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第90話

 かわるがわる風呂に入って、俺たちは寝ることにした。

 401号室は2人部屋で、二段ベッドが一つある。

 イノリがどっちでもいいらしいから、俺は上の段に寝かせてもらう。自室じゃ下の段だから、新鮮だぜ。

 電気を消して真っ暗の部屋の中で、ヒーターがうんうん唸る。


「そういえばさ、トキちゃん」

「んー、何?」

「決闘大会、おじさん来るみたいだよ」

「へぇっ!?」


 俺はぎょっとして、跳ね起きた。

 父さんが、来る?!


「なんで?!」

「んーとね。決闘大会って、学園OBの治癒術師がよばれるじゃん? おじさん治癒術師だから、くるんだってさぁ」

「え、えええ。治癒術師? 父さんって、そういう人だったん?」

「うん。すご腕だってみんな言ってたー。すごいよねえ」

「ま、マジかぁ……。てか、イノリはなんで知ってんだ?」

「会長がさ、言ってきたんだよね。お客さんよぶのとか、会長と副会長が手配したらしくてさ。で、名簿持ってきて『この人、お前の知り合いだろ?』ってぇ」

「へええ」


 そうなのか……。生徒会ってそういう仕事もしてんだな。

 それにしても、来るのかよ父さん。学校行事に親が来るって、高校生にもなって経験するとは思わんかったぜ。


「じゃ、いいとこ見せれるように頑張んねえとだなっ」

「ふふ、そうだねえ。楽しみ?」

「んー。うん、まあ」

「トキちゃん、お父さんっ子だもんね」


 イノリが、くすくす笑う。ちょっとばつが悪くなって、口をとがらせた。


「なんだよ、笑うなよっ」

「ごめん。でも、俺もおじさんに会えてうれしいよ?」

「え、そうか?」

「うん。昔っから、俺たちん家ってずっといっしょでしょ? だから、いないと楽だけど、それはそれで変だって思うよね」

「ああ……」


 それは、たしかに思うかもしれない。

 俺たちの家って、なぜか六人一緒にいるのが当たり前って感じだったもんな。

 学校行事も旅行も、もちろん二家族セット。

 家こそ別だったけど、それでも隣同士だしなぁ。大抵、どっちかの家に集まって団らんしてたから、家が別って感じしなかった。

 いや、待てよ。

 そういや、たまに「おじさん・父さん」、「おばさん・母ちゃん」のセットでいなくなってたりしてたな。あれって、今思えばイチャついてたんだろうな……。

 まあ、それは良いとして。

 そんだけ一緒だと、離れてるのは変な感じだ。

 この前みた夢だって、六人で畑耕してたし――。



『トキちゃん、はるになったらスケッチにこようね』

『おう! やくそくだぞ、イノリ』


 湿った畦に座りこんで、イノリと泥だらけの指を絡めた。

 肩を寄せ合って、球根を植えた畑を眺めた。

 その向こうに、暗い緑の森が広がってる。――あのなかは、たしか綺麗な川が流れてて……。



――ん?

 そういえば。

 俺たちって、ほんとにちっさい頃、六人一緒の家に住んでたような気がする。

 マンションじゃなくって、ちっさい一軒家。町並みも、もっとのんびりした田舎っぽいところでさ。

 いつから、今の家に越してきたんだっけ。――そもそも、あれはどこだったんだろう?


「なあ、イノリ――」


 覚えてるか、聞こうとしたら。

 イノリはすでに、すうすう寝息を立てていた。

 慌てて、口を押える。疲れてんのに、起こしちまったらかわいそうだ。


「寝よ」


 明日は、イノリより早く起きないとだしな。

 俺はアラームを確認すると、布団をかぶって丸くなった。




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