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新たなるスタート3

「うん、全部説明するよ。約束だからね。でもその前にこれ何とかしてくれない?」


 リッカの鼻先はノアにつきそうになっていた。

 今の状態で一噛みでもされたらノアは美味しくいただかれてしまう。


「リッカ、落ち着いて」


 あまり他の人に敵対的な態度を取ることがないリッカにしては珍しい。


「ほれ! ほれほれほれ……」


「ワフン」


 ノアをベッドの上に置いてキズクはリッカをギュッと抱きしめる。

 そしてそのまま床に押し倒して毛皮に顔をうずめながらお腹をわしゃわしゃと撫でる。


 険しい顔をしていたリッカは激しく尻尾を振りながらうっとりとした顔をする。


「よーしよしよしよし」


 お腹、胸、顔とマッサージするように優しく撫で回す。


「出たな、キズクスペシャル……」


 キズクは生き物を撫でるのが上手い。

 なぜなのかキズクに撫でられるとすごく気持ちよくて抗えなくなってしまう。


 ノアも回帰前はよく撫で回してもらったもので、全身くまなく撫で回してもらうことを勝手にキズクスペシャルと呼んでいた。

 キズクスペシャルにかかるともはや逃れられない。


 リッカはお腹を上にして寝転んだままご満悦の表情を浮かべている。


「よし、これで大丈夫かな?」


 一仕事終えたとキズクは特に汗もかいてないけど額を腕で拭う。


「それじゃあ話し続けようか」


 キズクがベッドに腰掛けると反動でノアが浮き上がる。

 そのまま翼を羽ばたかせてキズクの足の上にゆっくりと降りる。


「まず……この世界に滅びが近づいていることは分かっているな?」


「ああ、もちろんだ」


 キズクは頷いた。

 今世界にはゲートと呼ばれるものとモンスターと呼ばれるものが溢れていた。


 ゲートはその向こうに異世界の一部を切り取ったような空間が広がっていて、そこにはモンスターと呼ばれる地球には存在しない特殊な生き物が住んでいる。

 ゲートの向こうの世界には魔力という特殊なエネルギーが満ちていて、モンスターは魔力を持っていて通常の生き物よりもはるかに頑丈で強かった。


 ゲートが現れて、モンスターが世界に出てきた最初の時はひどいもので、多くの都市や人が犠牲になった。

 その時に現れたのが覚醒者というものである。


 魔力によって力が目覚めた人たちで、魔力を操って魔法を使ったりスキルと呼ばれる特殊な効果を持つ力を使うことができる。

 覚醒者はモンスターを倒し、ゲートを攻略して世界に平穏を取り戻した。


 けれどもゲートは常に世界のどこかに出現し、攻略しきれないゲートからはモンスターが出てきていた。

 これまで世界はゲートとモンスターと上手くやってきた。


 魔力は新たなエネルギーとなり、モンスターやゲートで取れる素材は世界に新たなる技術や進展をもたらした。

 ゲートが現れてからだいぶ時間が経ち、ゲートやモンスターのある生活が普通となっていたのである。


 だが世界は滅びた。

 これからゲートが増え、強いモンスターが出現し始める。


 最後には人類が全力で戦っても倒せないようなモンスターが数体現れて人類は敗北、世界は滅びてしまうのだ。


「滅びが見えて神々の意見も割れた。神は人の世界に介入できない。でも人々が滅んで何が神様だ。たとえ世界のルールに違反しても人々を救うべきだという神もいた。その中の一人が僕だったのさ」


 ふざけた雰囲気もなくノアは語り始めた。


「他にもモンスターに落ちてまで世界を救おうとした神は何体かいる。僕はモンスターになった時に力を大きく失ってね」


「……どうして俺なんだ? 他にも才能がある奴、強い奴はいたはずだ。そんなやつに力を貸して、時を戻せばよかったのに」


「君はまだそんなことを言うのかい? もうわかっているはずだろ? 君には才能がある。世界を救う鍵となれるほどに」


「それは……」


 キズクは回帰前にリッカの記憶を見た。

 そこで知ったことは多い。


 落ちこぼれと言われて家を追い出されたキズクが本当はものすごい才能があったこともその一つであった。

 リッカの記憶によるとキズクの能力は高かったのだが、キズクの才能が露見することを恐れた弟のカナトによってデータが葬られてしまったのだ。


 それだけではないリッカの記憶によればキズクが落ちこぼれと呼ばれていたこと自体がウソのようだったのである。


「もっと自信を持って。一歩を踏み出してみれば世界は変わる……世界を救える」


「それで俺のそばにいてくれたのか?」


「僕は君なら世界を救えると思ったんだ。本当はもっと君に自信をつけさせてあげたかった……大丈夫だって、君は強いんだって言ってあげたかった……」


「どうしてそんな悲しそうな顔をするんだ?」


 しょんぼりとするノアの頭をキズクは指の先で優しく撫でる。


「情けないのは俺の方だ。努力をして、その先に何もなければ本当にただの落ちこぼれになってしまう気がして全てから逃げたんだ。それなのにノアはそばにいてくれたんだろ? 情けないと見捨てずにいてくれた。それだけでも俺は救われた」


「キズクは情けなくなんかないよ。君はそれでも頑張ってた。僕はちゃんと見てたよ」


「……ありがとう」


 キズクは微笑みを浮かべてノアのクチバシの下を撫でる。

 ノアはそこを撫でられるのが好きで、目を細めて顔を上げる。

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