだけ見たら、みんなが反対してるみたいだ。

 だから、なるべく目立つとこに貼ってった。賛成のやつもいるって、ちゃんと見えるといいなって。

 そんなこんなで、最後の一枚を貼っているときだった。


「――あなた、そこで何をしているんですか」


 背後から、声をかけられたのは。

 俺と言うと、めっちゃ背伸びしてポスターに画鋲を押したとこで。掲示板に張り付いたまま、慌てて首だけ後ろを振り向いた。

 っていうのもさ。

 その問いかけが、丁寧な割に不機嫌そうな気配だったのと。

 知り合いの声だったからなんだよな。


「片倉先輩?」


 って言ってから、俺は目を丸くした。

 そこに立ってたのは、片倉先輩じゃなくってまるきり別人だった。

 しかも、あの眼鏡で背が高い、もう一人の庶務――たしか、海棠って人だったから。

 俺の声を聞いて、海棠さんは不機嫌そうに眉を寄せた。




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