いつも思うけど、先輩ってマジで神出鬼没だよな。
「先輩、なんでここに? まだ講堂にいるはずじゃ……」
俺が講堂を出た時には、ステージ上で「いざ話し合い!」て感じだったじゃん。
たずねると、須々木先輩はけろっと笑う。
「便所言うて、ぬけてきてん」
「へ?」
「きみにちょっと話したいことがあったんよ。で、先回りしてここで待っててん。1-Bやったら、ここ通るやろと思ってな」
マジか。足速えな。
てか、話したいことってなんだろう。首を傾げてると、先輩は「時間ないから、手短に言うわ」と前置きして、
「桜沢からの伝言な。今日の昼のことなんやけど、会議入って行けへんくなったって。やから、待たんと食べて欲しい、言うてたわ」
「え……そうなんすか」
てっきり、昼メシは会えるもんだと思ってた。
夜も、会議があるって言ってたよな。じゃあ、今日はもう会えないのか……。やべ、すげえ寂しいぞ。
しゅんと落ち込みそうになって、お礼を忘れてるって気づく。慌てて、頭を下げた。
「須々木先輩、ありがとうございます。わざわざ伝えに来てもらって」
「ええのよ。ぼく自身、きみには用があったから」
「えっ?」
顔を上げると、先輩の笑顔が間近にあった。思わずのけ反ぞったら、右手をはしっと掴まれる。
そして、ちゃっ、となにかを手首に通される感じがして。
「これ――」
見れば、小さな玉の連なったブレスレットだった。ちょっと黒みを帯びた白い玉には、なめらかな光沢と透明感がある。
「プレゼント。お守り代わりにつけて♡」
「い、いやいや! そんな、貰えないっすよ」
これ、パワーストーンみたいだし。ともすれば、かなり高いんじゃねえの?! 俺、とくに誕生日でもないし。
すると、先輩はニコニコしながら手を振った。
「気にせんでええよ。それ、もとは露店で買った安いやつやから。でも、魔法でちょっと綺麗にしてあるから、ええかんじに見えるやろ?」
「えっ、魔法で。そんなん出来んすか?」
「出来るよ? 見た目だけなら、金もダイヤもいける」
「す、すげー!」
魔法やべえ。まさに普段着をドレスの、シンデレラの世界観じゃん。
パチパチと手を叩くと、先輩は得意そうに胸を反らした。
「ぼく、こういう工作すんの好きでな。よう作るねんけど、ものが増えてきたら置き場に困んのよ。そんで、ちょいちょい友達に押し付けるわけ……助けると思って、貰ってくれへん?」
「そ、そういうことなら。ありがとうございます。だいじにします」
「あら、ご丁寧に~」
ぺこりと頭を下げたら、先輩もおどけて同じ仕草をする。
「ほな、ぼく行くわ」
「あ、はい。あざす」
俺の手首を満足そうに眺めると、ぱっと身を翻して行ってしまった。なんつーか、つむじ風みたいな人だなぁ。
もらったブレスレットを、目元にかざす。
つるつるした玉は、やわらかい光を帯びていて。綺麗なだけじゃなくて、不思議な安心感があった。
手首ごと左手で包んで、にまっとしてしまう。
「へへ。ともだちかー」
ブレスレットは、すげえ綺麗だけど。そう言ってもらったのが、いちばん嬉しかった。
さて、昼休み。
つっても、今日はイノリと会えないし。
せめて、景色のいいとこでメシを食いたくて、えっちらおっちら校内を散策する。
C館を出て花壇の周りをうろついてたら、21号館の前に出る。でっかい両開きのガラス戸を見て、「そういえば」と思う。
正面入り口って、こっちだったっけ。俺、いつも裏から入ってるから忘れてた。
最初に、須々木先輩に連れてってもらったのが裏口だったし。305教室にあがる階段が、そっちのが近いから気にしたことなかったというか。
近づいて、ガラス戸から中を覗き込むと、正面に掲示スペースがある。
「おお、ここにも生徒会ポスターだ」
でも、風紀応援の紙はない。なんでだろ。
首を傾げていると、ガシッ、と肩を掴まれた。
「ちょっと、そこのおまえ。何やってんの?」
振り向けば、生徒が二人立っている。眉間に皺を寄せて、不機嫌そうだ。
「あ、ポスター見てて」
「それにかこつけて、中に入ろうとしたんじゃないだろうな」
「えっ」
「そこは、桜沢くんのスポットだぞ。入ったりしたら、ひどい目にあうからな」
「ええっ」
どういう意味よ!?
目を白黒させていると、苛立たしそうに腕を引かれる。
「いいから、早くどけろっつーの!」
「こっちは親切で言ってやってんだよ!」
「うわわ」
たたらを踏んで、よろけたとき。
「もめ事ですかー?」
素っ頓狂に、明るい声が割って入る。
全員がバッと振り向くと、そこには金髪の美青年――二見が立っていた。