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第78話

 いつも思うけど、先輩ってマジで神出鬼没だよな。


「先輩、なんでここに? まだ講堂にいるはずじゃ……」


 俺が講堂を出た時には、ステージ上で「いざ話し合い!」て感じだったじゃん。

 たずねると、須々木先輩はけろっと笑う。


「便所言うて、ぬけてきてん」

「へ?」

「きみにちょっと話したいことがあったんよ。で、先回りしてここで待っててん。1-Bやったら、ここ通るやろと思ってな」


 マジか。足速えな。

 てか、話したいことってなんだろう。首を傾げてると、先輩は「時間ないから、手短に言うわ」と前置きして、


「桜沢からの伝言な。今日の昼のことなんやけど、会議入って行けへんくなったって。やから、待たんと食べて欲しい、言うてたわ」

「え……そうなんすか」


 てっきり、昼メシは会えるもんだと思ってた。

 夜も、会議があるって言ってたよな。じゃあ、今日はもう会えないのか……。やべ、すげえ寂しいぞ。

 しゅんと落ち込みそうになって、お礼を忘れてるって気づく。慌てて、頭を下げた。


「須々木先輩、ありがとうございます。わざわざ伝えに来てもらって」

「ええのよ。ぼく自身、きみには用があったから」

「えっ?」


 顔を上げると、先輩の笑顔が間近にあった。思わずのけ反ぞったら、右手をはしっと掴まれる。

 そして、ちゃっ、となにかを手首に通される感じがして。


「これ――」


 見れば、小さな玉の連なったブレスレットだった。ちょっと黒みを帯びた白い玉には、なめらかな光沢と透明感がある。


「プレゼント。お守り代わりにつけて♡」

「い、いやいや! そんな、貰えないっすよ」


 これ、パワーストーンみたいだし。ともすれば、かなり高いんじゃねえの?! 俺、とくに誕生日でもないし。

 すると、先輩はニコニコしながら手を振った。


「気にせんでええよ。それ、もとは露店で買った安いやつやから。でも、魔法でちょっと綺麗にしてあるから、ええかんじに見えるやろ?」

「えっ、魔法で。そんなん出来んすか?」

「出来るよ? 見た目だけなら、金もダイヤもいける」

「す、すげー!」


 魔法やべえ。まさに普段着をドレスの、シンデレラの世界観じゃん。

 パチパチと手を叩くと、先輩は得意そうに胸を反らした。


「ぼく、こういう工作すんの好きでな。よう作るねんけど、ものが増えてきたら置き場に困んのよ。そんで、ちょいちょい友達に押し付けるわけ……助けると思って、貰ってくれへん?」

「そ、そういうことなら。ありがとうございます。だいじにします」

「あら、ご丁寧に~」


 ぺこりと頭を下げたら、先輩もおどけて同じ仕草をする。


「ほな、ぼく行くわ」

「あ、はい。あざす」


 俺の手首を満足そうに眺めると、ぱっと身を翻して行ってしまった。なんつーか、つむじ風みたいな人だなぁ。

 もらったブレスレットを、目元にかざす。

 つるつるした玉は、やわらかい光を帯びていて。綺麗なだけじゃなくて、不思議な安心感があった。 

 手首ごと左手で包んで、にまっとしてしまう。


「へへ。ともだちかー」 


 ブレスレットは、すげえ綺麗だけど。そう言ってもらったのが、いちばん嬉しかった。






 さて、昼休み。

 つっても、今日はイノリと会えないし。

 せめて、景色のいいとこでメシを食いたくて、えっちらおっちら校内を散策する。

 C館を出て花壇の周りをうろついてたら、21号館の前に出る。でっかい両開きのガラス戸を見て、「そういえば」と思う。

 正面入り口って、こっちだったっけ。俺、いつも裏から入ってるから忘れてた。

 最初に、須々木先輩に連れてってもらったのが裏口だったし。305教室にあがる階段が、そっちのが近いから気にしたことなかったというか。

 近づいて、ガラス戸から中を覗き込むと、正面に掲示スペースがある。


「おお、ここにも生徒会ポスターだ」


 でも、風紀応援の紙はない。なんでだろ。

 首を傾げていると、ガシッ、と肩を掴まれた。


「ちょっと、そこのおまえ。何やってんの?」


 振り向けば、生徒が二人立っている。眉間に皺を寄せて、不機嫌そうだ。


「あ、ポスター見てて」

「それにかこつけて、中に入ろうとしたんじゃないだろうな」

「えっ」

「そこは、桜沢くんのスポットだぞ。入ったりしたら、ひどい目にあうからな」

「ええっ」


 どういう意味よ!? 

 目を白黒させていると、苛立たしそうに腕を引かれる。


「いいから、早くどけろっつーの!」

「こっちは親切で言ってやってんだよ!」

「うわわ」


 たたらを踏んで、よろけたとき。


「もめ事ですかー?」


 素っ頓狂に、明るい声が割って入る。

 全員がバッと振り向くと、そこには金髪の美青年――二見が立っていた。





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