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第44話 保健室


 理科棟につくと、オージがユーヤを姫抱きにして、ちょうど出てきたところだった。南先生が脇から手を伸ばして、ユーヤの首に氷を当てている。

 そこからは早かった。

 保健室のベッドに寝かされたユーヤの手を、オージはひざまずいて握っていた。


「ユーヤ、すまなかった……」


 その声には深い悔恨がにじむ。祈るように、ユーヤの手を、自らの額に当てた。周りはいっさい見えていないようだ。

 カーテンの隙間から、光が差す。二人の姿は彫刻のように、神聖で美しかった。


「中条くん、あなたも冷やしなさい」


 南先生が、そっと氷を渡してくれた。隼人は礼を言い、首に当てる。脈打つ血が、じんわりと冷えた。


「ん……」


 ユーヤがわずかにうめいた。オージは弾かれたように、ユーヤの顔を覗き込む。出ようとしていた隼人も、思わず振り返った。


「ユーヤ!」

「ぉー、じ……?」

「ああ、俺だ。ユーヤ……」


 オージの確かな声音に、ユーヤは「オージィ」と声を揺らした。くしゃりと幼子のように顔をゆがめる。


「つらかったよお」

「ごめんな……」

「ぼく、ぼくっ、ひっ……ひとりぼっちでっ……つらかったぁ」


 オージはユーヤの手をかきいだき、ユーヤの涙に触れそうな距離で、痛ましげにユーヤを見つめた。


「ごめんな。つらかったな」

「うぇ、も、ひとりにしないれ……」

「ああ、ひとりにしない。二度と離さないから……」

「ひっく、おーじのばかぁ……うわあぁん!」


 オージの手にすり寄る。せきを切ったように、わんわんと泣き出した。

 隼人は、そっとベッドから離れた。今は二人にしてあげたほうがいいだろう。


 保健室から出ると、ちょうどケントマオと行きあった。ふたりとも、隼人を見てバツの悪そうに、顔を渋くした。


「ユーヤは」


 ケンが尋ねる。隼人は答えた。


「今休んでる。大丈夫だと思う」


 隼人の言葉に、二人の肩の力が抜ける。安堵しているのだとわかる様子に、少し気分が浮上した。


「今、藤貴くんがお見舞いしてるよ」


 とりあえずそれだけ伝えて、隼人はその場を後にしようとした。ケンが「おい」と、隼人の背に声をかける。


「何?」

「いや……」


 ケンは何か言いよどんでいる。隼人はその様子に、さっきの怒りが少しぶり返してきた。思わず目に力がこもったのに、反応したのはマオだった。


「ずいぶん正義ぶるじゃん。部外者は引っ込んでろよ」

「マオ」

「ケンもさ、愚痴言う相手くらい選んでよ。格とか下がるじゃん」


 ケンが押し黙る。マオはしっかり、ケンと隼人の言い合いから察していたらしい。隼人も、引く気にはなれなかった。なにぶん、疲れていたのだ。


「ケンカもちゃんとできない人に言われたくないよ」



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