びっくりした、片倉先輩じゃないのかよ。
声、そっくりすぎじゃねえ?
待てよ、そういえば。片倉先輩って、弟がいるって言ってたような。いや、でも名字も違うし……?
「何、をしてるんです?」
ぽかんとしてたら、問い直される。
慌てて、ポスターを指さして、返事する。
「ええと、ポスターを貼ってました。応援の」
生徒会の人を前にして言うの、ちょっと恥ずかしいな。ぽりぽりと頬を掻いていると、海棠さんは、つかつかと歩み寄ってくる。
「――このポスターは、あなたが描いたんですか?」
「あ、はい」
と、上から下までポスターを眺めていた海棠さんは、片眉を跳ね上げた。
「下手くそな絵ですね。生徒会のイメージに関わりますので、剥がしていいですか?」
「え」
あっけにとられて、相手の顔をじっと見た。
うそ、剥がすの? さっき貼ったばっかなのに。
けど、海棠さんは大まじめに、眼鏡をクイッとやっちゃって。怜悧な目が「何か?」って感じで俺を見てる。
どうもジョークじゃないらしくって、冷や汗が垂れた。
「あの、どうしてもっすか? たしかに、上手くはないすけど。気持ちはたっぷり込めたんで……」
俺だって、応援したいぞ。
なんとか食い下がってみると、海棠さんは不可解そうに目を瞬かせた。
「そうですか? なら、気持ちだけ頂きます。庶務として、これほど低クオリティのものを放ってはおけません。生徒会の理念まで安っぽく見えてしまいますので。――あと、「気持ちを込めた」などという精神論を、成果として誇ってよいのは中学生までと思いますよ」
し、辛らつすぎる!
すらすらと論破され、ガビーン、とショックを受けた。
その間に、海棠さんはサッとポスターを剥がしてしまう。それを無造作に小脇に抱えると、肩に掛けていた鞄から、巻紙を取り出した。
「あっ!」
俺は、息を飲んだ。
海棠さんが取り出したのも、ポスターだった。
それも、デザインと言い、コピーと言い、かなりスタイリッシュな逸品。思わず、目を奪われる。
海棠さんは、俺のを剥がしたスペースに逸品を貼りながら、
「生徒会の広報活動は、俺に一任されていますので。ちなみにこれは、デジタルデザイン部と新聞部に作成を依頼したものですよ」
「すげえ。お洒落……」
「ええ。ですから、悪く思わないで下さいね。あなたのポスターは、全て撤去させてもらいますが」
「うう」
全部撤去とか、切ねえ。
でも、あんなすげえの見せられた後じゃ、食い下がれねえぜ。
がっくりと肩をおとしていると、海棠さんはちろりと目を向けてくる。
「なにか不満でも」
「いや、その。……応援してるって、伝えたかったんす。生徒会と風紀委員会が、協力して学園を守るって、かっけえなって思ったから。そんで」
せめて、応援の気持ちだけでも伝えようって。
真っすぐ目を見て、自分の気持ちを言葉にすると、「あのですね」と強めに遮られる。
「それはあなたの理想であって、生徒会の理念とは違います。此度のことで、風紀と共闘の意思などありませんし、期待されても困ります。そうやって、力ある者に自分の望みを背負わせるのは、あなたの癖ですか? 吉村さん。はっきり言って無責任ですよ」
「……!」
ばっさりやられて、二の句がつげない。
海棠さんは、もう話す事はねえって感じで、踵を返す。
早足に遠ざかっていく背中を、俺はボー然と見送った。
数学の授業中、俺は物思いに沈んでいた。
無責任かぁ。
確かに、協力して警備とは言ってなかったかもしれん。須々木先輩、「風紀にはムカついてた」って言ってたし。
じゃ、早合点して、変な後押しするとこだったのかな……。
「あーー」
呻いて、ガバッとノートに顔を伏せる。
恥ずかしい。
俺って奴は、また一人で突っ走って。なんで、先にイノリに相談しなかったんだ。
いや、わかってんだよ! こっそり応援して、「紫のバラのひと」みたいにさ、陰ながら支えるとかしたかったんだ。
それでしくじってちゃ、世話無いよな。
海棠さんに言われたこと、グサッときたけど。言われなかったら、知らない間にイノリを板挟みにしたかもしれない。
マジ、反省だ。