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新たなるスタート2

「生きてはいるけど……起きない。小さくもなってるし、何かがあるのか? そもそもどうしてノアがここに……」


 今がいつなのかまだ分かっていないが、キズクがノアと出会ったのは今よりも明らかに後である。

 こんなところにノアがいるはずない。


「それにリッカ……なんでそんな怖い顔してたんだ?」


 うなりこそしていないがキズクの後ろでリッカは鼻にシワを寄せて牙を剥き出したうなり顔になっている。

 キズクが振り向いた瞬間にスッと顔を戻していたけどしっかり見てしまった。


 リッカは気まずそうにキズクから視線を逸らす。


「まあいいか。さて、問題はこっちだよな」


 リッカの態度もノアに対するものである。

 まずはノアのことを解決するのが優先だろう。


「ノア……?」


 時を戻す魔法なんて聞いたこともない。

 時の神だったとか力が足りないとかノアは言っていた。


 時を戻した影響だろうかとキズクはそっと指先でノアの頭に触れた。

 ふわっとした羽毛の感触は変わらず気持ちがいい。


「ん……」


 触れれば壊れてしまいそうなぐらいに小さい。

 どうしたらいいのか分からなくてとりあえずノアの頭を撫で回す。


 その間キズクの後ろではリッカがまたしても牙を剥き出して無音でうなっていることにキズクは気づいていない。

 そうしているとノアが小さくみじろぎした。


「ノア……ノア!」


「ほわ……? キズク…………?」


 ノアは小さい目をパチパチとさせて目を覚ました。


「ホワッ!?」


 キズクに気づいたノアは目も口も大きく開けて驚いた。


「キズク……! えっ、デカッ……それに若!?」


「リ、リッカ……ダメだよ?」


 困惑するノアを威嚇するようにしリッカが牙を剥き出した鼻先をノアに近づける。

 そのまま食べてしまいそうでキズクは少しだけ焦る。


「うおぅっ!?」


「危ない!」


 ノアが間近に迫ったリッカを見て驚き、飛び上がる。

 飛ぼうとしたのかもしれないがうまく飛べずにキズクの手から転がり落ちてしまう。


 キズクは素早く腰を落としてノアの下に手を滑り込ませてキャッチする。


「うむむぅ? 体が上手く動かない……なぜキズクはそんなに大きいのだ?」


「俺が大きいんじゃなくてお前が小さいんだよ」


 普通に会話が成立していることはひとまず置いとく。

 改めて自分の姿も確認したいと思ったキズクは手にノアを乗せたまま部屋を移動する。


 向かった先は浴室。

 浴室には全身が映る鏡があるので、それで姿を確認しようと思った。


 古さはあるけれど水垢なんかは綺麗にされた鏡に自分の姿を映す。

 着古して、少し袖の長さが足りないヨレヨレのパジャマを着た若い姿の自分を見てキズクは少し眉をひそめた。


 今のキズクはあまり健康的にも見えない。

 最悪の環境だったけどちゃんとした役割があった分ご飯だけはちゃんと食べられていた回帰前の方がまだ見た目には健康的であった。


「な……なんじゃこりゃー!」


 そして自分の姿に驚いている存在がもう一つ。

 ノアは鏡を見て驚きに震えていた。


「な、なんでぇ!?」


 ノアは鏡を見ながら自分の体をペタペタと翼で触っている。


「カッコよく……お別れを告げたはずなのに……! アレでズキュンってして熱い再会を果たすはずだったのにぃ!」


 ノアはキズクの手の上で打ちひしがれるようにうなだれた。

 何が言いたいのかキズクには分からないが、ノアにとっても予想外の出来事であるのは理解できた。


「しかもこんなちんまりした姿なんて……」


「何が起きたのかイマイチ分かってないんだ。説明してもらってもいいか?」


 ついでに何に対してそんなにショックなのか教えてほしいと思うキズクであった。


「こんなことになるとは思ってなかった……」


 部屋に戻ったキズクはベッドに座る。

 軋むベッドと薄い布団を見てよくこんなので寝ていられたなと自分で感心してしまう。


 リッカはひらりとベッドに乗ってキズクの横で丸くなると頭を太ももに乗せて、不満そうにため息をついていた。


「こんなことってのは……」


「僕のこと。僕と君はまだこの段階じゃ会っていないだろ? それに力の使いすぎでちっちゃくなっちゃった……せっかく人の姿にもなれたのに!」


 回帰前に人の姿になったノアはクールお姉さん風だった。

 けれど今はアワアワとして話し方もゆったり感がない。


 クールぶったようなイメージが崩れていくようだ。


「いや……こっちの方がノアらしいかな」


「何が?」


「こっちの話」


 ノアといえば意外といたずらっ子でキズクも時に苦労させられたものだ。

 そう考えると今のこうして砕けた態度のノアの方がノアっぽいなとキズクは思った。


「俺はやり直し……うーんと、いわゆる時間を回帰したのか?」


 この現象について回帰と呼ぶのだろうということはキズクも分かっていた。

 時間が回帰した。


 あるいは時間を回帰させたとでもいうのか。

 キズクはノアの目をじっと見つめる。


「その通り。キズクは時間を回帰した。僕がそうさせたんだよ」


 ノアは腰に翼の先を当ててドヤ顔で胸を張る。


「時を戻す魔法なんてものがあるのか? それに時の神とか言ってたし……色々聞きたいことが多い」


 ひとまず時間が戻って過去に回帰してきたということは間違いないようだ。

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