「てか、なんかいい匂いしねえ?」
「へへ。見てのおたのしみー」
楽しそうなイノリに背中を押されつつ、部屋の中に入る。
と、テーブルの上に朝メシが並んでて、ホカホカ湯気をたてていた。
「すげー! どしたんこれ?」
「一緒に朝ごはん食べたくて。ちょっと張り切っちゃいました」
目を真ん丸にしてると、イノリがちょっと照れくさそうに言う。俺は、胸いっぱいに嬉しさが溢れてきて、イノリの腕をぎゅっと握った。
「めっちゃうまそうっ。食おう! 今すぐ」
「ほんと? お味噌汁よそうねー」
「俺もなんか手伝う」
「ありがとー。じゃ、お椀はこんで?」
「おう!」
それから、テーブルで向かい合って朝メシを食べた。
「味噌汁、うまっ」
出汁が効いてて、五臓六腑に染み渡る~。
てか、具沢山のお握りも、もやしの玉子とじも、ぜんぶ美味い。
夢中でぱくついていると、イノリがニコニコして言う。
「お味噌汁、おかわりあるからね」
「ありがと! 俺、はんぺんの味噌汁って初めてだ。うまいんだなー」
「だよねぇ。俺はまっちゃって、もうこればっかだよ」
「お前はんぺん好きだもんな―」
和やかに談笑しつつ、あっという間にメシを平らげてしまう。腹いっぱいになって、俺はふーと深く息を吐いた。
「うまかったー。ごちそうさま」
「はーい。お粗末さま」
湯気の立つお茶まで出てきて、いたれりつくせりだ。
せめて、片づけくらいはさせてもらおう、と思いつつ。俺は、イノリに気になってたことをたずねた。
「いやぁ、しかしびっくりしたわ。お前、いつのまに料理に目覚めてたん?」
お泊りっつーと、俺と二人でてんやものばっか食べていたというのに。イケメンで料理ができるとか、ますますモテてしまうだろ。
イノリは、お茶を冷ましながら、おっとりと答えた。
「んー、そうだなぁ。こっち来てからだよ。ほら、一人メシが増えたから」
「……あ、だよな」
思わずトーンダウンすると、笑って手を振られる。
「ちょ、深刻な話じゃないよ? そんで、同じもんばっか食べてたら、会長に「不健康だから自炊しろ」って、言われてさぁ。思い立って、ちょいちょい作るようになったんだ」
「おお。えらいなあ」
「ときどきだから、大したことないよー。食堂も行くしさ」
しみじみ感心して言うと、イノリはちょっとはにかんだ。
いや、マジで凄いって。俺なんか、まず作ってみようと思わねえもんな。
あと意外に、八千草先輩って面倒見良いんだって、驚いた。すげえ俺様っぽく見えるけど、良い先輩なら良かったなイノリ……。
「その感じだと、生徒会ってみんな自炊してんの?」
「ううん? 俺だけだよ」
「えっ、会長は?! してねえの?」
言い出しっぺなのに?! イノリは唇に指を当てて、首を傾ける。
「なんかねぇ、「遊び友達」からお弁当もらうからいいんだってー」
「へえ!」
「日替わりで、毎日違う人が持ってきてるんだよー」
「おお……」
す、すげえな。日替わり弁当って、慕われ方が半端ないじゃん。
ぽかんとしてると、イノリに面白そうに頬を突っつかれた。
「さては、トキちゃん。意味わかってないだろ」
「へ、何が?」
「んーん。トキちゃんはそのままでいてねー」
「おう?」
よくわかんねえまま頷くと、イノリは満足そうに笑ってた。
何なんだ?