目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第77話

 とはいうものの、へこたれたりしないんだぜ。

 ポスターは駄目だったとしても、応援する気持ちは変わんないんだし。また、別の手を考えるのみ!


「四限の総合学習は全校集会に変わった。皆、大講堂に静かに移動しろ」


 教科書をトンと揃えて、葛城先生が言う。

 集会なんて、珍しいな。

 俺は、生徒の波に乗っかって、大講堂に向かった。


「えー、みなさん。本日、集まってもらったのはですね。昨日より、生徒会の体制が変わったことにつきまして。生徒会と風紀委員会から、説明があるそうで」


 生徒指導の谷中先生が、丸い頭をハンカチでふきふきして言う。

 続いて、ステージの上にやってきたのは、生徒会と風紀委員会だ。

 あ、イノリだ。ちょっと眠そうにしてて、くすっとくる。

 生徒会は全員いたけど、風紀委員は幹部っぽい生徒が数人来てるみたいだった。


「あれ。委員長の白峯さん、いなくね?」

「また、臥せってらっしゃるんじゃない」

「無理もないな。よっぽど衝撃だったんだろ」


 前の生徒達が、ひそひそと囁き合っている。どうも、風紀は委員長が来ていないらしい。口ぶりからいって、体の弱い人なのかもしれん。

 マイクを受け取って、八千草先輩が話だした。


『皆さん、こんにちは。生徒会長の八千草です。先ほど、谷中先生からご説明のあったとおり、本日は生徒会の体制の変革について、お話ししたいと思い――』


 うーん。相変わらず、めっちゃいい声だぜ。

 八千草先輩は、さっぱり簡潔に昨日の事件について話している。その間、風紀の腕章を着けた生徒達は、先輩を真顔で凝視してて怖かった。



「少し、質問をしたい!」


 話が学園の警備に参入する、という所に差し掛かったとき、ステージ上の風紀委員が大声で遮った。

 ざわざわする空気の中、八千草先輩は「どうぞ」と顎を上げる。


「なぜ長年の掟を破ってまで、生徒会は風紀の領域を侵そうとするのか。権力の独占を狙っているのではないのか」


 その発言は、よく響いた。辺りの生徒達も、「確かに」「そもそも、なんで今さら?」と囁きあっている。

 しかし、八千草先輩は動じていない。


『お答えします。なぜ、風紀の領分を侵すか――ということですが。以前から俺たちは、掟自体に疑問を感じていました。学園の治安維持は、一つの組織にのみ任せるよりも、皆で責任を持つべきと思うからです』


 先輩は風紀の生徒を見返して、それから、講堂を見回した。


『そして、生徒会も警備に参加する必要がある。――そう考えた大きな要因として、今年の十月に起こったリンチ事件があります。被害生徒は瀕死の重症を負った痛ましい事件で、加害生徒から多数の退学者が出ました。風紀も、この件では人員整理がされたと聞きます』


 リンチ事件。――その言葉が出た瞬間、どよどよと生徒たちが動揺した。

 俺も、きつい内容にかなりぎょっとする。

 そんな大変なことがあったなんて、知らなかった。今年の十月っていうと、ちょうど俺たちが転入してきたころじゃないか……。


『これほどのことがありましたが、校内で「リンチを受けた」との相談は一向に減りません。それで、これまでの警備体制に限界を感じ、名乗りを上げた次第です』


 と、八千草先輩は風紀の一番でかい人を見て、言った。でかい人は、苦虫を噛み潰したような顔になる。生徒会の列で、副会長が「あちゃー」って感じに額を押さえていた。


「黒河くん、納得ですか?」


 ステージの脇で、谷中先生が問いかける。でかい人――黒河さんは渋々頷いた。

 それからは、トントン拍子に説明が済んだ。

 話のしめくくりに、八千草先輩と黒河さんが握手をしてたけど。二人とも笑ってるけど、バチバチ火花が散ってるってわかる。

 なんか、ひと波乱ありそうな予感だ。




 ざわつく生徒に揉まれながら、大講堂から出る。


「やっぱ、俺は生徒会に望みかけてえ感じあるわ」

「わかる。なんかやってくれそうだし」

「でも、独裁になるかもしれない。危険だと思う」

「風紀の方が、秩序的ではあるよね」


 みんな口々に意見を言っている。賛成も反対もあるけど、どっちもすごく真剣だ。

 教室までに通りかかる、掲示スペースにもたくさんの生徒が溜まってた。

 生徒会サイドのポスターは、海棠さんが貼っていた以外のものも増えていて。スタイリッシュだったり、ポップだったり様々だけど、どれもとにかく目を引いている。

 すげえなあ……。

 って、しみじみしながら歩いていると。

 突如、真横にあった教室の戸がカラッと開いて。にゅっと伸びてきた手に、部屋の中に引っ張り込まれた。


「わ!?」


 ぎょっとしている俺の前で、ドアがきっちり閉められる。


「や。吉村くん」

「須々木先輩?!」


 振り向くと、人懐っこい笑みを浮かべる美少女顔があった。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?